第七幕 第一場
その日の朝、わたしは足をすべらせ階段から転げ落ちた。頭から血を流すわたしを見て、妹がひどく取り乱していたのを、気を失う前に見ていた。そして目を覚ますとそこは病院のベッドの上だった。わたしは上体を起こすと、まどろむ意識のなか窓の外をぼうっとながめる。すでに日は落ち、雨が降っていた。
しばらくして若い医者の男が病室にやってきた。「どうやら目覚めたようだね。わたしはこの病院の医者でヘンリー・キャロルと言います。あなたの名前を教えてくれますか」
「……レイシー・レイクスです」
「よしちゃんと名前が言えたね」医者は安堵するかのようにうなずいた。「どうして自分がここにいるのか、その理由がわかりますか?」
「……たしかわたしは足を踏み外して、階段から落ちてしまったんです。そのせいで頭を打ちました。たぶん血が出ていたと思います。そのあとのことは覚えていません。たぶん気絶していたんだと思います」
「どうやら記憶は正常に働いているようだね。レイクスさん、あなたの言うとおり、階段から転げ落ちて、左側頭部に八針を縫う怪我を負ったんだ」
わたしは左側頭部にそっと手をふれると痛みが走った。それをがまんしながら、傷跡を指でなでてたしかめる。たしかに縫われた傷跡がある。
「気になるのはわかりるが、あまり傷口にさわらないようにして」医者が注意する。「傷口は痕になると思いますが、その位置なら髪の毛で隠せるだろうし、目立ちませんよ。不幸中の幸いでしたね。あなたの美貌は損なわれませんよ」
「……はあ、そうですか」わたしを口説いているつもりなのだろうか。
「何か気分が悪かったりとか、頭痛がするなどといった体調の不良はありますか?」
「いえ、特には?」
「よろしい。念のためもう二、三日入院して経過を見ましょう。退院はそのあとになりますね。それまではおとなしく休んでいてください」
医者が出て行くと、わたしはふたたび窓の外をながめていた。怪我のせいだろうか、なんとなく浮かない気分だ。やがて眠りに誘われたわたしはベッドに横になった。するとほどなくして夢を見た。
妹の夢だ。わたしが家に帰ってくると、妹が泣きながらわたしに抱きついてくる。わたしはそんな妹を抱きしめてなだめるのだ。だがなぜ妹がそんなに泣いているのか、わたしにはよくわからなかった。
目覚めると朝だった。だが入院していることをいいことに、わたしは二度寝についた。




