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それぞれの思惑

お久しぶりの聖女様です。

 聖女様は、一人で沈思黙考する時間を大切になさっている。


神殿での聖女の就任式や、その後のお披露目の準備等の打ち合わせなど、今日も予定が盛りだくさんだった。その本日の予定がすべて終わり、神殿の簡素な食事と湯浴みを終えると、聖女様が思考できる唯一の自由時間なのだ。


女性神官で、聖女様のお世話周りを担当しているケイは、気分の落ち着くハーブティーを用意すると聖女様を残し退室する手はずとなっている。

聖女様は湯浴みが長い、ちょうどいい温度でサーブするのはタイミングが難しい。そろそろ、お湯を沸かそうかしら・・他人が魔力で出した水は、相性が有り不味く感じる事が多いのだそうだ。そのためケイは聖女様用にと、神殿の<聖なる泉>から、毎回湧水を汲んで来てはお茶に使っていた。泉の水は大地から染み出した純粋な魔力が含まれるそうで、ケイのような魔力の弱い者にはきつい感じのする水なのだが、聖女様はその水で入れたお茶を事の他喜んでくださったからだ。自然の力が、御身の中に宿る心地がすると仰る。

聖女様に憧れているケイは、遠い泉からの水運びも苦とはせず、聖女様に喜んでもらおうと日々頑張っていた。


『そういえば水運びの途中で、お顔を知らない白騎士様に聖女様に確かに渡してくれと頼まれた書類を持って来ていたんだっけ』

見慣れない騎士様だったが、下位の女性神官であるケイが、目上である騎士様の申し出を断るのは難しい。騎士様なのだから、当然許可は取ってあるのだろうと思っていたのだが。


「あら、これ許可済みの印が無い」

神殿で聖女様にお渡しする書付などの書類は、すべて神殿長の検閲が入り許可された物には<許可済み>の印が押されているはずなのだがその印がどこにもない。どうしよう私事の願いなどは、もれなく神殿長を通さなければならないのだが。


迷っているうちに聖女様が湯あみから出て来た、聖女様は湯浴みぐらいはノンビリと一人になりたいと仰って神官達の世話を受けようとはしない。

ケイは慌ててお茶の用意を始める、初めは少し冷たいお茶で体を冷やしていただくのだ。ケイがそちらに気を取られているうちに、聖女様が机の上に無造作に置いた書類入れの袋に気が付いてしまわれた。


「あぁっ!」

焦るケイをしり目に、聖女様はパラパラと書付を撒くって・・静かに顔色を変えた。


「貴方、この書付を持って来たのは、どのような人物でした?」

強い瞳で見つめられて、思わず後ずさりする。


「怒っている訳ではないのです、良く届けてくれました。これは私の召喚に巻き込まれて、この世界に来てしまった同胞の少女の手紙です。私の事を心配して、手紙を書いてくれたのですよ」

聖女様は手紙を見せて下さったが、本当に見たことも無い様な変な字で、この世の物とは思えなかった。


「誰か親切な騎士が届けてくれたのでしょう、離宮の者達は権威的で少女を良く思っていないのですからね。届けてくれる訳がないのです」

お礼が言いたいのに、困ったこと・・。聖女様は頬に手を当て、首を傾げて見せた⦅困ったこと・・、このポーズは異世界ノベルではお約束なのです⦆あの子が言っていた通り、このポーズはあちらこちらで、かなり役に立っていた。これで聖女の要求を聞かない者はいなかった、美人は自分の顔面の使い方を良く心得ている。


「え・・っと、白い騎士服でしたから神殿騎士様に違いありません、この辺では面識のないお顔でした。お顔は・・多分貴族の方だと思います、淡い金髪に薄い紫がかった青い目をしていましたから。他の騎士様のように、魔力を振りかざして威張った感じが無い穏やかそうな方でした」

流石にケイも女の子・・相手の顔面には厳しいチェックが入っている。


「そう、有難う・・この事は誰にも言わない様にして下さい。大した内容ではないのに、痛くも無い腹を探られるのは不愉快ですから。お願いね」

憧れの聖女様にお願いされたケイは、コクコク首を振って了承した。


「ご苦労さまでした、下がってゆっくり休んで頂戴ね」

手紙が気になるのか、聖女様は早々に机に向かった。


ケイは挨拶をすると静かに部屋を後にした、聖女様が振り返る事は無かったが・・中位の神官でも良くある事だ。ご苦労様さまと声を掛けてくれるだけ聖女様は御優しい。ケイは聖女様に頼まれたのだから、手紙の事は黙っておく事にした。神官長と聖女様だったら、聖女様の方が尊いではないか。それにケイは神殿長が隠れて戒律を破り、密かに王都に妻子を住まわせている事を知っていた。ズルい・・ケイはA級平民と子爵との間に生まれた子供だったが、子爵は魔力の低いケイを心良く思わず、見習いの歳を待たずに神殿に放り込んだのだ。

『私は一生、此処で飼い殺しにされるのだ』

尊敬する聖女様が、少しでも長く神殿にいて下されば良いのになぁ・・。ケイはそう思いながら自分の部屋に帰っていった。



    ****



 聖女の部屋は監禁部屋であり監視部屋だ・・・。

あちらこちらに魔術具が設置してあり、絶えず行動を観察されている・・私はパンダか!苛立ちは募るが所詮魔力の弱い神殿の者がやる事である。

聖女は自分の周囲に常に結界を展開しているし、魔術具に向かっては絶えずジャミングをし掛けている。それが酷いノイズが発生させ、魔術具を作動できなくしているのだ。神殿側は故意の事だとは露とも思わず、聖女様の魔力の強さの為だと褒めたたえている・・お目出度い頭脳の持ち主たちと言えなくも無い。



手紙を広げ、懐かしい日本語に目を滑らす。

⦅聖女様お元気ですか?神言覚えるのは大変でしょうが、根を詰めてくたびれない様にしてくださいね⦆

丸っこい漫画字の様な、ある意味読みやすく、あの子を体現しているかの様な伸びやかな字で懐かしい日本語が書かれていた。聖女は一度ざっと読み、頭を抱えてじっくりと2度3度と読み返した。


手紙の余白には、此方の文字で<お嬢様は、女官長と第2王子の逆鱗に触れて、裁縫室に監禁されてしまいました。助けを呼ばれて泣いています、どうぞお助け下さい>と書いて有る。下手糞な字だ、貴族では無くメイドの字だろう。仕掛けて来たのは平民達だろうか・・目的は何なのか?


あの子の手紙には、

下位の貴族の嘆願の他、王宮内のA級平民の不満と嘆願。

地下通路の発見と脱出用なのか通路が王宮中に網羅している事、通路を使い王宮を抜け出し王都の街へと行った事。王都の人々の暮らしの様子、生活水準の所見、治安の様子などなど。


あの時詩乃が読み上げて、王子が聞いたレポートより多岐に渡って書かれていた。


王都で聞いた地方の人々の暮らしの様子と、魔獣に対抗する騎士団への尊敬と、手配の不備からの不満。

王宮にいるA級平民騎士の実力が未知数な事、質より量で、貴族とのパワーバランスが変わる可能性があること。貴族騎士と平民騎士の待遇が違い過ぎて、騎士や家族から不満が溢れそうな事。王族達のメイド達の評判と、平民からの評価の違い。


⦅①王子は顔だけ王子と呼ばれ、②王子は独断専行の人の話を聞かない、無駄に自信を持っている王子と言われています。二人とも見目は良いのにね~、だそうです。メイドさん達もなかなか、よく見ていると思いません?⦆


少しでも聖女に情報を届けようと思ったのだろう、細かい字で沢山の事が書いて有った。


『それにしても、地下通路を通って外にまで出かけるとは、案外アクティブな子だったのね』


王都で味わった食べ物の感想や、出会った子供たちの様子・・地図屋で見つけた異世界の図はイラスト入りで描れて有った。それを描いた前聖女を召喚した大魔術師と、今の魔術師長・銀ロンが、双子の様に似ていた事を知った聖女は、師長から度々贈られて来るプレゼントと手紙を<読んでも意味不明な詩のような代物だったが>まとめて送り返してやろうと心に固く誓った。


⦅そうそう、魔術師長の銀ロンは魔力が釣り合う女性がいなかった為に、結婚を諦めていたようですが、聖女様の出現で希望を持ったようですよ。女性に免疫が無い分チョロい奴かもしれません。王子達よりマシだと思いますが如何でしょう?別に推薦している訳では有りませんが、平民と貴族が争いになった時には、一番無難な立ち位置にいる奴だと思っただけです。ぜひとも飼いならして、聖女様の忠犬にしてやってくださいませ⦆


・・ラベノの読み過ぎよ、あの子ちゃん。あのキモイ詩を読んでも同じ事を言えるかしら?あなたに譲ってあげるって言ったらどうする?魔術師長は結構あの子の抗魔力体質に興味を持っていて、実験したいと言っていたっけ。人体実験?何のかしら?R18だったらどうする?


無理!・・・顔を真っ赤にして、怒るあの子の顔を思い浮かべる。

うふふふふ・・・・聖女様は久々に、屈託の無い顔で笑った。



    ****



 詩乃の書付が聖女様の手に渡って、3日が過ぎた。


「まだ動きが無いか意外と冷静な娘だな、同胞の小娘が監禁されようと気にもならないのか。監禁された事実と、あの書付を見て頭に血が上り、すぐにでも第2王子に抗議をする為に動くと思っていたのだが」


「この世界の女性じゃないからな、すぐに男に縋ったり問い詰めたりするのを良しとしないのかもしれない」

貴族に見える白の神殿騎士様・・手紙を下位の女性神官に渡した張本人だが。

いつもの通り静まり返っている神殿を見上げて不満そうに呟いた、騎士の衣装さえ着ていれば怪しまれず神殿のどこにでも入り込める。青色と白の平民騎士は、ツーカーの中だった。



「第2王子に抗議して泣き濡れている所を、偶然現れた第1王子が颯爽と助ける・・と言う筋書きだったのだが。怒りもしなけりゃ泣きもしない、手を出したくても神殿の奥じゃぁどうしようも無いか」

生意気な女だな、王妃と言い知恵の回る女は苦手なんだ・・気分が悪いようにヴィが話す。


「こうなったら、手荒な手段を取るしかないか」

・・・聖女様の周りが、更に物騒になって来た様だ。



   ****



 その頃、各方面に放置と言うか、無かった事にされている詩乃が何をしているかと言うと。暇な時間を使って、セッセと布細工のアクセサリーを作っていた。

<聖女様の就任式>の前夜祭には、また子供たちが広場にお店を出すそうなのだ。




 詩乃の観察によると、騎士達は昼食前頃に地下通路を使って外に出て、交代で仕事をサボってプラプラしている。だから、その合間の時間を縫って、詩乃は外に買い食いする為に出かけていたのだ。


『軍の行動食なんか、不味くて食えたもんじゃない。断固断る!』


でも以外な事に行動食は旅人には便利グッズらしく、横流しで売ったら案外良い儲けになったのだ。5日分の行動食で、8日分の買い食が出来る感じ?儲けた!


そんな感じでプラプラと街を歩いていたら、以前にケーキを買ったパン屋の兄弟に出会い、前夜祭と出店の事を教えて貰ったのだった。あの時パン屋のお姉ちゃんは、店が忙しくて詩乃の花を買えなかったそうで、今度は是非手に入れたいと言われたのだ。嬉しいじゃないのぉ!


『これは儲けにゃぁ、あかんでしょう~』


監禁を解かれてドナドナされる前に、離宮をトンズラしようと心に決めている詩乃は資金の為の制作に余念がない。なるべく沢山作って、出来る限り逃走資金を増やしたい。

「あ~肩が凝ったぁ・・くそぉ・・頑張るぞー」


・・・それぞれの思惑の為に、密かに準備が始まっていた。


銀ロンなりに、聖女様にアプローチをしていたようです。

詩乃は密かに銀ロンを応援しています、理系な感じがお父さんに似ているから。

・・・お父さん(笑)


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