召喚されたモブのお約束
「B級聖女の日常」の詩乃が召喚された時のお話です。
先に「B級聖女の日常」をお読みください。
よろしくお願いします。
食事中注意、不適切な主人公の行動があります。
ざわざわざわ・・大勢の人が騒いでいる声がする。
詩乃は軽い眩暈と吐き気を覚えて、蹲って頭を抱えていた。
音が反響して頭がグワングワンとする、どこかのホールか何かなんだろうか?
何が起こったんだっけ・・・そうだ!召喚されたのだ。
サファイアのストラップを美人さんに手渡した瞬間に、足元にお馴染みの光る模様が浮かび上がり、美人さんが地面の中にめり込んで行ったのだ。
何故だか詩乃の手を掴んだまま、彼女は決して手を離してくれなかった。
これは所謂<異世界召喚・巻き込まれ編>って奴なんだろうか?
巻き込まれるのは、だいたい平凡なモブだ・・って私じゃん!!酷!
詩乃と美人さんは、白い大理石で出来た荘厳な神殿の様な出来た場所で、何やら古式ゆかしい衣装(洋風)を着た沢山の人達に囲まれて、彫刻が盛りだくさん付いた台の上に座り込んでいた。
銀髪ロン毛で若いんだか爺なんだか良く解らない顔をした、魔術師の様な長いローブを着たおじさんが、恭しく美人さんの前に額ずくとその手を取りキラッキラの服の集団の方にエスコートして行こうとする。
・・もちろん・・詩乃の事はガン無視である。
「おぉ、なんて美しい、これぞまさしく聖女様。召喚は成功した・・」
感無量なのか嗚咽を堪えるような声で、ロン毛の白髪&白く長いお髭のおじいちゃんが言っている。
詩乃的にはノイズが溢れる中・・そう受信状態の悪い短波放送のラジオの音(昔お爺ちゃんが趣味で聞いていたのだ、カードなどを集めていたようだが。お爺ちゃんの事を、どこかの国のスパイだと思ってこっそりと見張っていたのが保育園児時代の詩乃の日課だった)の様に言葉がハッキリと聞き取れないし理解出来ない。
大きくなったり、小さくなったり雑音の波の様だ。
『異世界召喚のお約束、自動翻訳が効かない?私が予定外のオマケだから?』
これは困った事になった、妙に冷静な詩乃は考える。
だいたい巻き込まれ召喚のパターンは、冷遇コースと相場が決まっている。
飛び抜けた異能でも覚醒しない限りはお払い箱だ、良くて王宮追放コース、最悪奴隷虐待コースだ。頼みの綱の美人さんは、自己中タイプか、はたまた聖母タイプなのか、ここが運命の分かれ道だ。
詩乃自身はどう行動したら良い?言葉が通じないのは痛い。
大人しく人形の様に過ごすか、お笑い外タレ芸能人枠でウケを狙うか?
頭の中と胃の中がグルグルしながらも、此処に一人で取り残されたら堪らない。
「置いていかないで、美人さん」
やっとの思いで立ち上がり、美人さんに向かって手を伸ばそうとした時だった。
「無礼者!」
大きな声で怒鳴られたと思ったら、いきなり顔面に衝撃が来た。
腕を後ろに捻りあげられ床に押し倒されたのだ、背中に遠慮なく膝と体重が押し付けられ息が詰まって苦しい。グゥッ~と変な声がでた。
「奴隷の分際で、主の許しも得ず立ち上がるなど、無礼千万!」
ぎゃぁ~~、奴隷コースすでに確定なのか?
「酷い事をするのは止めて下さい!その子を巻き込んでしまったのは私です。奴隷なんかじゃありません!」
「わあぁぁん、びぃじぃんさあぁぁん!!」
詩乃は涙と鼻血で顔面崩壊状態だ、た~す~け~て~ぇ~。
「しかし、このみっともなくも短い髪は、奴隷の証では」
ノイズの中でも、不思議と悪口は解るものだ・・コイツ嫌い!大っ嫌い!
「私の世界では奴隷などおりません、髪の長さも色も自由です、早くどいて下さい、彼女を踏みつぶさないで!」
髪かよ・・その日、詩乃は髪をカットしたばかりだった。
好みのパワーストーンを買って気を良くした詩乃は、程よくお金が余ったので、久しぶりに美容院に寄ったのだ。以前から小遣いの節約に努めていた詩乃は、髪をゴムで結わえ前髪は自分で切っていたのだが、もちろん<麗子像>にならない様に気を使ってカットしていたのだ。
それなのに・・プールの後だったので、髪を結わえずバラしていた時だ。
「なに?大西。それスフィンクス?」
クラスの男子に言われたのだ、クラス中大爆笑になって黒歴史がまた増えた。
「スフィンクス~~~!!」
激しく傷付いた事を思い出した詩乃は(実は忘れていた)美容院に行く気になったのだ。
たま~に行く美容院の、そっち系の美容師さんに
「ガ〇キーさん見たいにお願いします」と無謀にも注文したのだ。
「ガ〇キーちゃん?可愛いわよね~彼女の髪型は、誰でも似合うのよ~」
そうだ!誰にでも似合うのだ!みっともなくなんかないやい!!
息はできないし、眩暈はするしもう最悪だ。
最悪男は背中からは退いてくれたが、誰も手を貸してくれる様な親切さんはいなくって・・詩乃は仕方がなくノロノロと再び自力で立ち上がった。
「さっさとしろ」強く低い声で命令され、さっきの手が近づくのを感じた。
『触んな!』詩乃の身体は無意識に動いた。
ズバーン!!!突然大きな音がして、周囲は驚き固まった。
見ると、騎士の鎧をつけ青い装束を纏った大男が、貧相な奴隷の小娘の前で大の字になって倒れているではないか。
・・周囲は状況を理解できずに沈黙を保っている・・え~とぉ。
合気道・・7歳から合気道を習っている脳筋のお兄は、チビっこい詩乃を心配し<ロリコン注意>とばかりに護身術を教え込んでいた。
詩乃的には迷惑だっのたが、TVで恐いニュースを見ると必要性を感じたし、お兄を投げ飛ばしたり、関節をキメるのは快感だった・・意外と面白かったのだ。
『ぎや~~っ!やっちゃた~~~!!!』
「あはははははは・・・・」突然、愉快そうに大笑いする声が響き渡った。
「いやぁ~傑作だ、青騎士隊の隊長で第2王子の懐刀とも言う男が、こんな小さい者に投げ飛ばされるなど。くくく・・そなた、名は売れている様だが、肝心の実力の方は大した事ないのでは?」
さも愉快そうに、キザったらしいキラキラした服を着ている優男が笑っている。
周りを沢山の腰巾着が囲んでいて、なんだか随分とお偉いさんの様だ。
「見苦しい所をお見せして申し訳ない、立てプマタシアンタル。
小さなお嬢さんはお疲れだろう、休めるよう・・どこか室まで送り届けるのだ」
もう一人のキラキラが、呆然と座り込んでいる乱暴男に命令した。
流石にきまりが悪かったのか、はたまたボスの命令には逆らえないのか・・苦虫を百匹噛み潰した様な凶悪な顔をして、大男にしてはサッと立ち上がると詩乃の前へやって来た。エスコートの作法通り、目の前に膝をつき手を差し伸る。
・・・その時だ・・・・
・・・詩乃が突如マーライオンになったのは・・胃が限界だったのだ・・もともとライド等の乗り物系は弱い詩乃なのである・・ごめんなさい・・。
ホールは悲鳴が上がり、騒然となった。
銀髪ロン毛のおじさんは、美人さんに見苦しい物をお見せしないようにと、別室に移動させようと奮闘したが、心配した美人さんは詩乃の傍を離れようとせずオロオロとして邪魔をするばかり。
もう神殿の大ホールは、阿鼻叫喚の大騒ぎになった。
「神聖な神殿で、厳粛なる召喚の儀式で・・」涙を浮かべる白いお爺ちゃん。
キンキラ達はサッサと席を外して、この場を離脱した様だ・・案外素早いな。
その中で、デコに盛大に青筋を浮かべて、詩乃を引き裂きそうな目で睨む大男。
・・・・・臭いのでこっち来ないで下さい。
これからの自分の待遇に、かなりの不安を感じながらも。
・・ザマァ・・と思ってしまうのは、仕方の無い事ではなかろうか?
毎日12時ごろの更新を目指したいと思っています。
昼休みの、暇つぶしになれれば幸いです。
・・・・とか書いてて、いきなりこれだ。