舞踏会
聖女様の髪はストレートのロングです。
踊るつもりが無いので、舞踏会なのに・・・アップにされていません。
貴族にはいろいろな不文律が有る様で、それを知らないと酷い恥をかき、爪はじきにされると言う。くわばら、くわばら・・・。
曰く、目下の者から、目上の者に話しかけてはならない。
曰く、婚約者の居る男性・女性にはみだりに話しかけてはならない。
曰く、目上の者から質問された場合には、ウイットの富んだ切り返しをする事で、己の能力の高さを誇示し、引き立てられる切っ掛けにする者がいるので足を引っ張れ。決して出し抜かれるな。
曰く、貴婦人達の流行に沿うのは良いが、流行にも派閥が有り牽制しあっている。自分の派閥の流行を外す事なく、目立ち過ぎず、かと言って垢抜けない姿をしては恥をかく。悪目立ちする事なく派閥からはじき出されない程度に気を付ける。
・・・・もう、お腹いっぱいです事、消化しきれません。
貴族名鑑など読んでいませんし、今更遅いよね・・すべて頭に入っていると言う聖女様は、やはり只物ではない、内政チートの片鱗をこれでもかと見せつけている。どちらの王子に収まるか知らないが、彼らが尻に轢かれるのは、未来予想図にばっちり載っていそうだ。ざまあ。
舞踏会の聖女様の御衣装は、白いハイウエストのプリンセスラインのドレスで、腕とデコルテ・背中の肩甲骨辺りまでは白のレースで透けている。この世界では珍しいだろうが、上品に仕上がっているし、向こうの世界ではウエディングドレスの定番の形だ。ウエストのリボンと、ドレスの裾には金糸で豪華な刺繍が入っている。刺繍は神言の古代語をアレンジした筆記体で、よほどの教養が有る者にしか、理解できない挑戦的なデザインだ。何故か縦書で、草書体に見えなくも無い。あおによし・・・の感じなのだ、不思議だね~。刺繍を手伝った詩乃にもサッパリ解らなかったが、ほのかに懐かしい仮名文字を感じさせる。金糸の周りには、銀や青のクリスタルの欠片がビーズの代わりに付いて、キラキラ光ってとっても綺麗だ、満足いく出来と言っていいだろう。
ドレスは聖女様に大層似合っていた、女官長のお墨付きも貰っている。
聖女様の派閥?の詩乃は白は恐れ多いので、生成りのベージュに近い生地を使っている。形は同じハイウエストだが、スカート部分の膨らみは抑えてあるし、歳が若い事も有って長さはミモレ丈になっている、裾を踏まなくて済みそうなので安心したのは内緒だ。レースで透ける部分は、襟元に少しだけある。刺繍をする暇が無かったので<空の魔石>を、薄い紫い色の<チャロアイト>と言うパワーストーンに変え、顆粒状に砕きドレスの裾に波線状に貼りつけた。これまた、キラキラ光ってお気に入りだ。
女官長曰く、本日の詩乃の任務は、目立たず・恥をかかず・大人しく壁と同化している事。了解であります!いつもそのつもりなのだがな・・げせぬ。
そして、考えない様にしていた・・パートナーの件ですが。
迎えに来ましたよ離宮に、場違いなヤンキー野郎が・・本日は騎士の正装なのか孫にも衣装な感じですな。エスコート相手がお子様な詩乃なので、周囲からは御気の毒に・・な感じが漂っていました・・主にメイドさんが同情しておりましたよ。
知らなかったけれど、騎士爵のヤンキーは平民出身の希望の星で憧れの成功者なのだそうだ。詩乃にはただただ、意地悪でお調子者にしか見えなかったけれど。
無駄に顔も広いようで、出かける前からあちらこちらから気軽に声が掛かって来る。料理長さんとも古い知り合で、以前戦地を共にしたんだって、ビックリだよ。
ヤンキーも気さくに受け答えしていて、平民からの好感度は高い様だ。②も、このくらい気配りしいだったら人望も集まるだろうに、まぁ無理だろうな・・無駄にプライドだけは高そうだもの。
脳内で噂をしていたら、黒い馬に曳かせた馬車で②がやって来た。
本日のエスコートは神殿騎士らしいのだが、無理やりお迎えの栄誉をねじ込んだ様だ・・マメな男だね。
馬車から降りて来た➁を見て、女官やメイド達が桃色の溜息をついた。見目は良いからね見目は・・中身は知らんが。詩乃が不遜な事を考えていたのがテレパシーで感じたのか、➁にジロッと睨まれた。大魔神は相変わらず➁の後ろに控えている、2人でワンセット・・王宮何にも絶対腐ったお姉様方がいるはずだ、薄い本は・・読みたくは無いが興味はある。
そうこうしているうちに聖女様がお出ましになり、エスコートの為に➁がボールを投げられた柴犬の様に寄っていく、待て!ステイだ!
聖女様の美しい姿、清楚でありながら豪華な衣装を見て、➁の耳が赤くなっていたのを聖女様以外の人物は見逃さなかったに違いない。案外と初心な事だ。
ヤンキーが馬鹿にしたように、口の端で笑っていた・・感じ悪ぅ。
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キラキラとシャンデリアが光り輝く王宮の大ホール、舞踏会の面倒臭ささは入場の時から始まる。当然の事ながら、身分の低い者から会場入りし延々と高位の貴族が揃うのを待たなければならない。
オリンピックの開会式でセレモニーを待つ選手の皆さんは、こんな気持ちなのでしょうか?自撮りでもしていなければ、暇でしょうがないに違いないね。
『東京オリンピック・パラリンピック・・・見たかったなぁ』
・・余りに暇すぎて、余計な事を考えてしまう。
パートナーのヤンキーは絶好調だ、騎士爵仲間から~身分の低い若手貴族などなど。入れ替わり立ち代わり、ヤンキーと話をしようと群がりやって来る。
『なんなんだ?この小泉〇次郎状態は?』
此処の世界の政治は、絶対者である王、官僚である王族+信奉者である一部の大貴族、それから議会であり議員であるその他の貴族達によって行われているそうなのだが。ヤンキーは、一体何処のカテゴリーに入るのか?先ほどから何やら愚痴の様な?陳情の様な?泣き言ばかりをヤンキーに訴えて来ているのだが、ヤンにそんな事を話してもなんの権限も無いだろうに。ご利益来てでもあるのか?もしかして、ヤンは「お願い地蔵様」なのだろうか?タワシで擦ると、痛い部分が良くなるとか?不思議な気分で、ヤンとその取り巻きを見ていたら、こちらにお鉢が回って来た。
「聖女様の同郷の方とお見受けしますが、聖女様に御とりなし頂けないでしょうか?」
『はあぁ?何だってー!!』
ヤンキーがわざわざ詩乃に近づいて来たのが、可笑しいと思っていたんだ、目的はこれかい?聖女様に陳情の伝言なんて、出来る訳なかろうが・・。キッと見上げ、ヤンキーを睨みつける。ヤンキーはニヤニヤ笑って、詩乃を助けるそぶりも見せない。
「陳情 な、聖 女様 頂く 神殿 お話 サッテくさい」
困った顔を殊更に作って、陳情団に無難な対応をする。
「神殿は何をするにもお布施が必要なのです、神事の沙汰もお布施次第と言いまして」
聖女様に御目通りをお願いするにしても、神殿からいくら請求が来るか分かった物では無いと言う。・・あんのぉの、ジジイども。
「聖女様は、いずれこの国の国母となられるお方。この国の実情を知って頂きたいのです」
「聖女 様 教授 沢山 お 勉強 頑張っテ ス」
高位の貴族の話だけではなく、この国の平民に近い者からの話も聞いて欲しい、平民の窮状を知って欲しい。いつの間にか、詩乃の周囲には陳情者の壁が出来上がっていた。
「聖 女様 コの世界 来て、1年 経っテ せん。お願い 有ルナら、役所 いく、王家 人 お願い筋 デシょかの?」
困り切った詩乃がそう言うと・・・
「それが出来れば苦労はしませんよ、どちらの王子も平民には目もくれません。頭の中に有るのは、高位の貴族との勢力争いだけです。・・このままでは、この国は・・」
疲れたおじさんの様な?若者?がそう言った所で、突然金管楽器の音が鳴り響き、王族の到着を告げた。
陳情の壁は崩れ、蟻の行列の様に再び並び始める。
・・ここから、また延々と挨拶するために並ぶのか・・並ぶのは祖国の得意技と思っていたが。上には上がいるものだ、なれないヒールのある靴のせいで足が棒の様だ、つま先がジンジンとする。
並んでいる間に、詩乃はさっきの陳情を忘れない様にと系統ごとに分けて思い出し、記憶する事に勉めていた。日本語で書いておけば聖女様以外には解らないし、この先いつか何かの役に立つだろう。無能な王子と結婚した挙句に、革命でも起こって首チョンパにでもなったら、眼ざめが悪い・・つくづく大変な世界に来てしまったと実感する。大変じゃ無かったら、召喚する事も無かった事のだろうが。
聖女様は此処では神殿の関係者にエスコートされていた、お久ぶりの布団騎士だ。魔力を隠せる実力と言い、やはり高位の貴族関係者だったんだ。後ろに侍るお爺ちゃん、神官長か?嬉しさを押さえ切れていなくて、ニラニラと脂下がった嫌らしい顔を晒している。
聖女様は優し気に薄く微笑み静かに挨拶を受けている、近寄り難い、何か神聖なオ~ラをビシビシ放っている。聖女様のオ~ラ(威圧?)と、周りを高位の貴族&神殿関係者で固められているせいなのか、聖女様に陳情アタックを掛ける剛の者は居ないようだ。・・その分詩乃にしわ寄せが来るのだが・・。
にこやかに笑う①王子、顔だけって評判ですね・・他国にお婿にでも行ったらどうです?慶ばれますよ。
にこりともしない②王子、独断専行で支持者が居ないのを知らないんですか?説明責任は大事なんだそうですよ。
王様・・頭にのせている飾りは何です?王冠を頂くには、それ相応の覚悟と試練があるのでしょう?聖女に丸投げですか?
王妃様・・ヤンキー騎士に、何をやらせるつもりです?
人の悩みを聞くのは草臥れる、自分に何も解決する力が無ければなおさらだ。
貴族と平民、誰が正しいかなんて異世界人の詩乃にはサッパリ解らない。
ただ、聖女様は別だ、詩乃と同郷であり、同じ価値観で教育を受けて来た(詩乃は義務教育だけど)。どんなことが有っても、聖女様の味方でいよう・・一人戦う事になっても。
詩乃は絶対聖女様の味方をする!
沢山の思惑の中で溺れそうになりながらも、そう心に誓った詩乃だった。
宴は始まったばかり・・・。
この後、翌朝まで続くとは・・だれも教えてくれなかった。もう帰りたいーー。
愚痴って聞くだけで疲れます・・・カウンセラーさんは偉大ですね。




