見えない不安
マメな人はモテると思いますよ、頑張れ若者たち!
舞踏会のパートナーとしては、ヤンキーはかなり優秀だった。
詩乃が立ち疲れて辛くなったと知ると、人目につかない壁際の椅子に連れて行ってくれたし、喉が渇いたと思えばジュースを手渡してくれる。なかなかにマメな奴だ、顔はともかくモテるに違いない。
お兄の通っていた合気道の道場に、モテたいと願う先輩が数人いて<モテるにはどうしたら良いか>と、延々と議論していた事があったが・・結論はどうだったっけ?余りマメマメしくして、彼女の言うことを聞き続けていると、舐められて良く無いらしい・・とか、偉そうに話し合っていた様な気がするが。海に遊びに行って、いきなり浜辺で走り込みする彼氏って・・欲しいか?問題はそこからの様な気がするが、如何な物だろうか。取り敢えず、詩乃はパスしたいし、する。
お互いの気が合って、付き合い出すなら良いんだけれど・・この世界には政略結婚なんてものがあるし、聖女様は王子2人に迫られて危機的状況だ。
詩乃だって強制お見合いで、ドナドナされそうな危機的状況だし。
ダンスに興じている人々を眺める、貴族って案外タフだね、疲れないのかな?
楽しそうに踊る初々しいカップルもいるが、義務的な感じでお互いに顔も見ないカップルもいる。何だかなぁ・・ぼけっと見ていたら影が差した。
「おら、食い物持って来てやったぞ。このぐらいしか楽しみもねえだろうからな」
お皿に少しずつ、数種類の料理が可愛らしく盛り付けてある。フォークとナプキンまで・・何気に女子力高いね君。
「零して汚さない様に、ナプキン膝に広げておけよ」
・・お母さんと呼んでいいですか?
「何で、お前の母ちゃんにならなきゃいかんのよ?ほれ、食え食え、腹減ってんだろう」
頂きます・・そう言うと詩乃は料理を食べ始めた。
美味しい・・思わず笑みが零れる。
「まだまだ華より食い物の年頃か?女は舞踏会とか好きだろう?普通」
なんか洋物の時代劇を見ているみたいで、あんまりピンっと来ないんだよね。ドレスも綺麗だけれど、半魚人だし。・・それに、あんな話を聞かせられた後じゃぁ、素直に感激出来ない。平民の村々は、魔獣の襲撃と増税に喘いでいるらしい。食べるのもやっとの状況で、病人が出ても手の打ちようが無いとか。王族や貴族の人達は、それを知っていながら、こんなにノンビリ踊っているのだろうか?
「お前の居た所は、魔獣もいないんだろう?のんびりノホホンとしているお前でも生きて行けるんだ。平和で良い所の様だな、羨ましいぜ」
「魔獣 居ない ど、平和 モない。魔獣 ナケレ、人 で戦う。・・私たち 国 平和レど、よそ 国戦争 有る、難民 出テ・・。どチら マシ は、解ら ない・・私、怖いも 餓え も無い」
「お前の所は貴族も、王も居ないんだろ?でもさ~昔はいたんだろ、何でいなくなった?」
「う~ん、世界史 苦手。・・天気 悪い 続いて、食糧 難、民衆 不満 爆発 みたイな?武器が発達、戦う人 専門職 無くナッ、戦った代償 意見言う 権利 持ッタ人 増えた・・とか?でも、王様達 すベテ イナくなったなイよ、早め 議会 権利 譲って、国 象徴 残った王室 有る。いロイろだ、国民 性 もあルしね」
「ふ~~ん」
ヤンキーは解った様な顔をして、詩乃の話にさして興味も無さそうに、料理をパクパク食べている。ヤンキーは何を考えているのだろう、太々しい面構えで、聖女様と彼女を取り巻いている①と②を眺めている。好意的な目ではない、むしろ獲物を狙う鷹の目(褒め過ぎ)か?
もしかしたら貴族達の魔力の総量と、一部のA級平民騎士の魔力の総量は、拮抗しているのかもしれない。生まれる人間は、平民の方が3倍以上多い、魔力が少なくても数で勝負と成ったら、どっちが有利か・・・勝敗は未知数だ。下剋上と革命の違いって何だっけ?この世界の人達が、考えて行動して、社会を変えて行こうとするのは構わない。自己責任でお願いするだけだ、結果は自分達で背負って行くのだから。
・・・でも、聖女様を巻き込むのはやめて欲しい。
聖女様を得た方が王座に近づくなら、平民達はどちらの王子を望むのだろう。
王妃様は、神殿は・・・。
何事も無く聖女に就任出来て、お披露目まで終わればいいけれど。
漠然とした不安が、詩乃の小さな胸を包み込んで離さなかった。
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さて、春が近づいてきたので王宮のバックヤード・・庭師の皆さんはこのところ大忙しなのだ。春の花を種から育てている温室では、大きな株に育った苗を藁でくるみ、王宮の庭園に植え替える準備に大わらわだ。植え付けるのにも順番が有る様で、詩乃も指示に従って作業を行う。白い花の中に、ポッコリ黄色い花が混じったら大失態なのだそうだ。それはそれで可愛いと思うけれど、此方の庭はフレンチガーデン?とでも言うのかな?人工的で、バルコニーから見た時に、整然と左右対称なのが良いらしい。神から命じられ、自然を支配する権限を与えられているとかなんとか・・・そんな思想の基の造園だそうだ。好かぬ。
おばあちゃんの庭は、イングリッシュガーデン風の自然ぽい・・手入れ不足な庭だったな。
庭師の皆さまには、どうも信用がないらしく詩乃は庭園整備組に回された。
温室の匂いは独特だから外の方が良いんだけどね、日陰にしぶとく残った雪を魔術の温風で砕きながら溶かしていく。雪で折れて見苦しくなった枝や、雑草などもエアカッターで剪定&草抜きだ。一回りしたらお昼時間になったので休憩小屋でお弁当を頂く、本日のお弁当は料理長にお願いして余り物を貰って作ったピタパンサンドだデザートにミカンも付いてるぞ、飲み物は小屋で沸かしたお湯でハーブティーを入れて飲む。庭師さん達は奥様の手作りの愛妻弁当だ、ミートボールが美味しそう。ガン見していたら、一つもらえた、嬉しい。
この前お爺ちゃんから、庭師の長の所に手紙が来たそうだ。
お爺ちゃんは元気に過ごしていて、孫の子守りと御嫁さんが二人目を妊娠中なんだそうで、いろいろと手伝いに忙しいらしい。王都と違って魔術具が無いのは不便だが、慣れれば何という事も無いそうで故郷に戻って良かったと書いて有ったと言う。許嫁だった彼女さんは後家さんになっていて、今では茶飲み友達としていい関係になっているらしい。
「良か ッた~、幸せ だ」
「お前さんの事も心配していたぞ、行く所が無かったら爺ちゃんの故郷に来るといいとさ」
長が煙草を吹かしながらそう言う、・・どこも嫁不足だからな・・後半は小さな声で詩乃には聞こえなかった。
午後の作業は土の掘り起こしだ、40センチ位の深さから、ウボッと固くなった土を吸い上げる様に掘り起こし、さらにひっくり返して、柔らかくさらさらと空気を含ませる様に砕いていく。その際には腐葉土とぼかし肥料も一緒に風を使って巻き上げ混入させる。畝を作るように幅を狭く遣るのが理想だが、その加減が難しい。詩乃がやると3メートル四方が掘り起こされる、不器用なのだ、でも作業の途中に小さい石や越冬中の根切り虫などの害虫、モグラみたいな小動物まで選別しちゃうのは器用と言うべきなのか?モグラもどきは庭師さん達の天敵で・悪魔で・魔獣の一種なのだが、つぶらな瞳が可愛い<きゅ~~~ん>と鳴くところとか、もうたまらん。この子飼っても良いですか?
モグラもどきの皮は手袋に良いそうで、売ると良い小遣いになるらしい・・詩乃が目を離しているうちに、小銭に変身してしまっていた・・クスン。
土が良いからミミズも多く、モグラもどきが増えるらしい。
「お前さんは庭師と言うよりも、開拓農家向きだと思うぞ?」
長からは嬉しくないお墨付きをもらう。
「変な 事、女 官長 報告 ナイ。僻地 島流し こま」
そうなったら爺、本気でお爺ちゃんの故郷にお邪魔した方がマシかもしれない。向こうの世界のお見合いは、出会いをお世話するだけだから悪いとは思わないけれど・・此方は計算ずくの持参金狙いだものな。
軽口をたたきながら作業を進めていく、夕方までに26匹のモグラもどきちゃんが採れた。くたびれた兄ちゃん庭師が喜んでいる、換金して明日詩乃の取り分をくれるそうだ。合掌。
作業が終わって、離宮への帰り道・・木の下に女の人達が固まって佇んでいた。
『わぁ、何か・・嫌な予感』
案の定、詩乃は女の人達に取り囲まれた。詩乃にお願いがあると言う。
『舞踏会の下級貴族の再来か、頼まれても愚痴られても、出来る事は無いのに』
騎士の地方への派遣が発表されたのだが、平民の騎士ばかりが遠く厳しい所に行かされて不公平なのだとか。2年で交代なはずなのに、5年経っても帰れない騎士もいて、結婚の約束をしているのに待ちぼうけなのだ・・・とか。不満はかなり溜まっていて、もう我慢が出来そうになさそうだ。②王子は、誰の意見も聞く耳を持たないと言う・・評判は頗る悪い。
でも、聖女様なら、聖女様からなら王子もぞっこんな様だし、話を聞いて貰えるかも知れない。聖女様に、話を伝えて欲しい・・。聖女様に助けて欲しい。
気持ちは良く解るが、聖女様は今は神殿に居て離宮には居ないと言う事。詩乃も会えていない事を伝えるが、彼女達はどうにも納得してくれない。泣いて泣いて、集団ヒステリーの様相だ。
『どうしたらいいのだろう・・』
どうにかして聖女様に会えるよう努力する、会えたら皆が困っている事を必ず伝える・・詩乃はたどたどしい言葉で繰り返した。
途方に暮れた詩乃だったが、この後すぐに②に合う事になるとは思わなかった。
ましてや、軟禁されようとは・・お釈迦でもご存じあるまい。
次回、②と対決です。
頑張れ、詩乃!




