第八幕 第四場
陸軍第八軍病院へと着いた。その道中、ハートマン大佐は語って聞かせた。陸軍第八病院はは表向きは軍病院としての体裁をとっているが、じつは軍の秘密実験に利用されている施設であり、ふつうの軍病院とはちがい広い野外スペースを持ち、さらには高い塀で敷地が囲われているのもそのためだという。そしてその真実を知る者は極一部の人間だけだそうだ。
どうして自分にそんな重大な秘密を話すのかと問いただすと、きみもこちら側の人間だからだよ、と答えた。そのことばにわたしは寒気を感じた。重大な秘密を共有させることで、わたしに枷をつけるつもりでいる。おそらくは予知夢の検証実験も、こんな秘密施設でおこなう必要はなかったはず。にもかかわらず、あえてこの秘密施設で検証実験することを選んだ。恐ろしい男だ。
わたしはハートマンの案内のもと、施設の中へと足を踏み入れた。秘密施設というだけあって、人はまばらであまり多くはいなさそうな雰囲気だ。おそらくは限られた人数だけで、この施設を運営しているのだろう。
ハートマンとともに歩いていると、窓から屋外で軍事訓練をおこなう軍服姿の少年の姿を目撃する。わたしよりも明らかに年下で、妹と同じ中学生ぐらいの子供たちだ。しかしその表情は子供らしかぬ無表情で、まるで生気を感じない。喜怒哀楽といった感情が抜け落ちているかのように思えてしまう。そのためただひたすら淡々と訓練をつづけているその姿は、まるで人形のようで不気味だ。
「外が気になるかね」ハートマンはわたしの視線に気づいたらしく、口を開いた。「あの子供たちは、特別な兵士育成計画にもとづいて英才教育を受けている。今後起きるであろう戦争では活躍してくれるはずだ」
「またそうやって簡単に秘密をしゃべるのね」わたしは眉根にしわを寄せた。「わたしがだれかに漏らすと思わないの」
「わたしはきみのことを、この国を愛する同じ愛国者の友人だと思っている。友人として教えてあげられることは、できるだけ教えてあげるつもりだ。それにきみは軍の機密情報を他人に漏らすような愚かな女性ではないと、わたしは信用している」
白々しい、とわたしは思った。遠まわしに、だれかにしゃべればどうなるのか、わかっているだろう、と脅している。その場合おそらくわたしだけじゃない、家族にまで危険が及ぶにちがいない。だからハートマン自身がわたしの家までわざわざ迎えに来た。わたしの家族を直接見るために。
用意周到にわたしを囲いはじめている。おそらくわたしがそれから逃れることは、もはやかなわないだろう。ここまで来てしまった以上、もうどうすることもできない。




