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第八幕 第二場

 ヘンリー・キャロルの予知夢を見てから一週間後。これまでにない、恐ろしい予知夢を見てしまった。それはロンドンが爆撃機により空爆される、というものだった。逃げ惑う人々は戦争だの、敵軍の攻撃だのと叫んでいた。


 そう遠くない未来、先の大戦のような大規模な戦争がはじまる!

「た、大変だわ」わたしはおびえるようにつぶやいた。「また戦争が起きてしまう」


 戦争がふたたびはじまることを知ったわたしは、すぐさま政府にそのことを知らせた。するとわたしはすぐさま首相官邸へと呼び出された。


 首相官邸にある一室には、軍服にこれ見よがしにたくさんの勲章をつけた軍の高官たちが、首相とその関係者ともに何人か集まっていた。そのため部屋に招き入れられたわたしは、威圧感に気圧され萎縮してしまう。自分がこの場にいるのが場ちがいだ。逃げ出したくなる衝動に駆られてしまう。


「レイシー・レイクス」軍人のひとりが口を開いた。「きみの噂はよく聞いているよ。なんでも予知夢で未来のできごとを知ることができるそうではないか。そしてその予知夢でかつてのような大戦がはじまるのを見たそうだね。それはほんとうかね?」


「……はい」わたしはおずおずとうなずいた。「そのとおりです」


 ざわめき声が響きはじめた。みながみなけわしい表情で、わたしに射るようなような視線を突きつけてくる。そのためとても居心地が悪い。


 首相が咳払いをし、一同の注意を引く。「たしかに最近の大陸側の動きには、不穏当なものがある。彼女の警告どおり、近い将来戦争が起きるのかもしれない。だとしたらわれわれは、戦争に向けて準備をしなければならない」


「ちょっと待ってください」政治家の男が言った。「みなさんはこんな小娘の戯れ言を信じるのですか。わたしには信じられません。夢占い師などと崇められているようですが、このような根拠のない話でわれわれが振りされていいわけがない。だいたいこんなことで、われわれがこの場所に集められたこと自体おかしいんだ」


「だがきみも知っているはずだ」別の政治家の男が言った。「彼女は地震を予知し、それが見事にあたった。そのほかにもいくつもの予言て的中させている」


「ただの偶然に過ぎません。わたしはこのような妄言で、われわれが動くことに強く反対します。彼女は政治家でもなければ、軍人でもない。ただの一般市民だ」


 ふたたび場内がざわつきはじめた。どうやらわたしについて、肯定派と否定派がいるらしく、言い争いが起きてしまった。両者は相容れず、話し合いを試みるも、平行線をたどる一方だった。時間はどんどん過ぎていく。


「みなさん、わたしに提案があります」とある軍人が手をあげた。


 首相がその男に顔を向けた。「なんだねハートマン大佐?」


 ハートマンと呼ばれた男は椅子から立ちあがる。「レイシー・レイクスの予知夢がほんとうであろうが嘘であろうが、大陸側で不穏な動きがあるのはまちがいありません。ならば戦争が起きると前提してわれわれは動くべきです。起きないと楽観視し、戦争が起きてしまったのなら痛手をこうむることになります」


「たしかにそのとおりだな」首相はうなずいた。


「レイシー・レイクスの予知夢について、わたしは肯定もしなければ否定もしません。肯定派のようにその予知夢を過信するのは危険だと承知していますし、しかしだからといって否定派のように彼女のこれまでの活躍を無視して、一方的に否定するのも問題だと思います」


「ならばわれわれにどうしろと?」政治家の男が訊いた。


「先ほども述べたように、わが国は戦争に向けて準備をはじめます。そしてそれにともない、レイシー・レイクスの予知夢について検証をおこないます。それにより彼女の予知がほんとうに信頼できるかどうか、判断をくだすのです。それにより肯定派は根拠を得ることができますし、否定派は不安をぬぐうことができる。もしも彼女の予知能力が本物だとしたら、わが国において、戦争の際には大きな力になります。ここにいるみなさんなら、戦争時における未来の情報がどれだけ重要かご存知でしょう?」


 みなが賛同のうなずきを返した。


 何を言っているの、とわたしは思った。このハートマンという男、肯定派や否定派の立場をとらず中立を標榜し、その両者を納得させ、さらにはいつのまにかわたしを軍事利用するのが、さも当然のように違和感なく話をすすめる。わたしはただ戦争が起こると、警告したいだけなのに、どうしてこうなってしまうの。


「さすがだなハートマン大佐」首相が言った。「あれだけもめていた話を、こうもすんなりとまとめあげるとは。きみは軍人よりも政治家のほうが向いているのかもしれないな」


「勝利の暁の際には、それも考えておきましょう」ハートマンは不敵な笑みを浮かべた。「そのためにも戦争は勝たねばなりません。勝たなければどんな大義名分も、敗者という名のもとに悪の烙印を押されますからね」


 言い終えるとハートマンはわたしに向き直った。歴戦の猛者を思わせるいかめしい顔つきをしており、その鋭いまなざしで、まるでわたしを値踏みするかのように見つめる。

「ミス・レイクス。きみの予知夢について検証させてもらう。いいね?」


「そ、そんな」わたしは狼狽のていで言う。「わたしはそんなつもりはありませ——」


「きみに拒否権はない」ハートマンは断固とした口調で言い切った。「きみはその予知夢でわれわれを巻き込んでしまった。だからきみは、われわれに協力する義務があるのだよ」


 こうしてわたしの予知夢の力について、検証されることがきまってしまった。

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