第五幕 第四場
わたしはメアリーの心を読み取った際に見えた映像は、若かりし頃のビル・グレイ博士だった。その記憶をメアリー・レイクス自身が持ち合わせているはずもなく、明らかに別人の記憶だと判断せざるを得なかった。
ほんとうにレイシー・レイクスが取り憑いているとわたしが告げると、それまで懐疑的だったグレイの顔色は一変した。すぐさまメアリー・レイクスとの面会を打ち切ると、わたしとメアリーとの接触を禁じた。その後、グレイはメアリーの母親と交霊会の人たちを呼んで、話し合いの場を設けた。
グレイは持ち前の冷徹さで迅速に対応していたが、その表情はどことなく落ち着かないように見えた。だがしかし、それもしかたのないことだな、とわたしは思った。エイトに来てからさまざまな超能力者の実験を見学させてもらい、そのたびに驚かされてきたわたしだったが、メアリーの件は次元がちがった。死者の魂が存在し、それが生きた人間に馮依するなどとは思いもしなかったからだ。
そもそもなぜメアリーの夢にレイシーが現れ助けを求めていたのか、その理由が不明だった。それが知りたくてメアリーの母親は交霊会の人たちに協力してもらい、レイシーの魂を呼び寄せた。だがしかしメアリーに馮依した当のレイシーはそんなことは忘れているようで、まるで自分が生きているかのように振る舞う。
このことに関して交霊会の人たちは、死者が助けを求めるのは大抵が悲惨な死や報われない結末を迎えた場合だそうだ。レイシーの死因は首吊り自殺。その突然の死の理由について、予知夢によって恐ろしい未来を知ってしまったためだとか、いろいろと噂されていたが、その理由はいまでもはっきりとわかっていない。
そしてメアリーに馮依させられたレイシーが、助けを求めていることを忘れている件にかんしては、生者に取り憑いたことにより、自分を生きた人間だと錯覚しているためだと推測された。そのため自分がすでに死んでいることを自覚させれば、助けを求めていた理由を思い出させることができると考えられた。
だがしかしメアリーの母親の話によると、何度もレイシーにその死を告げても信じないという。さらには目が見えていないため、証拠となる資料などを見せることもできず、その死を納得させることができずに困り果てているとのことだった。
メアリーの体からレイシーを除霊するには、その死を受け入れてもらうしかない。そしてなぜ助けを求めていたのか、その理由を聞き出すという大役がわたしにまわってきた。方法は夢の共有を利用してレイシーとコンタクトをとるという。まさか生きた人間に取り憑いた死者と、夢を共有する日が来るとは夢にも思わなかった。




