第八幕 第五場
わたしはハートマン大佐に案内された部屋で待機していた。どうやら予知夢の検証をおこなう研究員を紹介するはずだったが、その人物がまだ部屋に来ておらず、ハートマンは腹立たし気に腕時計を見ていた。
ハートマンのいらいらを感じ取って、わたしはただでさえ悪かった居心地が、さらに悪くなのを感じた。こんな恐ろしい人を待たせるなんて、いったいどんな人物だ?
そんなことを考えていると、突然部屋のドアが開いて快活な声が響いた。「こんにちは。遅れてしまって申しわけない」
部屋にやってきた人物は眼鏡をかけた白衣姿の若い男で、その表情はほがらかに笑っている。遅れて来たことを悪びれているとは思えない。
「きさま、時間も守れないのか!」ハートマンが怒鳴った。
「そう怒らないでくださいよ大佐」若い男はさもすまなさそうに言う。「だってきのうここに派遣されたばかりで、まだこの施設に慣れていないんです。ここは大目に見てくださいよ」
「グレイ博士、きまさが優秀な研究者ではなく、軍人だったらいますぐに殴り倒していところだぞ」
「でも残念です大佐。ぼくは軍人ではありませんよ」
「そのくらい言われなくても知っている!」ハートマンは目を剥いた。「いいかきさまは余計なことをせず、自分の仕事をしろ」
ハートマンと若い男のやり取りを、わたしは呆然と見守った。あの恐ろしいハートマンを、こうまでコケにするこの人物はいったい何者?
「とにかく、あとのことはきまさにまかせた」
ハートマンはそう告げると、毒づきながら部屋を出て行った。すると若い男はきょとんとした顔をわたしに向ける。
「どうして大佐はあんなに怒っていたんだろう?」若い男は首をかしげた。
わたしは思わず苦笑する声を漏らした。「……あなた馬鹿なの?」
「失礼な」若い男は顔をしかめた。「ぼくは馬鹿ではありません。天才ですよ」
「あなた……人から変わってるって言われない」
「よく言われるけど、それはぼくの頭脳にみなが嫉妬しているだけさ」若い男はまじめな口調で言う。「ところできみが噂のレイシー・レイクスだね。ぼくはビル・グレイ。よろしく」
グレイが手を差し出して来たので、わたしはとまどいながらもその手を握った。
「こちらこそ……よろしくお願いします、グレイ博士」
こうしてわたしは、グレイと言う名の変わり者の博士と出会うことになってしまった。




