幕間 その六
「……思い出したロリーナだ」わたしは自分の記憶を取りもどした。「わたしの名前はロリーナ・ベル。アリス・キャロルを救うためにレイシー・レイクス、あなたに会いにきたんだ」
「わたしに会いにきた?」レイシーは依然としてうろたえている。「さっきからあなたの話はまるで意味がわからない」
「全部説明するわレイシー。だけどその前にあなたには受け入れてもらうことがあるの。こんなことを伝えるのはつらいけど、事実だから聞いてちょうだい」わたしはそこで注意を引くかのように間を置いた。「あなたはもう亡くなっているの」
「へっ?」レイシーは顔を引きつらせた。「何を馬鹿なことを言っているの。そんなことあるわけないじゃない。わたしには自分が死んだという、記憶なんてないわよ」
「それはあなたが生者に取り憑いてしまったために、自分を生きた人間だと思い込んでしまったせいなの。そのせいで自分が死んだという記憶を忘れてしまっている」
「そんなの嘘よ!」レイシーは声を荒らげた。
「嘘なんかじゃない。だから落ち着いて聞いて」わたしはなだめるような口調になる。「あなたが亡くなり、それから二十年近く経ったある日、あなたは妹の娘の夢のなかに登場するようになった。姪っ子であるメアリー・レイクスの話では、あなたは助けを求めていたそうよ。それであなたの妹は、あなたが何かを訴えていると考え、交霊会の協力のもとあなたをメアリーに馮依させた」
「……メアリーですって?」レイシーは顔を青ざめさせた。「妹が大事にしてた人形の名前よ。もしも自分に子供が生まれてその子が娘だったら、メアリーと名付けるって子供の頃によく言っていた」そこで間を置く。「まさかあなたが言っていることは、ほんとうのことなの?」
わたしはうなずいた。「メアリーに馮依したあなたは自分が死者であることを忘れて、いつまでもその体を支配していた。そのため特別な力を持つ共感者と呼ばれるわたしの友人アリスが、メアリーを助けるために夢のなかへ潜入し、あなたとの対話を試みたが失敗してしまった。そしてこんどはアリスにあなたが取り憑いてしまったのよ。だからアリスを助けるために、こんどは彼女とおなじ共感者であるわたしが夢のなかへと来たわけ」
レイシーは何も言わず、不安げな表情でわたしを見つめる。おそらく半信半疑なのだろう。
「あなたが困惑するのも無理ないわ。けれどいまはわたしを信用してほしいの。だからお願い、手を出してレイシー。わたしが手を握ればあなたの記憶を探れる。あなたがどうして助けを求めていたのか思い出させてあげるわ。わたしが手を握ったら目をつぶって気を楽にして」
わたしが両手を前に出すと、レイシーはおそるおそるその手を重ねた。わたしはゆっくりとその手を握り、静かにまぶたを閉じる……。




