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第八幕 第一場

 夢占い師レイシー・レイクス。予知夢により未来を知ることができる奇跡の女性。


 世間でそう噂される頃になると、たくさんの人たちがわたしに会いにくるようになっていた。教師、医者、警察、軍人、政治家、企業家などその職種はさまざまで、みながみなわたしの話を興味深く聞いてくれる。まるで女王さまにでもなった気分だった。


 わたしに会いにくる人々が求めているのは、未来の情報だった。地震などの自然災害の予知夢を見た場合は、新聞などを通じて警告してほしい。さらには犯罪の予知夢は警察に事前に通報し、国政にかかわるような重大な予知夢は政府に知らせてくれとのことだった。


 わたしがそれを引き受けると、そのお礼として多額の謝礼が支払われた。しだいにわたしは自分が特別な存在だと、自負するようになっていた。


 そんなある日、予知夢を見た。ある男がきょうの夜に自動車事故を起こし、亡くなってしまうという内容だった。事故の原因は運転中の居眠りで、そのため橋を乗り越えて川へと落下し、溺れ死んでしまう。


 しかしその男がだれなのか、わたしにはわからなかった。これまで自分が知らない人物についての予知夢を見たことはなかった。だとするとわたしが思い出せないだけで、どこかで出会っていたのだろうか。もしそうだとすると、親戚や知人ではないはず。


 わたしは記憶を探ってみる。知り合いでないとしたら、わたしを訪ねてきた人たちだろうか。だがどうもぴんとこない。もし訪ねてきた人なら顔も名前も覚えているはずだろうし、それを忘れるはずがない。けど男の顔には見覚えがあるような気がする。だとしたらだれだ?


 朝からずっと考えているが、わからない。いたずらに時は過ぎ、いまは夕方になってしまっている。急がないともうすぐ夜が来てしまう。


 男に見覚えはあるのはたしかなようだ。それに会話をしたような気もする。それも遠い昔のことではない。そうわたしが予知夢を見るようになった、あたりのころのような気がする。


「……わかった!」思わず叫んでしまった。「病院の先生だ」

 予知夢で見た男は、病院で出会った医者だ。たしか名前をなんと言っただろうか?


 ……キャロル。たしかあの医者はわたしにキャロルと名乗ったはずだ。キャロルはきょうの夜に自動車事故を起こして亡くなってしまう。急いで事故を止めなければ。


 わたしはすぐさま病院へと向かった。病院に着く頃には、夜の帳が落ちはじめており、一刻の猶予も許されない状況に追い込まれていた。わたしはキャロルの姿を求めて、病院を駆けまわり、そしてようやくその姿を見つけた。


 キャロルは病院の裏手にある駐車場で男と立ち話をしていた。キャロルは白衣ではなく、ふつうのスーツ姿のため、帰り支度をすませてこれから帰途につくと予想される。


「キャロル先生!」わたしは大声をあげて駆け寄る。「待ってください」


 キャロルは男と会話するのをやめ、困惑した顔つきでわたしを見つめる。「……きみはたしかミス・レイクスじゃないか。いったいどうしたんだね」


「あなたに会いに来たの」


「わたしに?」キャロルはとまどった様子だ。「どうして」


「大事な話があるから聞いてほしくて」


「おいおいヘンリー」名も知らぬ男が茶化すような口調で割ってはいる。「結婚したばかりなのにもう浮気か」


「誤解するなよルイス。彼女はわたしの元患者でそういう関係じゃない。レイシー・レイクスと言えばきみも知っているんじゃないか」


「レイシー・レイクスだと!」男は驚きの視線をこちらに寄越した。「まさかきみがあの有名な夢占い師レイシー・レイクスなんだな。会えて光栄だよ。予知夢が見れるって話はほんとうなのかい?」


「ええ、そうよ」わたしは肯定のうなずきを返した。「だからきょうここへと来た。予知夢を見たから」視線をキャロルへと向ける。「キャロル先生、あなたはこのあと車で交通事故を起こして死んでしまうわ。だからお願いだから、きょうはもう車を運転しないで」


「わたしが交通事故で死ぬ?」キャロルの表情がきびしくなる。


「あなたは車の運転中に居眠りをしてしまい、そのせいで車を暴走させて橋から落ちてしまい、溺れ死ぬのよ」


 キャロルは目頭をもみはじめた。「……たしかにここ最近人手が足りなくて働き詰めで、きょうも疲れているが、だがわたしがこのくらいで居眠り運転をするなんて信じられない」


「夢占い師としてのわたしの評判を知っているでしょう。あなたを死なせてくないから、わざわざここまで来たのよ。冗談でこんなことをしないわ。だからお願い、信じてよ!」


「……わかったよ」キャロルは納得したらしく、うなずいてくれた。「わざわざわたしを救うために、きみはここまで来てくれたんだ。きみはやさしい人間にちがいない。だからわたしはきみの善意を信用し、きょうは車で帰るのをやめるよ」そこまで言うと、少し困った様子であごをなでる。「だがそうなると帰りはどうしたものだか」


「それならヘンリー、わたしが車できみを家まで送ってやろう」そう言うと男はわたしを手で指し示した。「ミス・レイクス、あなたもね」


「えっ、わ、わたしも?」虚をつかれてわたしは吃ってしまう。


「親友の危機のために駆けつけてくれたんだ。そのくらいのことはさせてくれ夢占い師さん」

 男はルイス・ベイカーと名乗った。職業は軍人だそうだ。医者のヘンリー・キャロルとは、幼い頃からの親友だとのこと。


 こうしてわたしはキャロルの運命を変え、命の危機を救ったのだった。

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