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運命なんて、結果論!?  作者: 星月 雪
7/8

予定調和の不協和音

まず、状況を整理したいと思う。


僕は今まで、あまり色恋沙汰について意識してきたことがなかった。


先輩に憧れはするものの、その好意が恋愛においての好きなのか。は、まだ僕にはよく分からないことであった。


そう、そして今のこの状況も、そんな僕の拙い経験則から答えを導き出すには無理のある何かが、水面下で行われているようだった・・・。




ーーーーーガラガラッーーーー



「あっ、おはよう!待ってたよー。」

「あなたが先生の姪っ子さんね?はじめまして。私は真理。環君のひとつ上で、幼馴染なの。これからよろしくね!」


「あっ、はじめまして。私はあの、たっ・・・、えーっと、先生の姪っ子としてこちらにお世話になることになりました、えーと、そのぅ。」



挨拶を交わす2人を眺める。

あまりのたどたどしさについハラハラしてしまう。

お狐様、ずっと人と関わらないようにしていたようだし話慣れていないのだろう。


しかし、この狼狽がただそれだけの理由ではないことにすぐさま気付く。



「ところで、あなたのお名前は?仲良くなりたいし、早く教えて欲しいなあ、なんて。」



・・・はっ!

そういえば、お狐様の名前を僕は知らない!

なんということだ。とても単純なことだが、失念していた!

やけにしどろもどろだったのは、その為だったのか・・・。


名前を聞かれ、明らかに動揺を隠せないでいるお狐様があまりにも不憫で。

慌てて助け船を出そうとした、その時。



「ちょっとちょっと〜!美九(みく)ちゃん!忘れ物よ〜!もう、せっかくの初登校なんだから、気持ち良くスタートしないとね!ほら!これ持って!」



この展開を知ってか知らずか、ナイスタイミングで母が忘れ物を持ってきてくれた。

しかも、自然な流れで名前を呼ぶというファインプレーだ。

そろそろ、全て分かってやっていそうで怖くなってきた。


えっえっ?と混乱しているお狐様の手をとり、なにやらこっそりと耳打ちをする。

すると、冷静さを取り戻したお狐様が自信満々な表情で改めて自己紹介を始めた。



「先ほどは取り乱してしまいすみません。どうにも、人見知りで。私は美九と申します。帰国子女?で、日本語の拙いところもあるかも知れませんが、どうぞよろしくお願いします。」



いや、急に変わり過ぎだろう。

耳打ちの仕込みがエグいな。

帰国子女とすることで、人と喋りなれていない部分をカバーしようとしたのだろう。なんたる策士。


しかし、こうも急だと先輩もさぞや困惑しているのでは?と、そちらの方へ目をやると、少し考え込むようにして口元を押さえているようだった。


そして、



「そっか、美九ちゃんって言うのね。うん、こちらこそよろしく!」


「あっはい!よろしくお願いします!」



なんとか和やかに終わったようだ。


と、思っていたのだが、しばらくしてそれはとんでもない勘違いであることに気付かされるのであった・・・。




僕を真ん中に挟むような並びで、しばらく道なりを歩いていると。



「そういえば、美九ちゃんは先生の姪っ子さんってことだけど、環君と初めて会ったのはいつなの?」



僕を間に挟んだ状態で、先輩がお狐様にそう質問をする。


「えっと、先生と環さ・・・、ん、が遠い親戚であることは私もつい最近知りまして・・・。なので、会ったのも最近、ですね。」


「へー。そうなんだね。」



なんだろう、この、微妙な居心地の悪さは。

先輩は明るくて優しくて友人も多く、もちろん僕に対してもとても優しい。


しかしなんだ、この、なんとも言い表せない空気感は。

先輩の言動に、少しトゲがある?


なぜだろう。あの少しの間に何かあったのか?

先輩の気を損ねてしまうようなことが?

今まで一緒に過ごしてきて、先輩が怒っているのを見たことがない。

あっても、間違いを正す時の注意くらいか?


今までにない感覚に戸惑いを隠せないでいた。


さらに先輩は質問を続ける。




「そういえば、環君や玉緒さんから私のことなんか聞いてたりする?」


「えっとそうですね、幼馴染で非常に仲の良い方で、お優しい方とお聞きしております。」




マジでなんなんだ、この空間とこの時間は。

一体先輩は何かを思っているのだろうか。

質問内容だけでは取り留めのないものではあるが、とにかく異様な空気なのだ。



緊迫感に似た妙な空気のまま、一行は学校に着いた。




ーーーー場面変わって、お狐様視点ではーーーー




不味い不味い不味い不味い不味い不味い。


ああ、私はなんて馬鹿なの。

こんなことになるなんて、予測出来たはずなのに。


あまりにもアワアワしているから、相手が不審がってしまっているじゃない。

でも、ここで環様に助けを求めるのもわけには・・・。


あっ、お母様!

えっ、忘れ物?忘れ物なんてしておりませんが・・・。


『あなたの名前は美九。美しい九で美九です。とりあえず今までの不手際は人見知りということにして、自分は帰国子女である、と伝えてください。分かりましたか?き・こ・く・し・じょ、です。これさえ言えば、おそらく納得してくれるはずですので。では、ご武運を!」



お母様、私の為に・・・。

よーし、ここまで背中を押されたなら、やるしかないですね!

お狐様としての威厳を取り戻さなきゃ!


今度こそしっかり挨拶出来てホッとしました。


それにしても、真理様がなんだか少し怖い雰囲気に変わってしまいました・・・。


これでも、幼少期よりずっと見守って参りましたのでもちろん真理様のことも存じております。


かような雰囲気を他人に向けるような方ではなかったはず。

もしや私が妖怪なのを察して・・・?


・・・いや違う。

質問される内容で、大体分かってきました。


この人は"得体の知れない私"が怖いんだ。

そんな、得体の知れない女が、突然環様の前に現れてしかも一緒に暮らすと言うんですもの。

それはそれは、気になるし不信感も露わにするというものです。


ええ、ええ、分かりますとも。

なにせ、お2人のことは幼少期よりずっと見守っているのですから。


大丈夫、今あなたに直接伝えることは出来ませんが、私にとってはあなたも"守るべき大切な人"の内の1人なのですよ。


だって、

他でもない、1番大切な人の1番大切な人、なのですから・・・。




ーーーーーーーー



僕はまだ知らなかった。


この時の全ての原因が、自分にあったことを・・・。


やれやれ罪な男だぜ、と、言えるほど自惚れていれば良かったのだが。

そもそも気付けない、ということのなんたる罪深きことか。



水面下の攻防は、こうして静かに幕を閉じたのだった。


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