第五幕 第三場
わたしはビル・グレイ博士とともにエイトの施設を移動し、メアリー・レイクスがいる部屋へと向かった。そこは警察署の取調室に似た造りの部屋で、狭い部屋にはテーブルと椅子しかなく、壁の一部が大きな鏡になっていた。おそらくそれはマジックミラーだと思われ、隣の部屋にいる人物がそれをとおして、こちらを観察しているのだろう。
わたしたちが部屋にはいってきたとき、メアリーと思われる女の子は静かに椅子に腰かけていた。メアリーは栗色の髪とそばかすの散った顔が特徴的な女の子だった。おかしなことにメアリーは焦点の定まらない目で空中を見据えている。
グレイがメアリーの対面にある椅子に腰をおろすと、わたしはその隣に立った。
「やあレイシー」グレイが言った。「ぼくがだれだかわかるかね?」
「その声はグレイ博士」メアリーが口を開いた。「おひさしぶりですね」
「調子はどうだい?」
メアリーは声の主を探すかのように、視線をあちらこちらへと走らせている。「聞いてくださいグレイ博士。やっぱり目が見えないんですよ」
「その様子だとそうみたいだね。どれ、ちょっと失礼するよ」
グレイは胸ポケットにあったペンライトを手にすると、それを使ってメアリーの目に光を当てて調べはじめた。それがすむとわたしの耳元でささやく。
「瞳孔の反応はある。目は見えているはずなんだよ。だが彼女は見えていないらしい」
わたしも小声になる。「どうせ見えていないふりだと思います」
グレイはうなずくとメアリーに顔を向けた。「レイシー、きみは自分のことをレイシー・レイクスと言うけれども、ほんとうはちがうんだ。きみはレイシー・レイクスの妹の娘だ」
メアリーは口元に笑みを漂わす。「グレイ博士ったら、わたしの目が見えないからって人をからかわないでください。それに妹の娘ですって。あの子はまだ中学生ですよ。まさかあなたまで予知夢を見ることができるなんて、言わないでくださいよ」そこでことばを切ると、その表情が曇った。「あっそうだグレイ博士。ここ最近、予知夢がまったく見えなくなったんですよ。代わりに自分の家にいる夢ばかり見るんです」
グレイは困り果てた様子で頭を掻いた。「……レイシー、手を前に出してくれ」
グレイがこちらに視線を送ると、わたしはメアリーの手を握った。そして頭のなかに流れ込んでくる映像に、驚愕させられる。なぜならば、それは十歳の女の子がけしてもちえるはずのない記憶だったからだ。
わたしは戦慄し、すぐさまその手を振り払うと、後ろへとよろめき尻餅をついてしまう。
「ほんとうだ」わたしの声は震えていた。「ほんとうに彼女には死者が取り憑いている……」




