幕間 その五
意識が混濁するなか、わたしは白昼夢を見た。アリス・キャロルの夢だ。メアリーという女の子に取り憑いたレイシー・レイクスと接触をはかるために、アリスは夢の共有をおこなった。だがしかし、その際に現れたレイシーらしき白いもやに襲われ、そこで夢は唐突に終わってしまったのだ。
「あの、だいじょうぶですか」女の心配するような声が聞こえた。
わたしはなんとか意識をはっきりさせようとつとめながら、声の主に顔を向ける。長い黒髪をうなじで結んだ、華奢な女がわたしの顔をのぞきこんでいた。
「……レイシー・レイクス」わたしは言った。「それがあなたの名前だったわね」
「ええ、そうよ」
わたしは腰かけていたベッドから立ちあがると、レイシーと向き合う。わたしは手のひらを上に向けるようにして、右手を前に出した。そしてその手を握り、数秒後に手を開くと、そこには一枚のコインが出現していた。
「す、すごいわね」レイシーは驚いた様子でコインをまじまじと見つめている。「あなたマジシャンなの?」
「わたしはマジシャンじゃない」わたしはコインを指ではじいて頭上高く飛ばす。すると落ちてきたコインはわたしの手のひらの上で制止し、空中でまわりつづけた。「共感者だ」
レイシーが顔を青ざめさせながら、わたしを見つめる。「なっ……なんなのこれ。いったい何がどうなっている?」
「ここは現実じゃない」
「現実じゃない?」レイシーは引きつった笑みを見せる。「何を馬鹿なことを言っているの。わたしをこわがらせたいわけ」
わたしは空中でまわりつづけるコインをつかんだ。「ちがうの、あなたをこわがらせるつもりはなかった」
「いったい何がどうなっているのよ?」レイシーがおびえる口調で言う。「お願いだから説明してちょうだい」
「……わたしにもよくわからない」わたしはこめかみをさする。「わたしの身に何が起きたのかも、自分でも理解していない。けどひとつだけわかっていることがある。わたしが見た夢は予知夢なんかじゃなかった。ふたりの共感者の記憶だ」
なぜふたりの記憶を思い出す? いったいわたしはだれなの?
思い出せ、とおのれに強く命じた。するとふたたび意識が混濁しはじめ、やがて記憶の渦に飲み込まれていった。




