第四幕 第六場
物質のコントロールをマスターしたわたしとロリーナは、第三段階のトレーニングへと移行する。それは夢の世界の空間をコントロールするという内容だった。いままでは個々の物質単位で夢の世界に改変を加えていたが、こんどはそれらを取り巻く空間単位で改変を加えるとのことだ。
そのためにわたしたちが最初にさせられたのは、手のひらを軽く握り、その閉ざされた小さな空間に物体を出現させるというものだった。これもまた物体のコントロールと同じように、コインのような小さい物からはじまり、徐々に大きな物へと進んでいくそうだ。
わたしたちはさっそく手のひらを握り、そこにコインが出現するイメージを頭のなかで描く。そして手を開くと、そこにはコインが出現していた。その光景はまるでマジシャンがやるような初歩的なコインマジックのようだった。
わたしたちはつぎつぎと、手のひらの中に物体を出現させたり、逆にその物体を消失させたりを繰り返した。やがてそれに慣れてくると、こんどは大きな木の箱を使用した空間コントロールに移行するよう、ビル・グレイ博士に指示された。くわしい内容は、ふたで閉ざされた箱の空間をひとつの部屋と見なし、そこにミニチュアサイズの家具などを出現させて、部屋をレイアウトしろとのことだ。
わたしたちは箱を用意すると、指示されたとおりにその内側の空間をひとつの部屋と見なし、自分好みの部屋を思い描いていく。それを終えてふたをとってみると、自分が思い描いていたような部屋のレイアウトではなかった。ところどころ配置がずれているうえに、出現していない家具もあった。何度かためしてみたが、やはり同じ結果になる。それはロリーナも同じで、わたしたちは同時に多数の物体を出現させ、なおかつそれを自分の思い描いた状態で配置するむずかしさを痛感した。
だがわたしたちはあきらめなかった。粘り強く何度も繰り返すことで、空間を立体的に意識して把握するようになると、徐々に自分の思い描いた空間へと近づいていく。やがてわたしたちは苦労のかいもあって、完璧な理想の部屋を作り出せるようになっていた。
そして空間コントロールのトレーニングは最終段階へと進む。こんどは自分たちがいる部屋の空間を作り替えることになった。わたしたちは廊下に出て部屋のドアを閉めると、それを実行する。そしてふたたびドアを開いたとき、部屋の中は泥棒が侵入したかのように荒れ果てていた。やはりミニチュアではなく実物大の大きさだと、難易度はぐっとあがってくる。
だがわたしたちはミニチュアで培った経験をもとに感覚を修正し、何度か試行錯誤してみると、やがて自分の思い描いた間取りに部屋を作り替えることに成功した。
こうしてわたしたちは空間をコントロールすることが可能になった。




