第七幕 第三場
階段から転げ落ちて頭に怪我をしてから早数ヶ月。あの日から、わたしはたびたび予知夢を見るようになっていた。そのたびにわたしは、自分が見る夢がこわくなった。どうして予知夢を見るようになってしまったのか? 頭を怪我したことで、脳に何かしらの影響があってそのせいなのだろうか?
だがわたしの頭でいくら考えようが答えは出ない。わかっているのは、わたしは予知夢を見ることができる、ということだけだ。しかしいつ予知夢を見るのかがわからない。これでは毎日のように見る夢の内容に、自分が振りまわされてしまう。
だからわたしは夢の日記をつけるようにした。日記にはその日に起きたできごとに加え、その夜に見た夢の内容を記した。それにより、予知夢を見るタイミングに何か規則性がないかと探った。そして怪我をしてから半年後、ようやく予知夢を見る規則性を発見した。
「雨の日だ!」わたしは日記を読み返しながら、思わず叫んでしまう。
雨の日に見る夢が、高確率で現実で起きていたことに気づいた。晴れの日には予知夢を一度も見ていない。さらによく調べてみると、たとえ雨が降っていたとしても、途中で晴れたりした場合には予知夢を見ていないことがわかった。つまりは夢を見ているとき雨が降っている必要がある。それが予知夢を見る条件のようだ。
そのことに気がついたその日の夜、外では大雨が降りはじめた。おそらく寝ているあいだに、この雨が止むことはないだろう。おそらくわたしはきょう、予知夢を見る。
わたしは胸を高鳴らせつつ寝床についた。緊張してなかなか寝付けない。激しい雨音と雷の音が鮮明に聞こえる。ようやく眠りについたのは、日付をまたいだあたりの頃だった。
わたしは夢を見る。火事の夢だ。それはとある知り合いのひとり暮らし老婆が、朝の食事の準備をしている最中にぎっくり腰で動けなくなり、そのせいで台所から火の手があがるというものだった。燃えあがる火は老婆を飲み込み、焼き殺してしまう。
朝目覚めると、わたしは着替えもせずにすぐに家を飛び出した。向かう先はもちろん老婆の家だ。自分の家からはそう遠く離れていない。全力で走れば十分でたどり着ける。
やがて息があがるころ、わたしは老婆の家にたどり着いた。すぐさま玄関のドアをあけて台所へと向かうと、床に倒れている老婆とともに、火の手があがるコンロを目にする。わたしは近くに置いてあったバケツに水をためてそれを消化すると、老婆のもとに歩み寄った。
「……レイシーかい」老婆が言った。「助けてくれてありがとう。よくわかったわね」
「夢で見たから急いで来たの」わたしは息を切らせながら言う。
老婆は不思議そうにわたしを見つめる。「……夢で見た?」
「ええ、そうよ」わたしは自然と笑みがこぼれた。「わたしは予知夢を見ることができるの」




