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王都の人々~2

祭りの後は寂しい・・・。

 少年の歌はかなり上手な様で、帽子に小銭が沢山集まった。


自分のパフォーマンスの結果が即お金に変換される、それが大道芸の醍醐味なんだろう。少年は初めて単独・自力でお金を稼いだらしく、かなりの興奮気味だった。今度は俺が奢ってやるよと言って、詩乃の手を握り猛然と走り出した。

『早い早い・・息が切れる・・待って~~』


「なんだおまえ、だらしがないぞ~。街道で魔獣に会ったら煙球を投げて、後はひたすら走って逃げるんだぜ」

「え~っ、馬 トカ さァ、乗る 動物 居ナイ か?」

「いるぜ、金持ちが乗っているけどさ」


『くっ、此処でも格差社会か、生き残れる気がしない・・』

王都より小さい規模で、少しだけ都会風な安全かつ清潔な街は無いのか。

詩乃が悶々とこの社会の理不尽について悩んでいるうちに小さな広場に出た、ここはいつもは行商人の大人達が商いをする広場なのだそうだ。だが<祈りの日>の今日は、子供達の為の時間を設けて有り、小さな商売人達が思い思いに小さな店を広げていた。御店屋さんごっこみたいで楽しい。


「喉が乾いたな歌ったし、何か飲むか?お前何が良い?」

よく解らないので首を傾げる、甘いのと・酸っぱいの、どちらだと聞かれて甘いのを選択する。貰ったジュースは、イチゴみたいな味がして美味しかった。

チビチビと味わいながら、周りを観察する・・見た目が詩乃位の歳の子が(だから多分年下)多い様だ。果物やお菓子・野菜やハーブ、毛糸の手袋なども自分で編んだのか自慢げに並べている。


「こコ だレ ダも うッ テ イの?」


詩乃の言葉を聞いた腕白そうな男の子が

「なんだ、こいつ、喋るの変だぜ!」と囃し立てて来た。


『うわぁ、何処にもいる腕白・いたずら・やな奴じゃん』

詩乃は警戒態勢に入った。ジト目で睨みつける、文句あるのかてめぇ・・。

ゴゴゴゴ・・・心の声が漏れたのか、不穏な気配を感じたのか。


「ごめんね、うちの弟って馬鹿でさぁぁ、気にしないで~」

商売上手そうなお姉さんが(だって、顔がソックリ!遺伝子って凄い)が割って入って来た。


「だって、ねいちょん。こいつ!」

「馬鹿!お客さん相手に何言ってんのさ、祈りの日に王都に来た観光客さんだろ!」

客に喧嘩売ってどうすんのさ!御免ねぇ~お客さん。ニコニコ。


「家はパン屋だけれど、祈りの日には特製のケーキを焼いていてさ。美味しいよ、日持ちがするからお土産にももって来いなのさ」

お姉さんが見せてくれたケーキは、パウンドケーキみたいなやつで確かに美味しそうだった。


「私と弟で焼いたんだ、こっちの奴にはクミルが入っていて、こっちは干したブウドが入っているの」

お姉さんはなかなかの接客上手で、周りにワラワラと人が集まって来る。早くしないと売り切れそうだ、詩乃はブウド入のを500ガルで買うと鞄の中にしまう・・その時、つまみ細工がチラリと見えた。


『これも、売れるかなぁ。他の店は実用一辺倒だけれど、目新しくて良いかもしれないし』

パン屋の兄弟から少し離れた開いている場所に、風呂敷を広げつまみ細工を並べてみる。


『ちょっと試してみるだけ、売れなくてもプレゼント用に作ったんだし』

風呂敷の後ろに正座して広場に溜まっている人々を眺める、えぇ~~と・・呼び込みは、どうしよう。いらっしゃいーで良いのかな、ヘタレながら迷っていると、さっきの少年が来た。


「へぇ~~、何それ?飾り?面白いじゃん」

そう言うと、一つつまみ上げて胸の前に抱き、聖女様に恋する曲を歌いだした。少年よ、さっき上手く行ったからって調子に乗ってないかい、君?

綺麗なボーイソプラノに注目が集まる、女の子達がキャーキャーと騒ぎ出した。

「ねぇ、あの彼、カッコよくなくない?」

?良いのか無いのか?どっちなんだ?こっちの言葉は難しい。

どうやらここの世界の基準では、彼はイケてる部類の顔らしい。まぁ、イケてると思われたから、吟遊詩人兼行商人の伯父さんの見習いに付けられたのだろう。


<君に捧げたい我が想い・・・> のところで腕を伸ばし、少女の目の前につまみ細工を捧げるように見せつける。思わず取ろうと手を伸ばすと、スィっと避けてしまう・・ニコッと微笑みながら・・女の子の顔は夕日みたいに真っ赤になった、恥ずかしがっている女の子の頬に突然の軽いキス。


少年よ・・君はおじさんに何を習っているのかね?

君は将来女たらしになるぞよ、私は予言しよう!!!


・・・・お買い上げ有難うございます、完売でございます。



1個300ガルで(値段は少年が決めた)18個=5400ガルの売り上げだ。詩乃は儲けたお金を半分少年に渡そうとしたが、それより二人で美味い物でも食おうぜっ!の誘いに乗って屋台村みたいになっている所へやって来た、屋台の真ん中に食べるスペースなのかベンチが数台並んでいる。


「お前、席取っとけよ」

そう言い残して少年が屋台に向かって走っていく、背中が嬉しいと語っている様だ。


『これでお金を持ち逃げされたら、立ち直れないよなぁ~~』

・・そんな事を思いつつ、目立たない隅っこに席を確保した。

テーブルの上に肘をつき手に顎を乗せて、大勢の歩き流れて行く人々を画面の向こう側に生きるTV映像の登場人物の様に眺める。どの人にも居場所が有り、家族や友達がいて、帰りを待っていてくれるのだろう。何の不安の影も無く、屈託なく笑い合ってる姿に・・在りし日の自分を重ねる。


『・・・私はここにいるよ・・・此処で生きているよ・・・』




「おい、こんな隅っこにいるから探しちゃたぞ。ほら、モモウの串焼きとトポテの揚げた奴。俺これ好きなんだ。待ってな、飲み物も買ってくるから」

少年が手に一杯の食べ物を持って帰って来た、持ち逃げされ無かったね・・悪かったね疑って。これってフライドポテトじゃん・・ケチャップは無いのか!その他少年は、お好み焼きの様な炭水化物の何かと、果汁の入った水を買って来た。


「初めての商売成功に!乾杯~~!」


二人で木で出来たコップを打ち合わせて乾杯をする、

「ク~~ッ」

喉が渇いていたのか沁みるぜ。

モモウの串焼きは大きかったので半分少年にあげたら非常に感激された・・硬くて噛み切れないんだよね、ナイフも無いから小さく切れないし。少年はCDも割れるシュレッダーみたいに、バリバリ食べている、歯と顎が丈夫そうで何よりだ。トポテは塩味で、それも嫌いじゃないが、ケチャップが開発できたら、かなりの儲けになるんじゃぁないかなぁ?ネットの異世界の物語りで食事関係が多いのもうなずける、美味い物は正義だ!正義は勝つのだ!日本の食べ物は神クラスだっ!異論は認めない。

食べ足りない様子の少年に適当にお金を渡し、また何か追加を買ってきてもらう。彼のチョイスは肉類が多い、栄養のバランスの為に野菜のスープも頼む・・何かのポタージュで美味しい・・色は紫色なのだが。揚げ菓子もまた食べている、成長期の食欲って見てる方がお腹一杯になりそうだ、お兄もそうだったな・・ちゃんと食べてるかな・・食べてるな、お兄は何が有っても。


少年はなかなかの話し上手で、故郷から王都までの旅の様子を面白可笑しく話してくれた。街道の途中にある避難小屋で一晩過ごして、心細かったけれど星が凄く綺麗だった話や、魔獣に出会って慌てて逃げた時に、駆け付けて助けてくれた騎士が凄く強くてかっこ良かった話など。訪れた街での名物や、伯父さんの女のお友達がブッキングして、初めて修羅場を体験したなどなど・・目をキラキラと輝かして語る。


「ど コ 一番 いぃ?」の質問に。

「そりゃあぁ俺の故郷が一番よ、なんたって皆がいるからな。俺は何処までも旅をして、いろいろ見て聞いて、故郷の皆に面白い話を聞かせてやるんだ。王都で俺の美声に痺れた女が、山ほど出たんだ!って自慢してやる」


そうだよね・・帰る所が無ければ、旅じゃなくて放浪だ。

流浪だ、放流だ、鮭ではないぞ・・鮭だって帰って来るカムバックサーモン。



楽しく会話し食事をしていたが、陽が陰って来て子供の時間が終わりに近づいて来た。


「ハイ、コレ・・記念 証拠。歌って 売っタ 故郷 皆 見せ」

ひとつだけ、売らずに残しておいた・・つまみ細工、淡い水色の小さな花。


「好キ 子 プレゼント す いよ」

「マジ?有難う。すげえ嬉しい」


少年とは屋台村の入り口でさよならした、元気でね怪我しないようにね、それだけ言って別れた。家まで送って行ってくよ、って言ってくれたが、家など無いし・・彼に秘密の出入り口を見られる訳にはいかない訳。独りで帰れる、大丈夫って言って断った。明日になれば顔も忘れるだろう少年に、こんなにも心が残るのはきっと寂しいからなのだろう。


振り返らない様に、真っすぐ前を向いて歩く、グッと奥歯を食いしばって。

登り坂のせいか、足がなかなか進まない・・緊張したけれど、楽しかったんだ。此処では同じ目線で話せる相手はいなかったから・・勇気を出して扉を開いて、ここに出て来てみて良かった。やっぱり王宮暮らし・・貴族の生活より、コテコテの庶民の自分には外の世界の方が楽に息ができる気がする。


扉を潜る前、立ち止まらないつもりだったが、もう一度だけ街を見下ろそうと振り返った。いつの間にか夜が迫り、あちらこちらの窓に明かりが灯り始めている。その一つひとつの下には、家族や友人が集まって<祈りの日>を過ごしているんだろう。泣いたり笑ったりしながら・・灯りの下には人々がいる。


挿絵(By みてみん)


詩乃は昔から黄昏時や、夜景を見ると悲しくなる質だった。

悲しくなると、待っていてくれる人がいる我が家に、息を切らして帰って行ったものだ。返れる場所を作ろう、安心して存在していい場所が、自分には必要だ。



 楽しかった満足感と寂しさと、消化しきれない数々の思いを沢山抱え込んで、詩乃は地下通路を戻って行った。途中迷ってりして、くたくたになって離宮の裁縫室の隠し扉にたどり着いたが、安心感や自分の場所に帰った様な特別感は特に無かった。


風呂に入り、さっぱりして布団中に潜り込む。

『もう、あの少年は寝たかな。名前、聞いとけば・・よかったかな・・』


おやすみなさい、少年・・・良い夢みろよ。

この晩、この世界に来て初めて、詩乃は他人を思って眠りについた。



夏の夕方に蜩のカナカナ・・・・の鳴き声を聞くと、寂しくなったものです。

・・・あぁ、宿題が終わっていない。

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