VS ②
喧嘩は勢いと・・申しますな。
一日中庭で働いた疲れより、心の疲れの方が酷かった。
重い足と心で、離宮の裏口までトボトボと帰る。作業着は土埃で真っ黒だ、よく払ってからじゃぁないとまたメイドさん達に叱られる。はぁ~。ため息を吐くと幸せが逃げるって言うけれど、幸せって何だっけ?・・なんか、そんな歌があったなぁ~~。ぼんやり考えながら裏口の扉を開ける。
「貴方、何やらかしたの?女官長が至急おいでなさいと魔獣の形相で待っているわよ!」
いきなり何んだろう、焦り気味のメイドさんが複数で待ち受けていた。
「わ タシ 無実 おコラ れ ナー」
着替える事も叶わずに、手を引っ張られて女官長の元へと急ぐ・・何故か応接室の方に向かっているのですけれど?あぁ~またまた、嫌な予感。
嫌な予感は的中し、応接室には女官長・大魔神・②と最悪トリオが揃い踏みして待っていた。女官長の腫れぼったい目が薄く開いている、警戒警報発令だ!注意喚起だ!魔獣の形相とはこのことだ!
「これは、いったい何なのです?」
女官長が乱暴にも詩乃の足元に、何枚かの紙束を投げてよこした。
・・それは、先日の舞踏会で下級貴族に愚痴られた困り事のあれこれを、項目別に分けて箇条書きにした詩乃が書いたレポートだった。当然文字は日本語で、聖女様しか読めないのだが。別に悪い事をしている自覚がサラサラ無かった詩乃は、自室の机の上に置きっぱにしてあったのだ。
「貴方が此処王都を離れて辺境に行かなければならない理由の一つは、こう言う事があると困るからなのです。何の権限も無い貴方が、聖女様に口利き出来るなどと努々思わない事です。誰の差し金で何を書いたのです正直におっしゃい」
かなりお怒りの様だ、ぶ厚い瞼がぴくぴくしている。
「誰 知りセン、大勢 人、苦情 言っましたよ。名前 覚える 無かね。困っテる、聖女様 王族 助ケ 欲しです」
詩乃は紙を拾い上げると読み始めた。
〇魔風が酷く収穫量が減ったにも係らず、納める税は増えている。平民達が餓えて困っています、減税と食料の配給をお願いします。
〇穀物に病気が発生しました、専門家の派遣をお願いします。病気を押さえる為、焼き払わなければならない場合、徴収の停止と暮らしの保証をお願いします。
〇魔獣の被害者に補償金を配布してください。騎士の到着が遅すぎます役に立っていません、駐留経費ばかり掛かって迷惑です。
〇王都の負債を、地方に押し付けないで下さい。
〇社交界に来るのが大変です、4年に1度くらいにしてください。
〇街道が傷んできています、早急に整備を進めて下さい。
〇河川の整備をお願いします、毎年氾濫して困っています。
〇下水道の整備が遅れていて、不衛生な環境から病気の発生が心配されています。予算を下さい。
〇平民の教育に予算が必要です、子供たちの健康の為に無償で給食を食べさせて下さい。
〇怪我人や病人が手当てが出来ません、病院の建設と医療系魔術師の派遣をお願いします。
〇A級の平民を地方にも残してください、魔獣が来た時に騎士が来るまでの間、足止めする兵士にA級の平民が必要です。
〇王族の必要経費を押さえてください、税の使い道を公表してください。無駄遣いをしないでください。
〇横暴な高位の貴族から、下位の貴族を守って下さい。王国への税の他、高位の貴族からもお金を取りたてられています。
〇贅沢をしている貴族より、平民の暮らしを守って下さい。
1枚目の紙を読み終えた詩乃が、次に移ろうとした時・・・
「もうよい、黙れ!」
②が止めた。苦り切った顔をして、今にもブチ切れそうなノイズを発している。
女官長と大魔神は想定外な事なのか、口をあんぐり開けて呆然としていた。女官長が思っていた口利の種類と随分と違っていたようだ。詩乃としても、せっかく上手に読めたのに途中で止められるとは心外だ。なんかね、日本語に書いてある文字を読むと言葉がハッキリするみたい、詩乃の言葉であっても詩乃の言葉じゃないせいなのか?
「平民 近、下 貴族 話 聞クは、為政者 大事では?」
無駄飯食ってるんじゃないよと内心毒づいた詩乃が、続きを読もうと紙を持ち上げた時・・バァアン、大きな音と共に紙が燃えだした。
「どあっちぃ!」
発火の魔術・・小娘相手にやる事か!熱いじゃないか、火傷をしたらどうしてくれる。詩乃は思わず②を睨みつけた。
「聖女にはこの様な余計な事は一切話すな、こんな内容は誰にも喋るな秘密にしておけ。いいか、これは命令だ」
聖女には泥臭い政の話は相応しくない、彼女を煩わしい事に係わらせる気はないのだ。彼女には美しく、幸せな生活して欲しいからな、残酷な現実は必要無いのだ・・・。
「はぁ?」
案外初心な②は、逆上せ上がって聖女様の本質を見ていないようだ。
何ほざいているんだろう、馬鹿じゃなかろうか?
「それって変じゃぁないですか?此処に召喚している時点で、十分煩わしい事に巻き込んでいるのに、今更じゃぁないですか。聖女様は王妃候補と聞きました、為政者になられる人なんですよね?平民の事を知らなくて、どうやって王妃になるんですか?秘密にされて、何も知らなくて・・ある日突然王妃として責任を取れとか言われたひにゃ、どうするんです、そっちの方が残酷でしょう」
聖女様がマリー・アントワネットみたいになったらどうすんだ!オ〇カルは居ないんだぞ!詩乃は漫画で学習済である、思えば詩乃の知識は漫画からの出典がほとんどだ。詩乃はオ〇カル様枠では断じてない、モブでしかないのだ。
生意気な口を叩くな、大魔神が怒って詩乃に詰め寄ろうとする。詩乃は大魔神を見ずに、手のひらを向け近づくのを止める。近づくな!
「聖女様は愛玩動物じゃありませんよ、彼女を見くびらないで下さい」
聖女様はあちらの世界で、高位の文官を目指して勉強に励んでいたんだ。そして大変優秀な成績で、将来を嘱望されていた存在だった。夢は世界中を飛び回って仕事をし、国民を幸せにする事だった。それを邪魔したのは、あんた達だろう!もう十分不幸せじゃないか。此方の王族の女性の幸せ像が、どんな生活なのかは知らないが、それが聖女様の幸せだとは限らないだろうに。彼女は仕事がしたかった、人を平民を幸せにする仕事がしたかったんだ。
余りにすらすらと喋る詩乃に、女官長は面食らっていた・・この娘は馬鹿じゃ無かったのか?
「聖女様は仕事・・この世界で、自分だけに出来る役割を欲しています。神殿に籠るのも、仕事として聖女職をするつもりなんです。それまで取り上げたら、彼女がどんな決断をするか解りませんよ?」
脅しは大事だよね。
「随分と知ったような口を聞くな?お前に彼女の気持ちが解るとでも言うのか。彼女が何を決断すると言うのだ」
人の話を聞かないと言う②が食いついて来た、そんなに聖女が大事なのか、笑わせてくれる。
「聖女として清いまま、一生涯神殿で過ごすとか?」
シレっと答える、目線は外して。②やめろ、顎が外れるぞ口を閉めろ。
「彼女には、結婚して次世代を育む義務が!」
「そんなの、あんた達が勝手にほざいているだけでしょう。聖女様にその様な希望は無いですよ?お~っと、無茶な事はしないでくださいね。私達の国では意思に反して身を穢されたら、命を散らせって教育されていますからね」
『昔の武士の侍の頃の話だけれどね~~』
それに私達の世界では、こんな言葉も有るんですよ。
「亭主、達者で留守がいい・・とか、アホを頭に据えて実権は自分で握れとか?聖女様に選ばれると良いですねぇ?第2王子様。少なくとも自分の見目の良い外側だけを気に入って、人形の様に飾り物扱いするような男は、彼女は願い下げだと思いますけど~~」
「何故、お前が其処まで言い切る!」
デコに青筋が立ってる、立派な血管をお持ちで・・・。
「同じ世界の、同じ価値観を共有していますもん彼女の思いは解りますよ。
とにかく貴族とか王族とか、そんな肩書だけで尊敬されるなんて思わない方が身の為ですよ為、人間中身が大事なんですから。だいたい魔獣の対処もせず、平民に労役を押し付けて、騎士風だけ吹かしている貴族なんて無駄飯食いもいいところでしょうよ。どうやって尊敬すれば良いのか教えて欲しいもんだわ、私達の世界では役人は公僕と呼ばれるんです、平民に仕えてその幸せを守るのが役割です。この世界の王は誰の為にいるんですか?守るべきは平民ですか、貴族ですか?聖女様の意識は平民に向いていますよ、力を持つ者は持たない者を守るべきと教育され、認識して育ってきてますから。王子が同じ意識を共有できないなら、聖女様は永遠に手に入りませんよ断言します。彼女は尊敬できない人物と、生涯を共にしたいとは決して思わないでしょう」
貴様!!とうとうブチ切れた大魔神が襲い掛かって来た、するっと避けて土をひっくり返す要領で窓の外に放り投げる。派手に窓をブチ破って消えて行った。2回目だね、学習能力が無いね大魔神。
「私はこの世界で唯一の同胞として、聖女様には幸せになって欲しいのです。聖女様の持っている、可能性を潰さないでください。彼女は賢い人です、彼女に知恵を貸してくれと乞うて下さい。きっとこの世界の人々の為に力を尽くしてくれるでしょう」
聖女様に活躍の場を与える事、それが彼女に気に入られる秘訣と言えるだろう。
②をプッシュする気は更々ないのだが、もう一つ言っておかなければならない事が有った。
「平民騎士の地方への派遣期間が長すぎます、貴族との不公平に不満が出てきています。聖女様から王子に帰還できるよう、頼んでみてくれと言われました。年若い女性の人達にです、2年で帰るはずが、もう5年だそうです。如何にか出来ないでしょうか?」
「越権行為です、慎みなさい」女官長から待ったが入った。
「王子だって、聖女様と離れて暮らす事になったら辛いでしょう?平民だって同じです。将来の聖女様との結婚式に、生卵をブツけられたいと希望するのなら、ほっとけば良いと思いますが。自分が不幸な時って、人の幸せは素直に喜べないんじゃないでしょうか?」
今現在だって十分嫌われ者なんだ、聖女様をあんたのゴタゴタに巻き込むな。
「だいたい不公平なんですよ、実力のある平民騎士はドンドン出世させて管理職にすればいいのに。給料を上げて、家族を呼び寄せる様に住宅を整備すれば地方も活性化するのにな~」
ボソッと呟いてみる。
「アホ、地方に住みたがる奴などいないわ」
「仮住まいだから熱心にならないだけで、開拓した土地は自分の物にできるとかしたら、随分と変わると思うけれど」
『永年開拓なんちゃら私有の法、とか奈良時代とかに無かったっけ?』
・・・漫画に出てこなかった歴史は、イマイチ覚えていない詩乃である。
②は、心底悔しそうに、唸りながら喚き出した。
「とにかく!一連の行事が終わり、お前がどこかの僻地に嫁に行くまで、お前は離宮に軟禁だ!不必要に外部の人間と接触するな。外に出る事も、自室から出る事も許さん!」
「ええぇぇ~~酷い、聖女様を口説くのに最適な方法を伝授してあげたのに!これって、貸し一つですよね!」
強く言ったら凄く嫌な顔をされた。
仕方が無いので、可愛らしく(自己評価)お願いしてみる。
「大人 しく 手芸して から、裁縫室 部屋に いすか?道具 あるです」
②はハバネロをまとめて食べた様な顔をして・・・
「そのくらいは良いだろう、裁縫の部屋に鍵を掛けて食事とトイレは簡易装置を設置しろ」
と、女官長に命令する。
ちっ、随分と強力な措置だね・・・食事は、魔術具でチンですか?
「ええええええぇぇぇぇ~~~お風呂は~~~?」
悲痛な叫びに女官長が、清浄の魔術具が有りますよ、と教えてくれた。
それだけ言うと②は帰って行った、さっさと帰れ二度と来るな。
大魔神は頭から血が流れていたので、外で大人しく待っていた。いくつかガラスの破片が刺さっていたが、痛くないのだろうか?・・丈夫で何よりだ。
結局平民騎士に関して良い答えは貰えなかった、泣いていた彼女達になんて言えばいいのだろう。言いたいことは随分と言えてスッキリしたのだが。
詩乃はスッキリしたが、女官長は大層お疲れのご様子だった・・何故に?あれだけ王族を貶して殺されなかったのは、奇跡の様な事だと女官長が呟いていたが・・貶してないぞ本当の事だぞ?
当たり前の事しか、言った覚えは無かったのだが・・・。
奇跡?(しょぼい)を起こしても、詩乃の気持ちは少しも晴れなかった。
詩乃は結構、怖い者知らず。
詩乃が言いたかったのは{墾田永年私財法:743年}ググったら出てきました。
詩乃VS大魔神では、大魔神の方が酷い目に合っている様な・・(≧▽≦)




