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第八幕 第十一場

 家に帰ってきてから何度か雨の日を過ごした。するとつぎの日の朝には政府関係者がわたしの家を訪ねてくる。政治家とおぼしき人たちに加え、軍人もまじっていた。どこにハートマン大佐らの息がかかった人間がいるかわからない以上、事情をあかして助けを求めることはできない。わたしはただ予知夢の内容を伝えることしかできなかった。


 おのれの無力さを噛み締めた。外を出歩いても監視の目を感じ、何も行動に移せない。一度隙をついて首相官邸まで足を運ぼうとしたことがあった。だがあともう少しで到着するというところで何者かと肩をぶつけてしまい、わたしは転んでしまう。わたしが毒づいていると、ぶつかったと思われる少年が無表情な顔でわたしに手を差し伸べてきた。わたしは恐怖の叫びをあげると、その手を振り払い家に逃げ帰った。


 もうどうにもならない。わたしはもうハートマンに屈するしかないのか?


 だが当のハートマンはわたしに接触してこない。おそらくは状況を優位に進めるために、いまはあれこれ用意周到に手をまわしているころなのだろう。つぎにわたしに接触してきたときには、すべての計画が完了しているにちがいない。そうなればこの国はハートマンたちの思うがままだ。


 わたしはその日が来るまで、ただ政府関係者に予知夢を話すことしかできない、あわれな存在だ。いずれわたしはハートマンの操り人形になってしまう。


 そんなのいやだ。何か対抗策はないの? 


 わたしは必死に考えた、この状況を打破する方法を。そしてその答えを見つけた。わたしが予知夢を話すことしかできない存在なら、その予知夢の対象をハートマンにしてしまえばいい。そしてその内容を嘘偽らずに報告する。これにはハートマン側の人間も手は出せないはずだ。そんなことをすれば怪しまれるし、わたしに正体を悟られてしまう。


 それに毎回ハートマンの予知夢ばかりを見れば、政府関係者もこれはおかしいと気づいてくれる。そしてその情報はハートマンにも伝わる。そうなればハートマンの悪巧みもできなくなる。そんなことをすれば、わたしに予知されて暴露されてしまう危険性があるからだ。


 さっそくわたしはこの作戦を実行した。すると政府関係者はどうしてハートマンの予知夢ばかり見るのか質問してきた。それに対してわたしは、予知夢の検証実験のときに大変お世話になった恩人なので、自分でも知らずに意識してしまったのかもしれない、と答えてあげた。


 これはわたしからハートマンへの無言の圧力だ。いますぐ悪巧みをやめろ。さもないとこれからもおまえを予知しつづけるぞ、と逆に脅してやったのだ。


 ハートマンを予知夢の対象にして五回目の雨の日。わたしは夢のなかで、ハートマンがくやし気に物に八つ当たりする姿を見て、思わずほくそ笑んだ。ざまあみろ。

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