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第五幕 第五場

 いまわたしはベッドで横になっているメアリー・レイクスを見おろしている。穏やかなその寝顔は子供そのもので、とても幽霊が取り憑いているようには見えない。だがしかし、その体にはレイシー・レイクスが取り憑いているのはまぎれもない事実で、わたしの共感者の力がそれを証明した。


 メアリーに取り憑いたレイシーは、自分が死者であることを忘れ、さらには生者のように振る舞う。都合のいいことに目が見えていないようで、そのためその死を納得させられない。それはまるで夢を見ている人間が、夢の状況に合わせて都合のいい記憶を持ち合わせているため、自分が夢を見ていることに気づけないことに似ていた。


 レイシーの発言によると、夢のなかでは目が見えているらしく、それならば夢のなかで説得するしかない、と最終的に結論がでた。そのためその説得役には共感者であるわたしが抜擢された。死者との夢の共有には少なからず恐怖を感じたものの、この共感者の力でメアリーを救うことができると思うと、不思議と勇気がわいてきた。


 わたしは深呼吸すると、自分の手のひらに視線を落とし、腹をくくった。


「アリス準備はいいかな」ビル・グレイ博士が訊いてきた。「睡眠薬のほうはどうだい?」


「薬のほうならだいぶ効いています」わたしは朦朧とした意識のなかで答えた。「横になれば、すぐにでも眠れそうですよ」


「そいつはよかった。なら夢の共有をはじめる前に手はずの確認だけさせてくれ。きみはメアリーと夢を共有することで、夢のなかでレイシーと接触を試みるんだ。それができたのならば、彼女に自身の死を告げてメアリーの体から出て行ってもらう」


「レイシーが助けを求めていた理由は聞き出さないでいいんですか?」


「あくまでも目的はメアリーの体からレイシーを追い出すことだ。あまり深くかかわらなくていい。ただでさえ慎重におこなわなければならない夢の共有実験に、死者との接触が含まれているんだ。どんな不測の事態が起こるかぼくにも予想できない。もし危険だと感じたらすぐにもどってこい。常に自分の身の安全をいちばんに考えて行動しろ。いいなアリス?」


「そんなにわたしのことを心配くれるんですか?」


「勘ちがいするなよアリス。ぼくは自分の研究のことを心配してるだけだ。もしもきみに何か深刻な事態が起きれば、ぼくの研究におおいに差し障りがあるからな」


 わたしはくすっと笑う。「はい、わかりました」


 わたしがベッドに横になりメアリーの手を握ると、研究員の人がその手を布で固定する。それがすむと、わたしはゆっくりとまぶたを閉じて気を楽にした。すでにまどろんでいた意識はすぐさま闇へと落ちていった……。

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