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騎士爵のヴィ

今度はヤンキー系騎士です。

 あの神殿のファイトを見た日から、詩乃は早起きさんになった。


雪が降らずに雪かきが必要で無い日でも、寒さで薄く凍った石畳の道は滑りやすい。神殿に向かう女の人達が転んで怪我をしない様にと、薄く張った氷を熱風の魔術で溶かし、石畳を乾燥させながら歩き回っているのだ。彼女らは辛そうで寂しそうで悲しそうだが、失いたくない人がいるのが・・祈る姿が眩しかったからだ。詩乃は身近な人々を、すべて失って此処にいるのだから。居なくなると寂しい、傍に居てくれるのが当然だと思っていた、あの安心していた日々が懐かしい。


「いつかこの世界でワンコを飼ったら、ウララと名前を付けるんだ」

そんな事を考えながら作業を続けている。



 このところ聖女様は、神殿へ移る為の打ち合わせが有る言う事で、離宮に帰って来ない日が多くなっていた。神殿には神官の他に女性神官もいるようで、聖女様のお世話に離宮の女官達は付いては行けない。

両者は微妙に仲が悪く、陰では聖女様の取り合いになっていると噂されているそうだ。聖女様も別に離宮から出る必要は無いのだが、訪問者が煩わしいとかで(①や②の事に違いない)神殿で心静かに祈りたいとのご意向だそうだ。


『神官は男だけどね・・・』

聖女様的には異性にカウントされていないらしい。

神官達は基本的に魔力の低い者達だ、貴族出身者が学者神官や儀式神官の上級神官に、片親が貴族の平民出身者が下働きなどの雑務をしている下級神官なのだそうだ。

本来なら魔力の低い身では王都を追放されるのが決まり事なのだが、貴族の出身者ではひ弱で、とてもじゃないがあの<不浄な地>では暮らせない・・子煩悩な貴族の親が緊急避難的に神殿を使ったのが定着してしまったそうだ。まぁ、貴族でも子供思いな者がいるようで微笑ましいが。

魔力の少なさから貴族達からは軽く見られ、ひ弱さから平民には馬鹿にされ、うっ憤が溜まっていたところに聖女様の召喚術を再発見した功績が降って湧いきて、神殿は今バブル時代の様に浮かれているそうなのだ。これで聖女様までも懐に囲い込めれば、発言力もれ大幅アップ!すると言うものだ。

聖女様の心を無視して周囲が勝手に進めていく、詩乃だったら怖くてたまらないだろう。


「よう、ちっこいの今日もご苦労だな」

朝も早くに何故かヤンキーみたいな騎士がいた、何故朝早くから詩乃がボランティア活動しているのを知っているのだろうか・・怪しい。不審者を見る様に、上から下までジロジロと観察する。白いから神殿騎士なのだろうが、白い装具に赤いラインが入っている所が他の者と違う、偉そうにも強そうにも見えないが態度は無駄にデカい。


「ホレ、これ懐に入れておきな暖かいから」

焼いた石を厚い布で包んだ懐炉を渡してくれた、なるほど暖かい・・重いけど。

詩乃はお礼に膝を折る、こいつが貴族の関係者じゃないとは言い切れない、何か失礼をして怒らせると面倒だ。


「よせよ、俺様はA級平民同士の親から生まれた、純粋なハイブリッド平民様なんだぜ」

威張るところは其処か?だが何かが他の白と違う、威圧感が有る・・そう、あの大魔神並みに。詩乃は装具のラインを指さした。

「これか?これはな~カヨワイ平民で有りながら、武運も鮮やかに武功を上げた平民様が手に入れた騎士爵の印だ。どうだスゲ~だろ~~。」


うん、脳筋だね。「ブ~ウん?」


「ブ~じゃねえよ、魔獣を倒して功績を上げると、平民様でも目出度くも貴族の仲間入り~ってやつだ」

何だよ、その疑ってるツラは?俺様は強いんだぜ。


何気に自慢しているが確かに中肉中背でスラリとしている、筋肉の付き方がスピード系のアスリートの様だ・・詩乃は筋肉には詳しいお兄が熱く語っていたからな。髪と目の色は、貴族の特徴的な金髪系青目ではなく、栗色の髪と灰色の目だ・・地味!。でも太々しい目が印象に残る、ヤンキー系騎士と言ったところか。門の前に立って睨みあっていたら、いつの間にか女の人がやって来ていた。


「よぉレア、なにか困った事は無いか?」

「カル、小僧の風邪は治ったか?」

女の人達に次々に声を掛けている、顔は無駄に広い様だ族の頭みたいだな。


「ヴィ、アイツが最近しつこく言い寄って来て・・」

「なに、あのへなちょこ男爵令息がか?」


・・・よろず相談所になっておりますな・・・


「任せろ、俺様が絞めておくから。幼馴染の大事な彼女に指一本触れさせんよ、ふざけた真似しやがってふざけた、あのモヤシ野郎」

「有難うヴィ、でも危険な事はしないでね。また魔獣の一杯いる危険な場所に行かされちゃうわ」

そう言うと、おねえさんはヴィの頬に軽くキスして礼拝堂に入って行った。


「俺の幼馴染は強くて人が良い奴だからな、便利に使われて全然王都に返してもらえないんだ。俺様みたいに要領が良いと、何故だか上官が戦死するんだがな~。おいおい冗談だ本気にすんなよ、どんなに無能な上官でも魔獣がうようよいる所では貴重な戦力だからな・・囮の・・な」


後半は声が小さくて聞き取れなかった、ヤンキーはノイズは煩くないけれどチクチク感が強い。にやけた顔していながら、詩乃の事をかなり警戒しているようだ。

ヤンキーは良い奴なの悪い奴なのか良く解らないが、お布施に困っていそうな女の人に小銭を手渡している。誰かが無事を祈ってくれていると思うと、気分が良いものだからな・・と言いながら笑っていた。


『神官の懐に入るだけなんだけどな・・』

女の人達が嬉しそうなので何も言わない、祈る事が彼女には大事なのだろう。



    ****



 離宮に戻りいつもの食器洗いを終わらせて、今日も今日とてスパンコール作業を頑張る。キラキラ光って綺麗だ、今日もお手伝いのメイドさんが3人来た。手が足りないので、王宮の方からも応援が来ているのだ。座っての作業だし御喋りも出来るので、人気のある仕事で希望者が多いそうだ。


「シンプルだけど素敵よね~貴族のお嬢様の衣装より聖女様って感じで好きだわ」

おおむね好評で嬉しい、これで~いいの~~だ。詩乃はいつも黙ってヒヤリングに勉めているのだが、ふと隣のメイドさんを見たら胸にピンを刺していた。


「これって・・」

ジッと見つめていたので気が付いたのだろう、ちょっと頬を染めて許嫁に貰ったとのだと教えてくれた。


「真面目な顔をしてね、ピンを真っすぐ差し出して・・俺がいない間に、お前が貴族に攫われたらいやだから・・って言ってくれたのよ。もう3年になるから、今度の配置換えで戻ってくると思うわ」

「そうしたら、いよいよ結婚よね?準備は整っているの?」

「ええ大体は済んでるの、冬の社交が大幅に削減されたでしょう、休みが取れやすくて助かったわ」


手も止まらないが口も動く動く、『削減?』そういえば、あの<お手玉>お茶会から呼び出しは無い。


「聖女様の御蔭ね、凄い陰謀が暴かれたんでしょう?」

「インぼー?なに?」

「聖女様のご出席されたお茶会で、誘惑の秘術が使われたらしいの。知らないうちに相手に魅かれて逃げられなくなる嫌らしい魔術で、袖にされた異性にコッソリと使われる事が多いそうよ。秘術と言うぐらいだから、よほど精神が研ぎ澄まされていないと気が付かないで術に落ちてしまうそうだけれど。流石に聖女様だわね、そんな姑息な陰謀など看破しておしまいになったのよ!」

「そうそう、魔術師長が怒り狂って、首謀者と実行犯の捜索に奔走しているんだって」

「自分の領分を穢されたお気持ちなのでしょう、王宮のセキュリティーは師長の絶対領域だから」


『おぉぅ、銀ロンがニーハイ履いて、絶対領域とか叫んでいるの想像しちゃったよ、キモッ。頑張っているんだろうけど、聖女様にアピールとか・・していないんだろうな~~不憫枠だよね。あの、おじさん。』

事件の捜査が終わるまで、社交界はストップなのだそうだ、使用人には大変に好評の様である。良かったね。


「ねぇ、あなたは聖女様はどちらの王子に輿入れなさると思う?」

「こここ・・コシれー」

まだ聖女のお披露目もしてないのに、輿入れ?聖女の仕事はどうするんだ?


「あら、だって聖女様は王家の血筋を残すために、この世界にいらしてくれたんでしょう?王家の方々はお子様が中々授からないから。此処だけの話、両王子も王様の血は入っていないと噂されていますものね。王弟様とか伯父上様とか、まぁ王族には違いないんだろうけどね。この世界のお相手じゃあ駄目だから異世界からのお輿入れ?玉の輿?運命の出会い?」

「異世界を超えての恋?素敵だわ~」

「艶やかな第1王子・冷徹な第2王子どちらも見目は素敵よね」

「見目はね・・・」

お?意外とメイドの皆さん解ってらっしゃる。


「王子達や王妃の座を狙っていた、高位の貴族令嬢達は突然現れた聖女様に大ブーイングで・・お命を狙う者まで現れたとか」


『はぁ~~~、これじゃぁ神殿に籠りたくもなろうと言うもんだ』

勝手に呼び出しておいて命を狙う?勘弁してよ、このところ、聖女様に会えないのも詩乃を巻き込まない為なのだろうか。


「そういえば、朝神殿の前でヴィに会ったわ。なんでも上官が酷い怪我をしたとかで、その責任を問われて軍法会議に呼び出されて王都に戻って来たんでしょう?ふらふら歩いてていいのかしら」

「えぇ、死神のヴィでしょう。何でも特別な任務だとかで、公爵に呼び戻されて来たって自分で言ってたわよ」

「あら、私は良い子が出来たから、逢引する為に休暇を取ったって聞いたわよ」


『胡散臭い奴・・』

わざわざ早起きして詩乃に近づいて来た?新たな厄介者の出現にうんざりした詩乃だった。


聖女様は大変です。

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