表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/40

青い薔薇の下で

女官長なりに詩乃を心配してはいるのですが。


「武闘会?」詩乃は首を傾げた。


「舞踏会です、戦い合ってどうしますか。」

女官長は、こちらのボケに必ず突っ込みを入れてくる、だが其処が良い。


誘惑の魔術が使われた事が問題となり、停止状態だった社交界シーズンだが、王族主催の舞踏会は外す事が出来ないらしい。もれなくオマケの詩乃にも参加の動員が掛かったのだ。

まだ未成年なので参加資格も無いんですが・・異世界人として、余興のひとつでもやれと?心の中で文句を垂れる。


「今回はピパノを奏でる事も、果物を投げ上げる必要も有りません。お相手と一緒に静かに壁際に控えていれば良いでしょう。」

「は?相手 デス?そ、ど 落ちテ です?」


「お相手も無く、エスコートしてくれる殿方が居なければ、舞踏会に出られる訳がないでしょう」

瞼に埋もれた女官長の目が薄っすらと開いたと思ったら、B5判の何かの用紙をトランプの様に扇形にザッアっと開いた。


「貴方に目を付けている、落ちぶれ貴族からの申し込み状です。王族や側妃関係のメンドクサイ派閥の者は、予め避けて有ります。どれにしますか、より取り見取りですよ。この先あなたが聖女様と離れて生きていく時に、最低限の生活保障が出来そうなメンバーを残して有ります、これは事実上のお見合いだと心得なさい。上は48歳から下は25歳で、歳が多少離れてはいますが、その年までご縁が無かったのは、魔力不足と領地が魔獣に蹂躙された為で、本人の性格に難が有るわけではありません。むしろ領民の為に苦難や貧乏を我慢出来る、忍耐力と寛容の精神の持ち主と言えるでしょう。貴方の様なトンチキな娘でも、良しとしてくれる有難いお話と思って選びなさい」


ズケズケと言いたい事を言ってくれる・・。

「にゃ官長 確か、独身たよ。選べ イい、ウずりお、どーゾドーぞ」

「私の事は良いのです、仕事も有りますし、退職すれば年金も入ります」

年金が有るのか、それ破綻しないのか?


「貴方はこの世界で一人の身内もいない天涯孤独な境遇です、しかしこの先聖女様のご厚意に、いつまでも縋っている事は出来なくなるでしょう。聖女様の所属が神殿になれば、神殿は貧乏ですからね・・あなたが女性神官になるにも、字も読めないようでは、教養が足りなく試験で必ず落ちるでしょうし」


字なら読めるもん!日本語だけど・・少々ムッとくる、日本の識字率を知らないのか!!神殿と言うと、お布施を奪い合って喧嘩していた、鼻血のオジサン神官しか思い浮かばない。悪いけれど、此方からお断りだ。


「急ぎはしないので、この中から良く考えて選びなさい。ドレスの用意はどうですか?奇抜な物は駄目ですよ、出来上がったら一度着て見せてごらんなさい。あなたが恥をかくだけではなく、聖女様の評判に障る事を常に念頭に置き、行動をするように心掛けなさい」

話は以上だと言葉を切り上げると、女官長はさっさと席を外して行ってしまった。


『うえぇ~~ん、この歳でお見合い~~~』

自分の両親と年が近い男性と、お見合いをする羽目になるとは思わなかった。王家が払うであろう慰謝料と言うか、詩乃に付いて来るであろう持参金が目当てなんだろうな~~。金が入ったら、用済みとして殺されたりして。


部屋に戻って、釣り書?と言うか申込書を開いて見る。全部で13通。

B5判の紙に姿絵と経歴が書いてある、顔は全部似たり寄ったりだ、見分けが付かない白黒だし。<空の魔石>を取り出し、この世界の文字の上を滑れせる「翻訳・実行」これが腹が立つことに、詩乃の頭の程度に翻訳されるのだ。なに?この格差サービス。

確かに専門用語満載で説明されても、詩乃の頭では理解しかねるが・・何か悔しい・・馬鹿じゃないもん。チートにさせない為に、ワザと意地悪しているのか?


・・6通の人が、既に奥さんを亡くしている男寡さんだった。魔獣の襲撃時には、体力の有る男性の方が逃げ切る確率が高いらしい。

・・サバイバル・ウエディングですか・・リスキーだね。領地の復興に手を貸して欲しいとな・・君たち正直すぎやしないかね?お金目当てなんだってさっ・・いっそ、清々しい境地だ。


次の4通の人は僻地も僻地、余りの僻地で嫁の来てが無く、慢性的な女日照りで、後継ぎさえ産んでくれれば文句は言わないそうだ。

・・文句は有るよ、こっちがな!

父親が48歳で子供が出来たとして、急にポックリ逝かれちゃったら、その先どないせえと言うのか。幼い子供を抱えて遺族年金も寡婦年金も無かろう異世界で、どうすりゃいいのだ?無理!ごめんなさい。

残りの3人は、平民から騎士になり、功績を上げ爵位を得た騎士爵の人達だ。さらなるネームバリューが欲しいのか、聖女様の加護が欲しいのか?聖女様と御近づきになりたいのか。どうせ詩乃はオマケだろっ!


ネットで散々、家庭版や鬼女版を覗いていた詩乃には、このお見合い話で明るい未来は見えてこなかった。グレたい。盗んだバイクで走りたい、免許もバイクも無いけれど。




 ムカムカした詩乃は、体を動かす事にした。

頭が悩みでパンパンになった時には身体を動かすのが良いらしい、なんか保健体育の教科書にそう書いてあったような気がする。

庭師の作業着に着替えて外に出る、寒いが雪は降っていなかった。日当たりのいい場所ではもう雪も溶け去り、早春を彩る花が目を出している。春が近いのだろう・・春を寿げば、この世界に聖女様が誕生し、詩乃はどこかにドナドナされていくのか。


『ふざけんな!』

合気の型をする。

お兄に習ったり、道場のオープンスクールの時に習ったもので、可笑しな動きを、お兄に笑われそうだが、怒りを込めて拳を突き出す。心は平静に保たなければならないのだが、そんな気分にはとてもなれない。それでも息を整え、丹田に重心を下げる。頭の中から、考え事を締め出す。白い息が流れ、汗が飛び散り、体中から白い湯気が舞い立った。



「へぇ、やるじゃん」

突然飛んで来た雪玉を手の甲で流し避けた、雪玉の方向をきっと睨むと。


ヤンキー騎士が立っていた。

ノイズが感じられないのは、相変わらずだった・・よほど魔力を隠すのが上手いのか、そう銀ロンほどに。腕をぶらりと下げて近づいて来る・・やりにくいタイプだ、相当自分の腕に自信が有るのだろう。


「お嬢さんは何にお怒りかな、見合いの相手が気に入らないのかい。この世界の平民の女どもが、どんなに苦労し努力を重ねて、貴族の仲間入りをしようと頑張っているのか、知っていての事かい?」


詩乃の顎に手を掛けようと腕を伸ばして来る、バックステップで避けた。

「初心な女の子は扱いが面倒くさいね、君に時間をあげよう、申し込みの中に俺の釣り書も有っただろう?」

「知 ラん」

「酷ぇなぁ、見てもいないのか?騎士爵の中の一人に有っただろう?25歳のイケメンが」


イケメンの言葉に思わず詩乃がヤンキーをガン見する、この世界のイケメンの基準は低すぎやしないか?

どちらかと言うと、踏まれて潰れたマ〇フォイみたいな感じか?目に野心が見え隠れしていて、油断がならない。こいつは平気で地下通路に、人を置き去りにする奴ではないか。決して信用してはならない。


「俺も舞踏会に出なくちゃならなくってね、パートナーを探しているんだ。騎士爵の男を相手にする貴族の女なんていないからな、助けると思って一緒してくれないか?別にお嬢さんと、将来をどうこうしようなんて思ってもいないし。君も好きでもないオジサンと、無理やり結婚させられる危険を先送りできるだろう?自分の意見も言えずに、流されるのは、お嬢さん達の世界では有りえないそうだから」


こいつが素直に頼み事や、相手を助ける真似事をするなんて胡散臭い事この上ない。何か企んでいそうだ、騙そうとしても、そうはいくか!

詩乃が睨み続けていると、フッと頬が温かくなった・・間合いをいつの間にか詰められている。

飛びのこうとした時には腕を掴まれて、ホッペがヌメッと・・・へっ?


「ぎやあぁぁぁぁ・・・・・・・・ポッペを舐められたあぁ!」

「ははは・・・お前暴れ過ぎだ、ぽっぺたが汗でショッパイぞ!」


きやぁ~~~~~~~~っ!!!変態だ!ここに変態がいます!

詩乃は夢中で拳や蹴りを繰り出したが、悔しい事にひとつもヤンキーに入らない。ほんの僅かな動きで、詩乃の攻撃をかわしていく。くっ、こいつ強い!


「ははははは・・・俺様にパンチを入れようなんて、百年早いぜ!じゃぁな、パートナーの件、よろしくな!」


息の上がる詩乃を残して、あっという間に消え去ってしまった。


「くくくくくぅやしい~~~」

『<空の魔石>ヤンキー騎士を追尾、後頭部にヒット!タンコブ作れ!』

心の中で叫ぶと、詩乃は思いっきり<空の魔石>を空に投げつけた。

・・石はどこか遠くへ飛んで行ったが、しばらくして「痛ってえ!」と声がしたので、首尾よくタンコブを作ったのだろう。ざまあみろ、乙女のポッペをなんと心得る・・。

この世界には、ぽっぺを舐める習慣でもあるのか?許せん!断じて許さんぞ!!




パートナーの当ては無くても、ヤンキーに頼ったり、借りを作るのは絶対に嫌だ!詩乃は自室に戻ると、もう一度釣り書を読み直して・・撃沈した。

残り2人の騎士爵の人達は、聖女様の信奉者で是非とも聖女様親衛隊に入りたいらしい、詩乃はその為の信用状みたいなものなのか・・聖女様に推薦して下さいだって下さいORZ.


女官長め、勝手にお見合いなどセットしたりして・・もしかして、あの人お見合い婆なのか?悶々として、イルカの縫いぐるみに八つ当たりを繰り返す。

・・・ボス・ボス・ボス。





「・・・あなた、何をしているの?」

メイドさんに見られちゃった、ご一緒にいかがです?


「いらないわよ、そんな変な魚。そんな事より、あなたに贈り物が届いているわよ」

はぁ?こちらに知り合いや、親戚などおりませんが。


「みて、青い色のバララの花束よ。花言葉はね、貴方を必要としています」

お見合い相手からかしら、素敵ね?ふふふ・・あなたも隅に置けないわね、メイドさんは微笑んで行ってしまった。


花瓶も無いのにどうしろと、カードが付いていたが悪いな、此方の字は読めないんだ。わざわざ翻訳する気も起きない。生まれて初めての異性からのプレゼントが、買収?賄賂?下心満載の花束なんて、いくらモブでも悲しすぎる。


『ど~せ、碌な事しか書いて無いに決まっている』


胸糞悪いから花束は、逆さ張りつけの刑で天井からぶら下げてやった。ドライフラワーにでもなればいい、カードはゴミ箱にかっぽった。

青い色の薔薇の花は、あちらの世界では存在しない物・不可能の代名詞だった。

天井から薔薇を吊るして「薔薇の下で」が、秘密の話の事で他言無用・・・だったっけか?


詩乃は天井から吊下がっている薔薇を見つめ、心に隠し持っている、不可能な秘密を思い浮かべる。

『平民になって、外の世界に出て行きたい・・・か』



青い薔薇は、今では某メーカーによって製品化され、花言葉が追加されていることを詩乃は知らない。

青い薔薇・・・夢かなう。


某メーカーさんは、凄いですね。


時系列としては

公爵のお茶会・・王族のお茶会・・祈りの日・・(詩乃王都へお出かけ)・・舞踏会・・春の女神のお祭り・・です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ