表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命なんて、結果論!?  作者: 星月 雪
3/8

時は流れて

僕の実家である神社には、ある伝説がある。


それは数百年前に、ご先祖様が死の呪いで苦しんでいたところを妖狐に助けてもらった、というものだ。

その妖狐は、とても美しい女性の姿をしていたという。

ゆえに、ご先祖様はその妖狐を命を助けてくれた女神様として祀るためにこの神社を建てたそうな。


命を助けてもらった際、そのご先祖様は妖気を察知する不思議な力を受け継いだとかなんとか。

遠い子孫である僕にはピンとこないおとぎ話だ。

まあ、そういうの嫌いじゃないが。




山の麓に建てられたその神社。

二対の狛犬の代わりに、狐の銅像が置かれている。

神社の中には、ご先祖様が受け取ったとされる狐玉のレプリカが飾られており、無病息災を司るとして参拝していく人が後を絶たない。



「おはようございます。」


「あっ、(たまき)君。おはよー。」


僕は外で落ち葉掃除をしていた巫女さんに挨拶をする。

高校の1つ上の先輩で幼馴染の、うちの神社でバイトをしている真理(まり)さんだ。


「なんだか寝不足みたいだけど?どうかしたの?」


「はは。別に何でもないですよ。」


他愛のない会話。

だが、この平穏な日々が僕は好きだ。


おとぎ話に過ぎないとはいえ、この平穏な、先輩とのかけがえのない日々を与えてくれたお狐様には感謝しないとな。


「そろそろ学校へ行く時間なので、呼びに来たんですよ。」


「もうそんな時間か〜。じゃあ、着替えてくるからそこで待ってて!」




神社の中へ戻っていく先輩を見やった方角。

ふと、山の方で何かが見切れた気がした。


「ん、あれは・・・。」


「お狐様だねぇ。」


「って、うわっ!婆ちゃん!いきなり出て来ないでよ!」


声のする方に目をやると、腰の曲がった老婆が同じく山の方角を向いていた。

この神社の主とも言えるその人物に、僕は問いかけた。


「お狐様、って言っても、この山に住んでるただの狐でしょ?そりゃまあ、ここは狐を祀る神社ではあるけどさ。お狐様って・・・。」


「んにゃあ、あながちバカには出来んぞよ?何せ相手は妖狐、人間なんかよりずっと長生きだろうからねぇ。もしかしたら、本物かも知れんぞい?」


有り難やー有り難やー。と、その場でお祈りを始めた祖母を尻目に、僕は先輩が早く戻ってこないかと神社の中まで迎えに行った・・・。




ーーキーンコーンカーンコーン・・・ーー


「ふい〜、今日も何事もなく終わった。毎日に感謝だな!」


「相変わらず君は大袈裟だなぁ〜。」


先輩との毎日の登下校。

当たり前だからこそ、良いのだ。

先輩と合流し、帰ろうとしたその時。


「ああ、居た居た。近藤く〜ん!ちょっとこっち来て〜!」


あれは、担任の男性教諭だ。

呼び出しということは、この間のテストのことで何か言われるのだろうか?


「うわっ、マジかよ。今日は何かある日だったのか〜。束の間の平穏な日々、だったなぁ・・・。」


あからさまに落ち込んでみせる。


「もう、本当に大袈裟なんだから!ほら、さっさと行ってこないと、もっと帰るのが遅くなっちゃうよ!ここで待ってるから行ってきなよ!」


「・・・!待っててくれるなんて、あなたは女神様ですか・・・!」


「ふふ。冗談は後でたっぷり聞くから、ほら!いってらっしゃい♪」


笑顔で見送る先輩に手を振りながら、先生のいる教室へと急いだ。




ーーコンコン、ガラガラーー


「失礼します。先生、それで、一旦何の用でしょうか?この間テストは、そんなに悪い点数をとったようには思わないのですが・・・。テストのこと、でしょうか?」


「・・・。」


先生は黙っている。

自分から呼んだ癖におかしいと思い、さらに質問を続けようとした。


瞬間、今までに感じたことのないような悪寒が背筋に走った。

胸がザワザワする。本能で、これ以上近付くべきではないと感じる。

これは一体・・・。


「ああ、だいぶ弱まった頃合いだと思ったんだが、まだ妖気を察知するほどの力は残っていたんだね。失敬。」


「先、生・・・?」


じゃ、ない。

否、見た目や声は確かに担任の男性教諭だ。

でも、明らかに違う。何かが違う。


「ううーんでも、最初の頃より食べやすくなっていることに変わりはないかぁ。ここまで接近することが出来たのがその証拠さ。すまんね、恨むなら、自らに降りかかるであろう身の危険を末代までちゃんと語り継がなかった先祖を恨むんだねぇ〜。」



なん、だ、これは。

この人は何を言っている?

さっきまでのあの平穏な日々は?どこへ行った?

これは一体、なんなのだ・・・?



バキバキバキ・・・。

先生の身体が闇に包まれたかと思うと、見たことのない異形な姿へと変形していく。


ああ、こんなことなら。あの時先輩に告白しておくんだった。

婆ちゃんの話をちゃんと、聞いておくんだった。

もっとちゃんと、お祈りしておくんだった。

あのおとぎ話を、バカみたいに信じておくんだった・・・。


「悪いね、もらうよ。君の(いのち)。」


心臓へと伸びてくる異形の手を、放心しながら眺めることしか出来ない。

最後なんて、こんな呆気ないものなんだな。

そう思った瞬間だった。



ーーバリーン!ーー


「なんだ!?」


異形と共に音のした方向を見ると、そこに居たのは1匹の狐だった。

もしかして、今朝の・・・?


「ふっ、ふは、ははは!何かと思えば、力の全てを人間に与えた無力でか弱い九尾様ではないですかぁ〜!!」


九尾・・・?お狐、様・・・?

そう呼ばれた狐は、キッと異形を睨みつけ、そして飛びかかった。


「お〜お〜、ただの狐のなんと無力なことか。あなたの相手は後でしてあげますから、今ちょっとそこで大人しくしていて下さい、なっ!」


「キャンッ!」


軽く振りほどいただけで、一瞬で吹き飛ばされてしまった。

壁にぶちあたり、すでに瀕死なようにも見えるその狐は、それでもまだ立ち上がろうとしていた。


「おやおや、なんと健気な。分かりました。その決意に免じて、あなたを先に殺して差し上げましょう。大丈夫、すぐ楽にしてあげますからねぇ〜。」


ゆっくりと狐に近寄ろうとする異形を見た時、胸の中で何かが弾けた気がした。

ここで動かねば、あの狐を助けねば。

自分はきっと一生後悔するし、そもそも生きてはいられないだろうと悟った。


でも、一体どうすれば・・・。



ーードクンっーー


「・・・っ。そうか、狐玉だ。」


僕は、異形の横を掠めるようにいち早く狐へと駆け寄った。


「ねえ、あなたがあの、お狐様なんでしょう?僕のご先祖様を助けてくれた。あの時は、ありがとうございました。だから今度は、僕にあなたを助けさせて下さい。」


これは半分は紛れもない自分の意思。

だが、もう半分は別の意思に導かれるように、こう伝えたような気がした。


自分の中の狐玉を、お狐様へ返す。

異変を感じ取った異形が襲ってくるのも時間の問題だ、早くしないと。

悩んでいる時間は、ない。


「やり方、間違っていたらごめんなさい・・・。」


「・・・!」


そっと、僕は狐へキスをした。

これ以外、今の僕には思いつかなかった。


「やっ、止めろぉおォォオ!!」


僕の胸から、喉に渡り、こみ上げてくる存在を感じた。

それは光となり、お狐様へと渡っていき、僕が抱き抱えていた狐は、いつの間にかとても美しい女性へと姿を変えていた・・・。


「ありがとう。ほんの少しだけ、返してもらったぞ。」


透き通るような、どこか懐かしい声だった。

立ち上がった彼女は、異形の方を見やる。


異形は、信じられないといった顔で彼女を見つめ、やがて発狂する。


「うおぉぉおオオオ!なんっでだ!なんでこうなるんだよおぉおぉオオオ!」


我を忘れ振りかぶる異形を憐れむかのように、彼女は手をかざしながら呟いた。


「悪いけど、彼は死なせない。久しぶりで加減が出来ないけど、許してね?【妖術・狐火】!!」


放たれた炎が、異形を包み込むように燃え盛る。

断末魔の叫びの中で、異形が声を荒げる。


「ふはっ、ふはは。お前は選択を間違えた。また間違えた。そんな中途半端な力で何が出来る?お前もそこの人間も、どちらも中途半端。俺は消えるが、狙い易くなったお前らにもう逃げ場は無いとぉも・・・ぇ・・・。」



ーーバタッーー


異形は消え去り、気を失った男性教諭の身体だけがその場へ倒れ込んだ・・・。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ