幕間 その二
わたしはがばっと目を開けた。いましがた夢のなかでルイス・ベイカーと名乗る男が、夢占い師の名前を告げようとする直前のことだった。
「……いまの夢はいったい?」
夢のなかでわたしはロリーナという少女だった。その前の夢ではアリス。その両方の夢にはルイス・ベイカーという軍人が登場している。いったいこのつながりは何? それにロリーナもアリスと同じように人の心を読み取る力があるらしい。
いったいわたしはなんの夢を見ているの?
夢のなかで見た赤レンガの家が脳裏をよぎると、わたしは身震いを覚えた。そんなまさかと思いつつもベッドから起きあがる。そして薄暗い闇に目を細めながら、家のなかを手探りで進みだす。ゆっくりと階段を慎重におりて、玄関のドアをあけて外へ出た。そして後ろを振り返ると、そこにあったのは夢のなかで見た赤レンガの家だった。
夢で見た家と自分がいる家が一致する。この奇妙な偶然に、わたしの肌は粟立つ。
「何をしているの?」不意に女の声が聞こえた。「冷えるから家のなかにもどったほうがいいわよ」
わたしは声のしたほうへと視線を向ける。二階にある出窓から女がこちらを見おろしていた。だが暗いためその姿ははっきりとせず、表情はわからない。
「夢を見たんです」わたしは興奮気味にそう言った。
「また夢を見たの?」
「はい、そうなんです。夢のなかでわたしはロリーナと呼ばれていました」
「こんどはアリスではなく、ロリーナなのね。おかげでますますあなたがだれなのか、わからなくなってきたわね」
「……たしかにそうかもしれません。けれどわたしは夢のなかでこの家を見たんです。もしかすると記憶を思い出す手かがりになるかもしれません。夢のなかではたしか……一九五二年の十二月十日でした。わたしは軍人の男の人といっしょにこの家にやってきたんです。もしかするとわたしは以前に、この家に来たことがあるのかも」
「それはありえないわよ」女が楽しげな口調で言う。「だっていまは一九三五年よ」
「いまは……一九三五年?」
「ええ、そうよ。一九五二年はだいぶ先ね」
夢を見た。だがそれは現在や過去のものではなく、未来のできごと。わたしの混乱はいや増すばかりだ。不思議な夢……夢占い師……予知夢……未来のできごと。思考すればするほど、意識はまどろみ、やがてわたしは気を失ってしまった。