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聖女の価値

綺麗なお姉さんは、お好きですか?

 王宮のホールは既に大勢の下位の貴族で埋め尽くされていた、彼らは王宮に控室など持てない、ましてや王都に屋敷など構える余裕などない経済力の持ち主達なので、これと言って行くところも無く、暇を持て余して集まり三々五々談笑をして過ごしているのだった。

本日は話題には事欠かない、聖女様の話で持ちきりだからだ。優しい、素晴らしい聖女様・・下位の貴族達は、聖女様によって王宮が、この国の政が変わる事に内心期待を寄せていた。


貴族とは言えど下位の身分では、王宮は決して居心地の良い所でも来たい場所でも無い。貴族として体裁を整える必要最低限の衣装でも、改めて誂えるとなると痛い出費となる。領地が遠ければそれだけ交通費・・派閥のトップ、高位の貴族に転移の魔術陣を借りるにも、魔力不足を補う魔石を用意するにも出費が嵩む。貴族は王都に住むものだと言われているが、下位の貴族は例外だ、領地を守るために常駐している。その点も貴族らしからぬと、高位の貴族に馬鹿にされる要因になっているのだった。さらにやっと王宮に到着したとしても、高位の貴族の強い魔力に連日晒され続けなければならず、心身<財布も>共に疲弊してしまう苦行なのだ。


王宮に、王族になど近寄りたくもない・・それが、下位貴族達の偽らざる本心だ。


下位の貴族達はもともとその身に備わっていたはずの、貴族特有の魔力の強い血を子を成して受け継ぐ事に失敗した人達だ。A級平民の子を成しやすい血を混ぜる事で、どうにかこうにか存えて、貴族としての体裁を保って来ていたのだったが。3代続いて平民の血が入っていては、もう中身はほぼA級平民と変わらない。上位の貴族達には無下にされるし、領民達には「領主様に強い魔力が有ったなら、魔獣も怖くないのに」・・と愚痴られる。結構つらい立場なのだ、詩乃が聞いたら中管理職の悲哀?とか言いそうだ。

そんな彼らは貴族である事や自分自身の存在に、それほどの価値も見いだせずにいた。領民が困るから、他に行く所も出来る事もないから・・ただただ惰性で毎日を繰り返しているだけなのだ。其処には工夫も、発展の喜びも何もない。ただ重苦しい荷を背負って、延々と続く坂道を登りながら生きている様なものだ・・下位の貴族の男がそう呟いていた。


「聖女様のオマケで此方に来た子は、聖女様に私達の現状をお伝えしてくれたかしら?」


騎士の彼女さん達と同様に下位の貴族の皆さんも、詩乃頼みで自分から動こうとはしていなかった。自ら王族や聖女様に直談判などしたひには、怒りの魔力に晒されて、命がいくつあっても足りないに違いない・・恐ろしい事だ・・と。


「でも、あの子。就任式には姿が見えなかったわね」

「そうね、いつも目立つ変わった衣装だったから、すぐに目に着いたのだけれど」


自分達の愚痴が原因で、詩乃が監禁される羽目になっているなどとは、これっぽっちも考えていない、ある意味脳天気な下位達の貴族の皆さんだった。

だいたい怒られる事が確定の案件に、何故関係も無い、異世界人の詩乃を巻き込んだのか?それは平民の中でも異例の出世を遂げている、騎士爵のヴィが進めて来たからだ。


「聖女にはおいそれとは近づけないが、オマケの小娘なら話しやすい。あれには聖女も心を許している仲だし、話は必ず聖女にまで届くだろう」

そう自信たっぷりに断言したのだ。

「俺がオマケを連れて行くから、嘆願でも要望でも、何でも伝えればいいさ」と。



「あの子の衣装を真似て、袖と腰や裾のフリルを取ったのよ。それだけで3歳の娘のお祝いの分に使う、衣装の布が余ったのよ~」

「凄いじゃない、母子でお揃いの衣装なんて、可愛らしくて素敵じゃないの?」

「早くあの子が来ないかしら、お礼が言いたいのよ」


新しい詩乃の衣装は、主に金銭的な理由で下位の貴族の流行になりつつあった。

一人では勇気がいるが、下位貴族、皆で纏えば怖くない。今回も何かまた面白い事をしてくれるに違いない、そんな期待をされている様だ、詩乃はやっぱりお笑い枠の様だ。



    ****



 主役は遅れて来るものらしい。


聖女様は御風呂でさっぱりし、マッサージを受けリラックスしていた。

直前まで女官長と女性神官補佐との、使う香油を巡ってのバトルが繰り広げられていて、一時はどうなる事かと思われたのだが。神殿アウェイと言う事も有った為か、女官長が渋々引き下がり、無事補佐が勝利を収めたのだった。

香りのキツくない香油を使うことが出来た聖女様は、とても安心して満足なさっていた。マッサージなるものにより、お体の疲れも取れたのか、お顔の色も良くなったので女官・神官は揃ってホッとしている。

お衣装を着ていただく前に、メイクと髪を結いセットしなくてはならない。


「聖女様は就任式も済み、大人の仲間入りを致しました、今晩お披露目をなさるのですから髪は必ず結い上げねばなりません」

これだけは譲れないと、女官長が出張って来た。


「お化粧は、あの子にしてもらう約束なのだけれど。あの子は何処?まだ、神殿に来てはいないの?」

聖女様は鏡の中に映り込む、全く表情の無い、能面の様に薄く笑っている女官長を見た。


「あの者は、少々風邪をひきまして。万が一、聖女様におうつしては大変なので離宮に残しております。看病の者も付いておりますので、ご心配は無きようにお願いします」


聖女様は鏡の中の女官長を、目を細くして眺めた・・嘘をついている。

それは解るが、今騒ぎ立てても仕方が無い。時間もないし。


「では、お化粧は自分でいたします。道具を此方に寄越してください」


その言葉に、女官長の柳眉が逆立つ。

どんなに反感を持たれても聖女様もこればかりは譲れない、はたして現代人が、エリザベス1世時代の様なメイクをしたいだろうか?全面白塗りで、血管の青筋を薄く描き、眉毛薄~の、頬紅グリグリ~~である。厚塗も、此処に究めたりである。


『御免被る、無理!・・<あの子>の真似をしてしまった(苦笑)』



聖女様はケイに手伝わせて、化粧の薄粉を数種類用意させ、何色か混ぜ合わさせて肌に近い色を作らせた。以前に魔術師長に手伝わせて、鉛や水銀など、毒になる成分を含んでいるさ旧来の化粧品は排除済みだ。恐ろしい事に女官長は、水銀入りの化粧品を、最高級品として疑いもしていなかった。

魔術師長を通じてこの件は告知したが、どのくらい広まったのか・・貴婦人達が、中毒になっていない事を祈るばかりである。


幸いな事に、まだ隠さねばならないシミも皺も無い聖女様は、薄く粉を叩いただけでふんわりとした綺麗な発色になった。頬紅はごく薄く顔色が良く見える程度に。眉はあまりいじらず、少し毛先のカットだけをした。此処では半円形の、アン〇ン〇ンの様な眉毛が流行中だそうだが・・・断る!

黒い瞳はエキゾチックに見える様、切れ長にアイラインを入れた。目じりにほんのり紅を差すのは和風の化粧を意識しての事だ、口はピンク色の口紅を塗った後はちみつで艶を出す。


「こんなものかな・・」

是非、同じ世界出身のあの子の感想を聞きたい所だが、あいにく此処にはいない。


しかし女官長は納得いかない様だった、化粧が薄すぎてこれでは下位の貴族の様だと言い張っている。

「これでは高位の貴族の笑いものになる事でしょう、ご忠告いたします。今すぐお直しください」

そこまで言った。


「問題ないですわ、聖女様はそこにいらっしゃるだけで光輝いておられますもの、下位の貴族などと格が違います。むしろ厚塗の化粧をしている高位の貴族の方が滑稽では有りませんか、そこまで厚く塗り込めないと自分の格が保てないなんて。お化粧が尊い訳でもあるまいし」

補佐が愉快そうに笑う、ほほほ・・・。

女官達も、まぁ同意見なのだが・・神官の言う通りと言うのも癪にさわる。


「御髪は如何なさいますか?」

また揉めると面倒なのでケイはさっさと先に進める事にした、今までは神は後ろに流していたので結った事が無い、複雑な編み込みを希望されたら御前を女官達に譲らねばならないだろう。


「髪を緩く編み込んで、長いおさげにしてグルッと頭に回して頂戴な」

イメージが掴めないのか、不思議そうにするケイに、見本になって頂戴と椅子に座らせようとする。女官長の顔色がさっと変わった、主を前に仕えるものが椅子に座るなど有りえない。


「聖女様、それだけは、お止めくださいませ」

「此方の髪型は、やたらに頭が大きいのだもの。滑稽で私は嫌なの」


結局、聖女様は脇にお座り頂いて、正座している見習いの子供の髪を、中腰のケイが聖女様の指導で結ってみる事となった。

なるほど、これは簡単で早く可愛らしい。


「聖女様、この髪型はきっと流行になりますよ。何て言う名前の髪形なのでしょうか?」

「・・・え~~と、エル巻き?」


ごく薄く髪油を付けて艶を出し、髪を結っていく・・黒い髪が光を帯びてツヤツヤと美しく輝いていく。とても綺麗だ、髪色が金と銀に特化しているほど魔力が強く美しいとされているが。聖女様の黒髪は、この世界に新しい評価を生み出すだろう。


女官長が魔力を遮蔽する箱の中から、沢山の魔石を付けた豪華な髪飾りを持ち出してきた。強い魔力に神官たちの顔が歪む。


「こちらは、第1王子様より贈られました髪飾りです。お使いください」

拒むことを許さない、断固とした強い態度だ。


聖女様は眉間に薄く皺を寄せて、しばらく髪飾りを見つめていたが。

「これには誘惑の魔術が掛けられています、神官たちは触らない様に。女官長、それを箱にしまって魔術師長に届けさせなさい。今度はハッキリした証拠になる事でしょう。それともこの件について、女官長も係っているのですか?」

静かな声で聖女に問い詰められて、女官長は慌てて被りを振る。


「とんでもございません、それに此方には第2王子様からも贈られた首飾りもございます」

慌てて取り出した箱には、やはり魔石をどっさり使ったネックレスが収められていた。


チラッと見た聖女は。

「御一人だけのプレゼントを身に着ける事は不味いでしょう、いらぬ憶測を呼びます。女官長、送り返しておいて下さい」

一刀両断にぶった切った。


聖女様に目配せされたケイは、バララの花の髪飾りとチョーカーを持って来た。詩乃が聖女様の成人のお披露目の為に作った、布で作ったコサージュの様な感じの飾りである。女官長に取り上げられる事を恐れて、事前に神殿に持ち込んでおいたものだ。詩乃の制作した物だと悟った女官長は、怒りに顔を歪めていたが、ほんの少しの事なので誰も気づいてはいないだろう・・聖女様以外は。


『何故そこまで<あの子>を嫌うのか。私と引き離そうとするのか、本当に理解不能だわ』


多少の波風は有ったが、御仕度は粛々と進む。

聖女様が纏った衣装は、見慣れない形のドレスだった。

従来の様に、横幅を誇る形ではなく細身で長いドレープが目を引いた。シンプルだが、それ故にスタイルの良さが際立つ新しい形の衣装。細かい光る素材が沢山付いていて、動くと光を反射してキラキラと袖や胸、スカートの部分が輝いている。背中に流れる透ける様な薄手のマントも、風に膨らみ揺れて儚げな美しさを表していた。


ドレスを身に着け、すべての飾りを付けた聖女様は大変に美しかった。

強い魔石のアクセサリーに頼らなくても、聖女の威厳は十二分に表されていた。

詩乃が作った布のアクセサリーは若い聖女の可愛らしさを引き立てていた、やはり、この世界でも大きな石をゴテゴテ付けるのはオバサンの象徴の様だった。

この世界とは、違う美の価値基準を持ったドレスだったが、そんな事は気にならない。文字通り、別次元の・・異世界の美しさだった。



「神殿騎士が王宮までエスコートいたします、すでに正面玄関に待機しておりますので。ケイ、其方まで聖女様をご案内するように」

補佐の言いつけで、ケイは聖女様を神殿の玄関までご案内する。

本来なら神官全員が、聖女様をお見送りするところだが、此処にいる女官長達を神殿の玄関に立たせることは出来ない。何事にも縄張りと言うものが有る、女官達が裏口から出るまでは、目を光らせていなければならないから人手がいるのだ。


この化粧する控えの間から、玄関は角を曲がって30メートルも離れていない近さだった。今日は3メートルおきに、白騎士も警備に立っている手はずだ。それ故に、補佐も油断してケイ1人に声を掛けたのだろう。




そう、ほんの目と鼻の先に、入り口は有ったのだ。

・・・玄関以外にも。


いよいよアクションシーンに入るのか?

難しいからなぁ~~~詩乃だしなぁ~~~。



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