終幕
わたしはいま、ロリーナ・ベルとエリック・ローランドの墓の前に立っている。ふたりの墓に花を添え祈りを捧げると、わたしは自分と同じ共感者だったロリーナについて思いを馳せた。同じ共感者でありながら真逆の道を歩んだ少女。その人生は波乱に満ちた過酷なものだった。けしてほめられるような生き方ではなかったが、でも最後にはレイシーを救い、そしてこのわたしを救ってくれた。
「ありがとうロリーナ。わたしがこうしていま、生きているのはあなたのおかげよ」
わたしは共感者の力についてずっと悩んでいた。どうしてわたしは人の心を読み取れる力を授かったのか、この力をどう使えばいいのか、父のように人の役に立つためにこの力をどう利用すればいいのか。
未だ明確な答えは出ていない。これまでの経緯から、共感者の力は脅威だと感じるようになった。人の心を読み取るだけではなく、他者と夢の共有までできてしまう。使い方を誤れば、とんでもないことになるだろう。
だったらわたしはどうするべきか?
「アリス、もうお別れはすんだかね」そう言ってルイス・ベイカーがわたしのもとにやってきた。「名残惜しいのはわかるが、そろそろ時間だよ」
「ベイカーさん」わたしは自分の両の手のひらに視線を落とした。「わたしずっと悩んできました。この共感者の力をどうするべきか。子供のころ父に言われました、人にやさしくしてあげなさい。もしだれかが困っている人がいるなら助けの手を差し伸べてあげるんだよ、と。だからわたしはこの力を人のために役立てたい。でもその方法が未だに見つからないんです」
それを聞いたベイカーはくすくすと笑い出した。「きみはおもしろいことを言うね」
「どうして笑うんですか?」わたしはむっとする。「わたしは真剣に悩んでいるんです」
「すまないアリス。けっして馬鹿にしたわけじゃないんだ。だがきみのお父さんが生きていたらこう言うだろう、困っている人に助けの手を差し伸べるのに、かならずしもその力が必要なのか、と」
「えっ?」わたしはそのことばにはっとしてしまう。
「たしかにきみの共感者の力は魅力的だ。その力を役立てたい気持ちもわかる。だがひろい世界に目を向けてごらん。大多数の人々が、きみとはちがい人の心を読み取ることはできない。だが人のために役に立っている人はたくさんいるよ。きみは共感者ゆえにその力に振りまわされている気がするね。その力がなくても、人の役に立つ方法はいくらでもあるんだ」
共感者の力を使わなくても人の役に立てる。その事実に気づかされ、わたしはあっけにとられた。そんなことは考えもしなかった。
「アリス、きみには可能性がある」ベイカーはつづけた。「今後の人生において、きみにはたくさんの選択肢があるんだよ。だがきみは共感者ゆえに、盲目になってしまっている。そのせいで選択肢をせばめているんだ。まずは共感者ではなく、ひとりの人間として人の役に立つことを考えなさい」
たしかにそのとおりだ、とわたしは思った。いつのまにか共感者であるとに、自分はおごっていたのかもしれない。この力がなくても人の役に立てる。現に父は医者として人を助け、世のなかの役に立っていたではないか。
わたしは自分の思いあがりを恥じた。たとえ共感者の力がなくても人の役に立てる。わたしには選べる選択肢がたくさんあるのだから。
「はい、わかりました」わたしは力強くうなずいた。「そうしたいと思います」
ベイカーは満足げにうなずいた。「がんばりなさいアリス。そして人の役に立つ道がわかったのなら、それに励みなさい。その過程でおのずと見えてくるだろう、共感者の力をどう利用するべきか」
「そうですね」
「では、そろそろ車にもどろうか」
「はい、わかりました」わたしはそう言うと、ロリーナの墓に向き直り手を振る。
いずれロリーナはとはあの世で再開できるだろう。そのときに胸を張って会えるよう、悔いのない人生を生きよう。きっとわたしにはそれができる。できると信じて前へと進めばきっとそれが現実になる。
「それじゃあ、わたしはもう行くね。さよならロリーナ」
わたしは別れを告げると歩き出す。自分の信じる未来に向かって。




