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第八幕 第八場

 陸軍第八軍病院に来てから半年が経過した。それにともない、わたしの予知夢の検証実験は終了の日を迎える。


「きょうをもって、検証実験を終了します」ビル・グレイ博士はさも残念そうに言う。


「やっと終わった」わたしは解放された喜びから、思わず笑みになる。「これでようやく家に帰れるわ」


「ねえレイシー、検証実験の延長をしない」


「またその話ですか。何度もことわったはずですよグレイ博士。あきらめてください」


 グレイは重いため息をついた。「そうか、残念だよ。これできみとお別れだと思うと、さみしくなるよ」


 しょんぼりするグレイを見て、わたしは胸がうずくのを感じた。ここで過ごした鬱屈とした日々のなかで、能天気に明るいグレイの存在は、わたしの心の支えになっていた。そのおかげでグレイに対しては恋心とはいかないまでも、それに近い感情を持っている。


「グレイ博士、半年間ありがとうございました」


「ありがとう?」グレイは困惑した口調だ。「どういうことだレイシー。礼を言うのはこっちのほうだぞ」


「だってこんなところに閉じ込められて、半年間もがまんできたのはグレイ博士がいてくれたおかげですもの。もしもここに派遣されてきた研究者がグレイ博士ではなく、ほかの人だったらわたし耐えきれなかった」わたしはそこで照れくさそうに微笑む。「だからありがとうグレイ博士。あなたのやさしさに救われました」


「どういたしまして」グレイは喜びの表情になると、手を差し出してきた。「きみにそう言ってもらえて、ぼくはうれしいよレイシー」


 わたしはグレイと握手を交わすと、名残惜しそうにその顔を見つめてしまう。


「そんな顔しないでレイシー。きみには笑顔が似合うからさ」


 わたしははっとすると、すぐに笑顔をうかべる。「ごめんなさい。これでもうお別れだと思うったらつい……」


 ふたりのあいだに沈黙が訪れた。お互いに相手の顔を見つめあうと、静かにハグを交わす。


「それじゃあ元気でねレイシー。ときどききみの様子を見に来ることになると思うけど、そのときはよろしくね」


「グレイ博士もお元気で。また会えるときを楽しみにしています」


 こうしてわたしは無事に予知夢の検証実験を終えることができた。

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