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神殿と神官

雪の朝って、独特な感じがしますね。(雪無し県の感想です。)

 朝、目が覚めてシン・・とした、この世界では珍しい静寂を感じた。


「ノイズが無い?」

不思議に思って、カーテンを開け窓の外を見ると白い世界が広がっていた。


「わぁ、雪が積もっている」

チラチラ舞っていた雪が、溶けては降りを繰り返し、ついに根雪となって雪景色を作った様だ。静かでいいね、一人呟いた詩乃は作業着に着替えて外套も羽織った。


冬の外仕事に詩乃の出来る事は少ないが、今日はやれる作業もありそうだ。

このところ日中は、聖女様のお披露目用の衣装の<スパンコール取り付け作業>を延々と続けている。同じ姿勢で作業していると関節が固まって凝ってしまう様な気がする、伸びをするとバキバキと身体から音がしたORZ。

「手作業も良いんだけど、たまには体を動かしたいよね」


いそいそと外に向かう、離宮の中はまだ眠っているのか、静かに沈んでいる様だ。


 凍り付いたドアをやっとこさ開け、外に出ると途端にキンッ冷たく硬い空気に包まれる、その清冽で新鮮な空気を思い切り吸い込んだ。大きく深呼吸~体操始め!作業前には準備体操、NIPPONの会社の基本ですな、関節を緩める様に大きく伸ばして息を吐く体の中を血が巡って行くのを感じる。

「ストレッチ~~~」


フアァ~と、息を吐くと真っ白に沸き立って流されて行く、北風だね寒い寒い!

詩乃は慌てて毛糸で作った耳当て付帽子イアーワッチ帽を目深にかぶり、首にはお爺ちゃんとお揃いのスヌードを付けた、準備完了!!



 貴族の歩く通路には半円形の屋根が付いていて、魔術具の働きなのか雪も積もらないし、風も遮られる様だ・・ムムウゥ・・ハイテク。

でもその結構な通路は貴族用で、使用人の平民達が歩くのは許されていない。

「けち臭いよね・・貴族って」


よく見みると其処かしこに獣道の様に歩いた後が有る、朝早くこの辺を歩くのは食材を届ける賄い方の人達だろう・・道を作りながら歩くのは難儀な事だね。

『よし、雪かきしよう』


雪国でお馴染みのスノーダンプもないが、そこは魔術の国である。

熱風で雪の下を溶かし、花殻を吸い取る要領で雪を持ち上げ吹き飛ばす。

気分はラッセル車だね、TVのニュースで見たっけ、線路の雪を跳ね飛ばしながら爆走する冬のニュースの風物詩。


後で・・本当に後で聞いたところによると、一度に複数の魔術を扱うのは本来難しい事なのだそうだ、しかしそんな事は当時の詩乃は知らないし聞いてもいなかった。正式な魔術の講義は受けていない(ボイコットしたし・・だって解らないんだもん)し、自己流で間に合うから質問もしない。思えば小さい頃から自己流が多い子供だった、質問するのが面倒なのが本音なのだろう。何で先生と言う教える種族は、聞きたい事以外の事まで延々と語るのもだろうか?・・永遠の謎である。

根はオキゴンドウに憧れる、横着者の詩乃なのである。



足跡に沿って幅1メートルくらいで雪かきをする、調子に乗って下ばかり見てドンドン進んでいったら神殿のテリトリーまで来てしまった様だ。面倒事が起きないうちに撤収しょうとした時に・・。


「おい、そこのチビ、早く裏門の雪を除けろ」

偉そうなおっさんに呼び止められた、神官か?前に見た泣き虫のお爺ちゃんと違う服を着てるけど?


「何だ新入りか、裏門はそこの細い通路をぐるっと回った奥にある。そろそろ参拝の平民共が来る時間だ早くしろ、門の扉が開けられなければ拝礼出来ないしお布施が減る」


何だぃお布施の心配かよ・・なんかもう、生臭そうな神官だね。

ここで逆らって朝っぱらから騒ぎを起こして、女官長に睨まれるのも面倒だし。ここは、はい!っと言う素直な心でボランティア活動に勤しみましょうか。ぺこっと頭を下げて裏門に向かう。


 聖女様の出てきた門が正門か、そういえば飾りも多くて無駄に豪華だったね。

早足で向かうと如何にも裏門?って感じの、日当たりが悪く装飾も無い、えらく質素・・シンプル・・な門に出た。北側なせいか、雪が吹き溜まっていて門を開けるのも、参拝するのも大変そうだ。片づけるのは良いのだけれど、雪をどこに移動(捨て)るか?が問題だ、後から怒られても業腹だし。彼方此方と観察すると、神殿の周りは堀になっているようで下の方に氷が張っている。うん、此処なら捨てても大丈夫そうだね。詩乃は再び人間ラッセル車と化し、雪を堀に投げ入れ始めた。ドドドドド・・雪がもうもうと舞い上がり面白い、門の前の雪も粗方片付けられて、作業も終盤になって来た時だ。遠くの方から何かが塊になって歩いて来るのが見えて来ただ、此方を・・神殿を目指している様だ。


「女の人達?こんな朝早くから?」

若いお嬢さん~妙齢のご婦人までが数十人、白い息を吐きロザリオの様な長い数珠を手繰り寄せながら俯きトボトボと歩いて来る。何か皆一様に深刻そうな、憂いのある顔をしている。


不思議に思って見ていたら、神官の下っ端そうな細い男が門の扉を内側から開けてきた。門が重いのか、細いのが非力なのか必死の形相だ・・手伝わないけど。

「おいチビ、蝋燭に火を入れるのを手伝え」

細長い棒の先に蝋燭が付いた物を渡される、

「火を消すなよ、面倒だから」

なんとなんと!!神殿は魔術具が無いのか?蝋燭で明かりを取っているのか?


『おおぅ、ビックリだよ』

王宮内でのこの格差、この礼拝堂は平民専用なのか、しっ・・シンプルで、風が入らないだけマシだが外気温と変わらない寒さだった、吐く息が白く見える。


女の人達が入り口の門から入って来て、祭壇の前に列を作って並び始めた。

さっきの偉そうなオッサンが、勿体ぶった態度で籠を回してお布施を集めている、最後まで回るとチラッと籠の中を見て面白くなさそうな顔をしていた。

一方の女の人達は、祭壇の前に額ずいて何かを一心に祈っている。

此処は寒いだろうに、そんな事は何でもないと言う様に。


「おい、今のうちに飯食っておこうぜ」

細い男に声を掛けられる様、どうしよう神殿の者では無いんだけど・・躊躇していたら、さっさとしろよ、食いっぱぐれるぞ!と怒鳴られた。強い口調で言われるとつい従ってしまう、こちとら小市民なんです、優しくお願いします。


連れていかれた神殿の食堂は、しっ・・シンプルで、市役所の食堂よりも簡素だった。朝食も御粥みたい物で、詩乃は若干嫌な事を思い出した。

細いのはさっさと食べ始めている。


「まったく、寒いのにご苦労なこったな。」

何の話だ?首を傾げる詩乃。


「平民の女達だよ、もうそろそろ地方に出征する命令が出るって言う噂が有るから、その出征の選別に彼氏や旦那が当たらない様に此処に祈りに来るんだぜ。もう半分は出征している奴らの女達だ、無事に自分の所へ帰ってくるように祈っている」

「しゅ セイ?」


何だ?お前えらく訛っているな、そう言いながら細は付け合わせのピクルスをボリボリ齧る。

「第2王子の奴が、魔獣を討伐するのに地方に拠点をいくつか設けただろ?そこに2年交代で王都から騎士が派遣されるわけよ、もちろん平民騎士が中心にな。生きて帰れる保証は無い、そこで女達は祈願しに神殿に来るわけさ」


細は厳かに祈ってみせる、胸に手で十字を描くのでは無くて何故か柏手だった、一礼二拍手パンパン。

「まじゅ 平民 守る きぞく しごと ちが~?」

「建前はな、御貴族様も昨今は魔力不足でな、<王都の外は穢れの地>とか抜かして行きやがらない。

魔術師共は頭脳労働者とか言い張ってるし、魔獣を迎え撃つ程の運動神経も無い。赤も青の騎士も中身は平民のA級よ」

「しんで ん なに しこと?」

「昔からの仕来りを後生大事に守り続けるのがお仕事よ、聖女を召喚する秘儀を見つけ出したのも神殿の学者神官だ。見つけただけで、此方に呼び出せるほどの魔力は無かったがな。御蔭で魔術師長に手柄を横取りされたって、爺どもが愚痴垂れて鬱陶しいたらありゃしねぇ」


『あんのぅ、爺~~~どもぉ』


 そんな話をしていたら、礼拝堂の方で騒ぎが起こっている様子だ、誰かが大声で騒いでいる。細と顔を見合わせて急いで礼拝堂に向かう、女の人達があんなに一生懸命祈っている神聖な場所なのに、何してくれるんだ!ダメじゃないか。

礼拝堂に駆け付けてみれば、さっきの偉そうなおじさんの上に、もうちょっと老けたおじさんが馬乗りになりボカスカ殴っている。


『うわぁ~~マウントポジション!!タップして、タップ!!』


「儂のお布施じゃぁ、返せ!返しやがれ!!」

「あんたが、グズグズしていたのが悪いんだろう!平民は皆仕事があるんだ!早く扉を開けてやるのは親切心からだぁ」鼻血を出しながら反論するおじさん。

「だまれ、中2級の神官のくせに!礼拝をするなど10年早いわ!」

また殴ろうとしたら、下から三角締めで反撃されている。

甘い、甘い攻撃だ関節が決め切れていない、脳筋お兄が見たら指導が入りそうだ。


『血が、血が、あんなに一杯・・・ここって神殿だよね?』

呆然とする詩乃をしり目に、おっさんファイトは続いている。

喧嘩は辞めろ、怒りは駄目だ、お布施の事で争わないで~、お母さんのカラオケの十八番を思い出してしまった。恋バナと違って華が無い、実にない。


「いい加減にしないか!」突然、凛とした声が響き渡った。


・・この声は・・そ~~っと振り返ると・・布団の白騎士が其処にいた。

「・・おは よ ごじぇ りす・・」

布団は詩乃の顔を下に確認すると、片方の眉をヒクッとさせた。


『また、意外な所に居まして、どうもすいません~~』

(ひいばあちゃんは、林屋〇平が好きだったな。)


布団は周りの騎士に何やら指示を出すと、詩乃を小脇に抱えて礼拝堂から出た行った。細が唖然とした顔をしていたので、手を振っておいた・・バイバイ。


神殿の裏門から出ると、黙々と歩いていく・・機嫌が悪そうだ。

何度か下ろしてくれと頼んだが無視されたので、ゲボが出そうと脅したら詩乃を道に下してくれた。神殿を警備する布団騎士も、例の召喚の儀式の時にギャラリーでいたらしい。各方面にトラウマを残している詩乃さんなのである、エヘン、と言う事は布団騎士も貴族のお坊ちゃまなのか?


詩乃が雪かきした道を、離宮の方に向かった2人並んで歩いていく。

今朝あった喧嘩の事の次第を説明する・・拙い詩乃の言葉だが、何とか分かってもらえた様子だった。


「貴族の出生率は低い、子供は多くて2人が良いとこだ、しかも子供の魔力は年々落ちて来ている。A級の平民同士では、平均6人の子供が授かっているのにな・・。平民の子供は出生時と10歳の時に魔力検査の選別を受け、低い者は地方に残され、魔力がA級の者は王都に連れ去られる。そして王宮の使用人や・・騎士となる、騎士など名前は恰好が良いが、要は貴族の使い捨ての駒だ」


それでも彼らは命令には逆らえない、王宮に王都に人質が居るのだから。

騎士の女には印のピンが与えられていて、その者に手を出す事は貴族には禁止事項だ。女の安全を願い、平騎士から騎士爵に成りあがり生き残るため為、A級平民の男たちは穢れた地に赴いていく。


「貴族は何もしないの!」

あんなに威張っていて、役に立たないなんてあんまりだ!ノブリス何とかオブリュージュはどうしたんだ?騎士道や武士道は無いのか!!不満が一気に顔に出る、むしろガンガンに出してる。

布団騎士は少し悲し気な顔をして、詩乃の頭をポンポンして黙って神殿に戻って行った。離宮が見える所まで、迷子にはならないよう送ってくれた様だ。




 A級平民は庭師のおじいちゃんと同じで、故郷から攫われて来た人の子供や孫世代なのに。そのA級平民からも、外の世界は忌避されているのか・・。


<穢れの地>


どんな世界なんだろう、名前の通り、恐ろしい場所なのだろうか・・。

この前のお茶会のお爺様貴族は、自分の領地をそんな感じには言っていなかったけれど。


もう、何が何だか、何を信じていいんだか・・・真実は闇の中だ。




王宮も②も嫌いだ、でも外の世界も怖くて出て行くには勇気がいる。

見かけも心も、お子様な詩乃は途方に暮れていた。


この頃TVで格闘技みませんね~見ていないだけか?!

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