第八幕 第三場
首相官邸での一件を受けて、予知夢について検証するべく、わたしは三日後に陸軍第八軍病院へと連行されることになった。否が応でもその決定に従わなければならず、拒否することは許されない。そして戦争についての予知夢を口外することを禁じられてしまい、戦争が起きると知っているは一部の人間だけとなった。
首相官邸に呼び出されたことについて、家族からいろいろと質問されたが、何も答えられなかった。すべては極秘扱いになり、たとえ家族といえどもしゃべれない。
そして三日後、わたしは迎えに来た軍用車に乗り、陸軍第八軍病院へと向かった。わたしが乗る後部座席の隣には、予知夢の検証の提案者でもあるハートマン大佐も同乗していた。
「きみの協力に感謝するよ。ミス・レイクス」
「わたしには選べる選択肢はありませんでした」わたしはつっけんどんな態度をとる。
「わたしが予知夢の検証について提案したことに腹を立てているようだが、もとはと言えば、きみが予知夢でわれわれを混乱させなければ、こんなことにはならなかったのだよ。それにきみ自身も、自分の予知夢の力について知っておいて損はないだろ」
「わたしの予知夢の力を軍事利用したいだけなのでは」
「それは否定しないよ。きみの予知夢の力があれば、戦争においてわが国は優位に立てる」
わたしは重いため息をついた。「わたしは戦争がしたくて、予知夢を見ているわけじゃないのに……」
「きみはいくつかね?」
「えっ?」突然の質問にとまどってしまう。「……十七ですけど」
「なら先の大戦のことは覚えてないだろう。わたしは前線で戦っていたが、あれは地獄だったよ。多くの戦友を失った。だからこそあのときに、きみのような未来予知ができる人物がいたら、どれだけの兵士の命を救えたか考えてしまう。そしてこれから起きるであろう戦争で、きみの予知夢の力を借りることができれば、どれだけの兵士の命が救えるだろうか」
この言い方はずるい、とわたしは思った。協力すればたくさんの命を救えると賞讃し、しなければたくさんの命がうばわれる、と脅している。この男、首相が認めただけあって、かなり機知に長けた人物だ。
「わたしは愛国者だ。良心を持ってこの国のために最善を尽くしている。きみもこの国に生まれた人間なら、この国を愛する人間として何が正しい選択なのか理解してもらいたい」
「……わかりました」わたしはひそかにこぶしを握りしめた。
選択肢のない選択を選ばされる屈辱。わたしはこのハートマンという男を恐れるようになっていた。




