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監禁されました

 女官長は②にとても忠実で、彼の命令には絶対服従だった。


詩乃に見張りを付けると風呂に放り込み、庭師の作業着を取り上げ、もう二度と着る事も無いだろうからと焼却処分するように命じてメイドに渡してしまった。

また詩乃の私物を裁縫室に運び込むよう指示を出し、作業机を端に寄せるとベットを運び入れた。衝立の内側に簡易トイレも設置して、瞬く間に完全なる座敷牢を作り上げた。


湯上りの詩乃に魔術具の簡単な説明をすると、メイドを引き上げさせ部屋に詩乃を一人残し扉を閉めた。そしてメイドに板を数枚持ってこさせると、きつく結い上げた白髪頭を振り乱して、自ら釘で扉に板を打ち付け扉が開かない様に補強した。止めにどこからか鎖を取り出すと、取っ手に巻き付け南京錠で施錠をした。詩乃を此処から出さない事も大切だが、余計な人物からの接触も避けなければならない。これだけすれば双方諦める事だろう、女官長は良い仕事をしたと自画自賛していた。

その様子をメイド達は、唖然として眺めているだけだった。



『こりゃぁ、テン〇ウさんじゃ無けりゃぁ脱出できないね』

詩乃は監禁された部屋の中で、湯上りの髪を乾かしながらノンビリと思っていた。

ちゃらら・らら~~~んらららららん~~~ん、例の曲を脳内再生する。

女官長はノイズはともかく、皮膚感覚は相当アタリがキツかったから、嫌われている自覚は有ったけれど、これ程までとは思わなかった。

侮れんな、婆。

単純な大魔神より、敵意と侮蔑は強く感じていたのだ。取り繕っていても、皮膚感覚で察する詩乃には感情は隠せない、だから詩乃も婆の事は嫌いだった。お互い様だ・・お相子だ。



 女官長は鍵の具合を確認する為に、ガチャガチャと音も大きく引っ張ってみた。

小娘は何の反応もしない、生意気な!反省も、恐怖を感じる事も無く、泣きもしないなんて。最も今更謝って来ても許しはしないが、あの小娘はこの世界のすべてを拒否し否定していた。なにが異世界人だ、この世界の苦労を何も知りもしない癖に。女官長の用意した食事は軍の行動食のみで、箱の中に乾燥した食べ物が入っている物だった。それを日数分より少なめに棚に並べてやった、行動食は皿に中身をあけ自分の魔力で水を注ぎ、自力で温めなければならない。詩乃の魔力では、かなり難しい作業になると女官長は思っている。

≪春の女神の祝い≫のすべてが終わるまで、約10日間・・小娘は此処で、苦しい生活をおくる事になるだろう。しかし、それで見合いを拒否する元気は無くなり、素直に結婚し王都から去っていけるに違いない。口では偉そうな事を言ってはいたが、小娘はこの世界の現実を何も知らない。女が一人で生きて行けるほど、なま優しい世界ではないのだ。大人しく嫁いで歳が離れていようが、相手に可愛がってもらい、生きて行くしか術がないではないか。


   *****


 女官長は、落ちぶれ伯爵家の長女に生まれた。

母は彼女しか子供を授かれず、残念ながら女では爵位は継げなかった。婿に来たい程の魅力の有る領地でも無かったため、一人娘である女官長の結婚話も難航を極めていた。

父親の伯爵は仕方が無く、A級の平民の女を連れてきては子供を産ませていた。それでも残念ながら男児には恵まれず、生まれて来たのは魔力の少ない女の子ばかりで有ったが。生まれて来た子供を放りだせるほど悪党にもなりきれず、子供たちはすべて伯爵家に引き取られていった。いやがおうにも女官長は6人の妹を持つ身になったのである。両親は子供を顧みる事が無かった為、歳の離れた妹達の世話や躾は、すべて女官長自らが行っていた。


やがて女官長は成人すると王都に移り住み、王宮の女官として働き始めた。

領地での収益が少ない為、少しでも仕送りをして助ける為である。王宮の仕事は辛い事も多かったが、故郷の惨状を思えば食事は出来たし眠る所も有った、御付きで演劇や演奏会にも触れる事が出来た。何より給料が良かったのだ・・A級の魔力を持つ妹達には、王都で仕事を見つけ斡旋し、結婚相手を探し相応の花嫁支度を整えて嫁がせてやってきた。

魔力の少ない妹達には、自分の家より豊かな領地の貴族に話を付け、平民としては豊かな家へ縁付かせた。妹達すべてを嫁がせた時には、自分自身はすでに行き遅れの周回遅れで、老いを自覚する歳となり、王宮では古参の女官長の一人となっていたのだったが。


『妹達のすべてが、幸せに暮らせている訳では無いけれど。それでも、食べる事が出来て、眠れるベットがある』

それ以上の暮らしを望まれても、そんな暮らしを女官長自身が知らなかった。

『多くを望めば、多く失望するものだ。贅沢を言ったり、恨み言を言ってもしょうがないではないか』



召喚当初、筆頭女官長が聖女様の御世話を取り仕切るはずだった、しかし聖女様に嫌われその任を解かれた。何故か紛れて召喚されて来た、厄介者のオマケの奴隷の小娘の手に鞭を入れた事が、聖女様の御不興を買ったのだそうだ。

小娘は聖女様のお大事・・そう認識したからこそ女官長は、聖女様の部屋の継の間に、貴族の娘相当の設えを用意してやった。特別待遇と言っていいだろう。

それが何が気に入らないのかサッサと出て行き、あまつさえ神殿の騎士まで使い、部屋を作る勝手をされた。王族の集まる晩餐の会場で、神殿長に嫌味を言われた時には、眩暈がして卒倒しそうになったものだ。そのうえ聖女様には、メイド達の教育や人事にまで口を出された。これでは女官長として、顔を潰されたも同然ではないか。我慢を重ねて用意してやった貴族の女児用の服も、ハサミを入れられ変えられた。改造した服は、確かに小娘に似合っていったが・・そういう問題ではないのだ。

貴族の流儀を拒否し、女官長の好意を無碍にした事になるのが、胡乱な小娘には解らないのだろうか。


『小娘はこの世界に、貴族の暮らしに馴染むつもりはないのだろう。誰の名前も覚えず、助けを乞う事も無い。自分の世界の流儀を振りかざし、あまつさえ王子にまで食って掛った。何様のつもりなのだ』


せいぜい餓えて、苦しむがいい・・小娘が気に掛ける平民の様に・・

自分の顔が歪むのを感じた女官長は、

『私はあの生意気で、恐いもの知らずの・・あの小娘が嫌いなのだ』

と意識から無理やり追い出していた自分の本心を自覚した。


『いっそのこと、妻を亡くした貧乏で女好きな、くたばり損ないの爺に嫁がせてやろうか』

それでは、私があの小娘を<お母さま>と呼ばねばならないか・・クスッ。

あの娘の持参金は魅力的だ・・ククク・・不気味な笑いを残して、裁縫室から離れて行った女官長だった。その後ろ姿を見ていたメイド達は、お互いの顔を見合わせ、それから板が打ち付けられた扉を見た。

女官長にだけは、逆らわずにいよう・・。メイド達は目で語り合って、それぞれ自分の仕事に戻って行った。



    ****



 どんなに隠しても人の口には戸が立てられない、詩乃の一件は、あっという間に離宮中の者が知る事となった。


「軍の行動食?あんな不味い物、あのチビが食べられるのか?」

調理室の料理人達は詩乃の食いしん坊ぶりを知っている、初めはチョロチョロと五月蠅いチビだと思っていたが、片付けの仕事は手を抜かないし、たまに賄いを任せると余り物で美味い物を作る面白い存在だった。くず肉を集めてミンチにし、卵と丸ネーギュのみじん切りとスパイスを混ぜ、平たく潰して焼いたハン・ハーグは美味かった。男だけのムサイ職場に、トンチキな訳の解ら無い言葉でだが、一生懸命教えて貰おうと話しかけて来た詩乃は、職場の潤いと・・言えなくも無かった・・のか?う~~ん、微妙?


「聖女が神殿に籠ると、チビはどこかのロリコンで助平で辺境の貧乏貴族に連れられて、王宮を去っていくらしい。女官長の人選だ、碌なもんじゃぁ無いだろうよ」

「A級平民ではないチビは、王宮にいる資格は無いかもしれないが、いくら何でも酷いじゃぁないか」

「差し入れしてやれないのか?」

「扉に板が打ち付けられて、取っ手も鎖でぐるぐる巻きらしいぞ」


貴族の出の女官長に、ここまでやられたら平民の俺達に出来る事は無い。


「不味いだろうが頑張って食うしかないか、戦場じゃーあるまいし女官長の奴」

「明日から、お前が後片付けだキッチリやれよ」

料理長はそう言葉を残すと、一人外に出ていった。


見習いの少年は一人調理室に残り、明日の下拵えを始めた。

明日の朝はパンを焼く日だ、生地を捏ね寝かせておかねばならない。

独りで作業をするのは久しぶりだな、チビが五月蠅くのぞき込んでこない。

なんだか、それが妙に寂しい。

まだあんなチビなのに、ロリコンの、助平の、禿頭の、デブ親父で鼻毛が出ている、意地悪婆のいる貧乏田舎貴族の所に行くなんて。

・・・悪口が増えているが、彼に自覚は無かった・・・。

何だか胸がモヤモヤする、初対面ではチビの水に押し流されて、あやうく溺れるところだったが・・自分がチビの事を、案外と気に入っていたのを自覚した途端に別れになるとは思わなかった・・。見習い君はちょっとだけ滲んだ視覚を、慌てて袖で擦り上げ無かった事にした。



    ****



 料理長は地下通路を通って、白色・・神殿騎士の溜まり場に行った。

料理長は怪我をして退役するまで騎士団の賄い方だったのだ、ヴィとは同じ不味い現地調達の魔獣肉を食べた戦友でもある。目当てのヴィはすぐに見つかった、どこにいても人の目を引く、不思議な雰囲気を持つ男だ。


「よ、聖女様の料理長。どうした?こんな時間に、珍しいじゃーないか」

酒が入っててご機嫌の様子だ、何か良い事でも有ったのか?


料理長はヴィに、今日の事件の顛末を話した。

何か書き物をしたチビが女官長の怒りに触れ、第2王子と忠犬に呼び出され、口論した挙句に部屋に監禁されたと。扉に板が打ち付けられ、会話すらできない状態で食事は軍の行動食のみなんだと。


「くくくくく・・・あっはははは・・・・」涙を流して笑うヴィ。

どうしたんだこの男は・・訝し気に見る料理長の目の前に、紙束を差し出して見せつける。


「チビが書いたのはこれだ。女官長に報告する前に、チビが何か書いたら、写し取っておけとメイドに言っておいたんだ。転写の魔術具は便利だな」

俺様に惚れているメイドは何処にでもいるからな、男より使い勝手が良いぜ。


「これは字か?変な文字だな。何が書かれている?」

「おおかた舞踏会で引き合わせた、貧乏な下位貴族の愚痴話よ。

聖女様への嘆願書だろう、真面目だなチビは・・聖女に渡す機会を狙って文書化しておいたのだろう。そうか・・女官長だけでは無く、王子にも見つかったか。挙句に口論と、監禁か・・面白い・・。この話、聖女に漏らしたら、第2王子への心証は最悪になるだろうぜ」


『・・思ったより、いい仕事をするじゃないか、あのチビは』


「大丈夫だ、めったな事で潰れるチビじゃぁ無い、心配するな。

知ってるか?あのチビ、王子の駄犬を吹き飛ばして、離宮の窓をぶち壊しやがった。

対攻撃用の結界が張られている、離宮の窓をだぜ。あれで魔力が無いなんてあり得ん話だ、どいつもこいつも、御大層な顔に付いている目は節穴か?」


面白い玩具は、多いほど良い。



ご機嫌なヴィに、気味の悪さを感じた料理長だった。


女官長は、やっぱりお見合い婆でした。

妹専門の・・・。

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