第二幕 第二場
わたしはルイス・ベイカーとともにカフェをあとにすると、外に停めてあった軍用車へと乗り込んだ。ベイカーがエンジンを始動させると、車は低くうなるような音を立てて動き出す。
ほんとうはベイカーについてくるつもりなど毛頭もなかった。だがしかし、アリスの名前をだされては動かざるをえない。しかもアリスを救う? そのために同じ力を持つわたしじゃないとだめ? いったい何がどうなっている?
「アリスについて説明してもらおうかベイカー」
「現在アリスは意識不明の昏睡状態に陥っている」
「意識不明だと?」
「ああ、そうだ。外的刺激に対してなんの反応も示さない。アリスは寝たきりの植物状態になってしまった」
「いったいアリスに何が起きた?」
ベイカーは表情を曇らせた。「きみが『エイト』からいなくなっていろいろとあってね。われわれも大変だったんだよ。それに——」
「言い訳臭い前置きはいいんだよ」わたしはベイカーのことばをさえぎる。「アリスの身に何が起きたのか、さっさと話せ」
「……わかった」ベイカーはしばし間を置く。「じつは非常に言いにくいのだが、われわれもアリスの身に何が起きたのかよくわかっていない」
「何だと?」わたしは顔をしかめた。「何もわかっていないというの」
「恥ずかしながらそのとおりだ。共有実験の最中にアリスが奇声を発したかと思うと、そのまま意識を失ってしまった。それっきり目覚めないんだ」
わたしは舌打ちする。「まったくあんたら役に立たないね。ほんとうになんにもわかっていないじゃないのよ」
「だからこそアリスと同じ力を持つ、きみの手助けが必要なのだよ。きみの人の心を読み取る力を使えば、アリスを救える可能性がある」
わたしはそのことばの意味をすぐに理解した。たしかにわたしのこの力を利用すれば、アリスを救い出せるかもしれない。そのための方法もわかっている。
「たしかにわたしなら救い出せるかもな。ただし条件がある。アリスを助けたあかつきには、わたしを自由にしてくれ。それが呑めなきゃ手伝わない」
「わかった」ベイカーはうなずいた。「アリスを救えばきみを解放する。約束するよ」
「かならずだぞ」わたしは語気を強めた。「こんど約束を破れば承知しないからな」
「だいじょうぶだ。こんどはきちんと約束を守るよ」