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天眼石

グロ注意

 聖女様のピパノ熱血コンサートに懲りたのか、各種のお誘いは大分減った様だ。

此処数日、離宮の生活は何事も無く穏やかだった。


約束していた学習時間をやっと確保できた聖女様は、猛然と鬼気迫る勢いで学び始めた。う~ん、さすが進学校の才媛、覚えも良いようで講師陣は賛美を惜しまない。聖女様には詩乃ちゃんも一緒にどうかと誘われたが、自分に出来る事を増やしたいからと言って断った。

だって・・この世界の歴史や、貴族の家系図なんて興味無いもん。


聖女様の学習は王宮の一室で行われる、離宮を使うと不特定多数が押し寄せた場合に警備が困難な為だそうで、特定の派閥(神殿関係)や妙な人物(➀王子)の接近を阻止するなどの理由があるそうだ。このまま聖女様を囲い込みたい②と、新たに接近したい①のせめぎ合いなのだろう。誠にご苦労な事である。


詩乃も下級の魔術を習うため、聖女様の馬車に便乗させてもらい王宮に向かう。

王宮に行くのだから、それなりの恰好を義務付けられているのだが・・。



 『・・服が無い』


当初詩乃のタンスには、7着のゴスロリドレスが入っていた。

最初にリメイクした若草色のAラインのワンピース、お茶会に出席する為に黒に染めてリメイクしたメイド服、今何故か在庫がその2着のみなのである。ミアには赤ゴスを好きにして良いとは言ったが、残り4着まであげた覚えは無い。


『どこにやった?手癖の悪いメイドだね、どうしたもんだかな~』

新たな悩みの出現だ、仕方がないので本日もメイド服だ、匂わないといいんだけど・・消臭の魔術でもあるかしらん?


出発の時間に玄関に行くと、聖女様が待っていてくれた。


「おはよう、よく眠れて?」

いつも優しく詩乃に微笑んでくれる聖女様だが、女官長はじめスタッフには視線も向けない。家具を見るような、無機質な感じの接し方である。

多分、まだ心を許していないんだろうな・・心の闇は深そうだ、たぶん相模灘クラスの深さだろう。信頼するスタッフが周囲に出来ないと生活するにも大変だろう、現に詩乃は2着しか服が無い状態になった。


ミアは詩乃用のメイドだが、用事が有るとかで王宮に同行しようとはしない。

服のリメイクでもしているのだろうか?詩乃も聞きもしないので行動は謎のままだ、正直どうでも良い・・居なくなってくれても支障はない。


聖女様が王宮に出かける際、使用人達は揃って玄関に並ぶのだが、その中にミアもいた。馬車に乗って窓から使用人達に目を向けた詩乃に、ミアがニヤリと馬鹿にしたように口元を歪める。


『・・売られた喧嘩は言い値で買うべきか・・』


聖女様に頼めば、ミアはすぐに外され居なくなるだろうけれど。

ただでさえ大変な生活を送っている聖女様に、これ以上の心配をかけるのも気が引ける。それに使用人達との信頼関係を作る邪魔になりかねない、味方は一人でも多い方が良いに決まっているのだから。

・・・そんな事を考えていたら、いつのまにか王宮に着いた。



 聖女様と大きな玄関で別れ、王宮内の魔術師の別館、訓練塔の様な所に行く。

そこで魔術の勉強をしてはいるのだが・・初日に魔術理論を延々と唱えられ、早々にギブアップした詩乃は、理論より実践的な使える魔術を教えてくれと頼み込んだ。講師は下っ端魔術師ながら貴族の出な様で、プライドが無駄に高く、詩乃の申し出を鼻で笑ってくれた、完全に平民B級の詩乃を馬鹿にしている。彼は薄緑色に光る銀髪持ちで、詩乃は密かに銀蠅君と呼んでいる。


訓練室に入り、今日も今日とて詩乃が石板を取り出すと、銀蠅君は非常に嫌な顔をする。話が通じないので(中学生に大学院並みの勉強は無理だろう?)この頃では詩乃がリクエストでや質問を描き、銀蠅君が答えるスタイルの学習方法が多い。


詩乃は石板に自分のメイド服の絵を描き、鼻を摘まむ・・困惑する銀蠅君。

服の絵から波線<プーン>を描き、また鼻を摘まむ・・睨み合う詩乃と銀蠅君。


たまらず銀蠅が言った「臭いのなら、洗わせれば良いのでは?」


そこだ!詩乃がズビシッと指を向ける、思わずのけ反る銀蠅君。


そう、貴族の衣装は無駄に布面積が大きいし、フリルだ刺繍だと繊細な事この上ない代物だ。非常に卓越した洗濯技術が要求される、だが人力では些か難しい作業の為、魔石を使った魔術具を使う事になる。その魔石の年間消費量が莫大な数になるらしいのだ。

銀蝿君も言っていただろう、魔石が枯渇し初めている昨今、省エネの魔術具が必要だと!そこでだ!消臭スプレーの様に手軽にシュッシュして、匂いや汚れを取り除けたら魔石と手間の節約にやるではないか!!


『だから、作ってくれ~~銀蝿君』


銀蝿君は詩乃の訴えを聞くとしばらくフリーズしていたが、金縛りが解けると同時に何やら猛然と真剣に考え始めた・・詩乃は学生に課題を与える大学教授とは、こんな感じなのかな?などと考えながら部屋を後にする。ああ言う状態になった銀蠅君は返事もしてくれなくなるし、モアイ像の如くになって動かなくなるのだ、頭を使うと体は活動を停止するらしい・・互換性が悪いね。


『う~ん、お客様相談窓口に電話してくるクレ~マ~の方が近いかな?』

益体も無い事を考えながら歩いて行くと、いつの間にか青護衛のギイさんが後ろにいる。

『出待ちですか?有難うございます』

言葉を出さない詩乃は、軽く膝を折って彼に挨拶をする。



 午前中に銀蠅の講義?が終わる詩乃は、聖女様を待たずに離宮まで歩いて帰る。

馬車じゃ無ければ1時間くらいのウオーキングになって、運動不足の身にはちょうど良い感じなのだ、離宮の中ばかりに閉じこもっていたら気分もクサクサするしね。

そういえば、初日に付き添いで王宮に来たミアに。

「歩いて帰るなんて馬鹿じゃないの!日焼けしたらどうしてくれるのよ!付き合いきれないわ!!」

・・と怒鳴られたっけ。


貴族たちは歩く事も陽に当たる事も避ける為、会いたくなければ歩くのは良い方法なのだ。青護衛のギイさんは毎回違うルートで帰り道を案内してくれる、林の中を散策したり、人口の池を巡ったり・・花がちらほら咲き出した庭園を眺めながら歩くのは思いのほか楽しかった。


『あ~ぁ、離宮に帰りたくないなぁ。もう一枚の服と下着は無くなると困るから、風呂敷に包んでベットの間に隠してあるけど。タンスの中には・・』


・・フッと香った風に足を止める、早春に咲く白い花、梅によく似た花が満開になっていた。良い香りと見渡してみると、かなりの数が植えられていてまるで花霞の様だ。

庭師の人なのか、お爺さんが手入れをしている。

あのお爺さんは確か離宮に部屋を作った時に、家具を使って良いよと(たぶん)言ってくれた人ではないか!嬉しくなった詩乃は、お爺さんに駆け寄った。

ナマステ~の挨拶をする、詩乃の事を覚えていてくれたのか、お爺さんもニコニコしてくれた。早速、詩乃は石板を出して絵を描き質問する。


花➡実+砂糖+酒=梅酒

   ↘塩+実=しわしわの実・・・食べる真似をして、酸っぱい顔をする


酸っぱい顔をする詩乃に、大笑いをするお爺ちゃん。

もともと祖父母にお世話になっていたから、かなりの年寄りっ子な詩乃である。

お爺ちゃんの言う事には、王宮の人達は採れた実を誰も口にしないが、お爺ちゃんの故郷では、塩とハーブで漬けて酸っぱい漬物にすると言う。


「それって、梅干しじゃぁーん」

嬉しくなった詩乃は、実が生ったら自分にも下さいと念入りにお願いをした。



    ****



 梅干を夢見て、少しばかり気分が上向きになり機嫌良く離宮に戻った。

青護衛良くのギイさんにお礼を言って自室に戻る、お昼ご飯の前は自由時間なのだ、この時間を詩乃は<空の魔石>の自由研究に使っている。


自室のドアを開けた途端、誰かが掴みかかってきた。

咄嗟に振り払って手を捻りあげ、俯せに倒す・・大魔神に仕掛けられた技だ。

怒りまくって、じたばたと暴れる暴漢を膝に力を込めて潰し行動を征圧する。

大きな音に気が付いたのか青護衛のギイさんと、メイド達が何事かとワラワラと集まって来た。


「この女が!この女は魔物です!!」


苦しい息の下で、精一杯の大声を出している・・女か。


「ミア?」

「ちょっと!ミアあんたどうして・・・きゃぁ!」

メイドが驚いて悲鳴を上げる。

「騒がしいですよ、どうしたのです」

女官長代理まで来てしまった、もう大騒ぎになってしまって内内で処理できそうにも無い感じだ。


「大変です!ミアのミアの目が」

皆、ミアの顔を覗き込み・・騒然とする、だってミアの目が天眼石に変わっていた。



【天眼石・・パワーストーンのひとつで、非常に強力な邪気払い・魔除けの力が有ると言われている。目玉模様の石で、トルコのお守りナザールボンジュウによく似ている。子どもの日に空を泳ぐ、鯉のぼりの目に似ていると言えばもっと解りやすいだろうか・・眼の様な模様は鳥を追い払う以外にも、泥棒避けとして世界中で使われている】


もうこれ以上服が無くなるのを避けたかった詩乃は、服をベットの間に隠し、空いているタンスに≪天眼石≫を作って入れておいたのだ。

それを見た泥棒が驚いて逃げ出してくれる事を願って、しかし泥棒は性懲りも無く現れて、タンスを開けて≪天岩石≫をモロに見てしまった。

その結果が・・これである。


詩乃の顔を睨みつけてくるのだから、ミアの目は見えてはいるのだろう。

ただただ不気味な目であるが・・どうしよう・・途方に暮れるのは、詩乃も同じだった。


    ******


 その後、ギイさんから連絡された②の命令で、女官長・青護衛のギイ・数人のメイドとミア・詩乃が会議室に集められた。②の付属品の大魔神も一緒である。


双方の言い分を聞いていた②は、ミアの目を至近距離でのぞき込んで唸った、(こんな時でも、ミアは頬を赤く染めていた、ある意味大物である)魔力は感じられないと。

詩乃はあの天眼石は異世界から持って来ていた物だと嘘をついた、本当は<空の魔石>で自分が造った物だったが、面倒臭い事に巻き込まれそうな匂いがプンプンしたからだ。


「何だって、そんな泥棒避けの守り石をタンスに入れていたんだ」

大魔神が聞いてくる、答えようとする詩乃を天眼石の目でミアがギロッと睨む。

・・・うぅ、不気味・・・。




「ありました、お話の通り、ミアの部屋の中からお嬢様のドレスと、改造途中でバラバラにされたドレスが全部で4着分出てきました」

ノックの間もなく、会議室に入って来たメイドがドレスの末路を報告する。


「どう言う事です、ミア?」

女官長の瞼に埋もれた目が薄く開く、鋭いめが・・・かなり怖い。


ミアはもう失神寸前だ様・・物理的に。

②をはじめ、大魔神・女官長と魔力の強い貴族に睨まれているのだから体がもたないのだろう、意識が保てずに・・身体が小刻みに揺れ、もうとても立っていられない。

他のメイド達は這う這うの体で会議室から抜け出していく、ギイは流石に護衛なのか持ち堪えてはいるが顔色は酷く悪い。


「お前はどうしたい?」・・②に聞かれる。

・・詩乃は下を向き目を瞑って、ゆっくりと首を振って見せた。タンスの中に≪天眼石≫を置いた時には、こんな事になるなんて思ってもみなかったのだ、人を傷つけようなどと考えていた訳ではなかった。・・警告に凝りて、二度と盗みをやらない様になってくれれば良いな・・くらいにしか考えていなかった。


「では、この件はこちらで預からせてもらおう。

他言無用だ、特に聖女には一言も漏らすな・・女官長出来るな」

途端に②と女官長で盛大なノイズを発しだした、腹黒い思いが音になって漏れ出しているのだろうか。ミアは既に意識は無く、いつの間に来ていた青騎士達に担がれて退場していった、青護衛ギイもいつの間にかいなくなっていた。



 お昼はいつもの様に皆で頂いたが、空席が目立っていた、誰も何も言わない。

午後の時間・・普段なら夕食の仕込みの手伝いなどをするのだが、とても離宮に居る気になれなくて詩乃は散歩の旅に出た。

ふと気配がして振り返ったら、青護衛のギイがいつの間にか後ろに立っていた。

ギイさんは、この件をどう思っているのだろうか・・詩乃の事は気味が悪いのかな。


夕方まで、当ても無く彼方此方とただ歩いていた・・足が重くて進むのがとてもしんどい。離宮に、あの部屋に戻りたくなくて、夕日の中で一人立ち竦む・・自分の影が黒々と禍々しく見えた。


振り返ると、聖女様の白い離宮が夕日色に染まり、まるで燃え立つ炎の中に聳え立っている様に輝いて見えた。


挿絵(By みてみん)


≪非常に強力な魔除けか・・≫ 恐ろしい。

いつまでもグズグズしていたら、もう帰りましょうとギイさんに促された。


  

 離宮に戻ると、東の端にあった小部屋は何故か西の端に移動していた。

前と同じようなシンプルな家具で揃えられていて、雰囲気は似てはいたが全て別物に代わっていた、特にランプと布団が豪華な物に代わっていたのが目立った。

クローゼットを開けてみたら、以前詩乃がデザインした様なシンプルなワンピースが色違いで7着も入っていた。そうして<空の魔石>の入った木箱は無くなっていた。


窓から西日が入って来て、詩乃の顔を赤く染めあげる。



 それからミアに会った事は・・誰も・・無い・・・。


ホラーっぽくなってしまいました、真夜中に書いているとこうなります。

天眼石ってこんな感じの石なんです・・どこぞの親父の様ですが(◎_◎;)

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