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第四幕 第一場

 エイトに来てから一ヶ月半が過ぎる頃、共感者の実験はあらたな展開を迎えた。その実験の実質的なメンバーはわたしとロリーナのふたりだけだ。ビル・グレイ博士の話によると、この実験には相手に直接触れて心を読み取る接触タイプの共感者が望ましいとのこと。以前ロリーナが話してくれたとおり、高齢のマンセルは戦力外通知されたらしく、一周間ほど前からその姿を見かけていない。そんなわけでわたしとロリーナのふたりは、グレイ博士のもとに呼び出されていた。


「きみたちは夢を見たことがあるかい?」グレイが訊いてきた。


「唐突になんだその質問?」ロリーナが眉をひそめる。「夢ぐらいだれだって見たことあるにきまっているだろ」


「たしかにきみの言うとおり、ふつうの人間なら夢を見る。だがきみたちはふつうの人間とはちがい共感者だ。もしかすると共感者は夢を見ないかもしれないと思ってね」そこでグレイはわたしに視線を向ける。「アリス、きみは夢を見たことは?」


 わたしはうなずいた。「もちろんあります」


「それはよかった」グレイは満足げな笑みを浮かべる。「これでつぎの実験に進める」


「それでつぎは何をするんだよ」ロリーナが質問する。


「きみたちは人の心を読み取れる力がある。その人が心で思い浮かべた過去の記憶も見ることができた。そこでぼくは考えた。夢を見ている人の心を読み取れるのかどうか、ぼくはそれが知りたいんだ。きみたちは夢を見ている人の心を読み取った経験はあるかい?」


 わたしは首を横に振る。ただでさえ母の言いつけで人の心を読むことを禁止されていたのに、夢を読み取るなんてことしたことはなかった。というより思いつかなかった。


「夢を読み取るか……」ロリーナが思案気な表情になる。「そんなこと考えてもみなかった。それがつぎの実験なのね」


「いやちがう」グレイは口元に意味ありげな笑みを漂わせる。「これはつぎの実験の準備段階に過ぎない。おそらくぼくの予想ではきみたちは夢を読み取ることができるだろう。だとしたら、きみたちが被験者と手をつないだまま、いっしょに眠りについたらどうなると思う。もし夢を見たとしたらどんな夢なのか興味がわかないかい。そしてその夢が被験者の見た夢と同じだとしたら」


「夢の共有実験ってわけか」ロリーナが言った。


「そういうことだ」グレイはうなずく。「大変興味深いだろ」


「でもそんなことほんとうにできるの?」わたしは訊いた。


「できるできないかはまだわからない。だから実験するのだよ」


 こうしてあらたな実験がはじまった。まずはじめに被験者の夢を読み取れるかどうかの確認がおこなわれた。事前にグレイから夢についての説明があり、睡眠には深い眠りと浅い眠りがあり、前者をノンレム睡眠、後者をレム睡眠というそうだ。ノンレム睡眠時には体も脳も休止状態にあるが、レム睡眠時だと脳は活動しており、そのときに人は夢を見るらしい。眠っている人はこのノンレム睡眠とレム睡眠を交互に繰り返しているらしく、被験者の脳の活動を知るために脳波測定器が用いられた。


 わたしたちは被験者がレム睡眠時にその手にふれ、その心を読み取る。その結果、グレイの予想どおり、わたしたちは被験者の夢を読み取ることに成功した。その後も十数人の被験者との夢の読み取りがおこなわれたが、心の読み取りとはちがい、とどこおりなく簡単に全員の夢を読み取ることができた。これについてグレイは、起きているときとはちがい、眠っている人の心は無防備で、そのため被験者の抵抗も少ないのでは、と推測していた。


 共感者による夢の読み取りができることが確認でき、夢の共有がはたしてできるのか、その実験がいよいよはじまる。


 二台のベッドをくっつけるようにして横並びに設置し、そのあいだに互いの姿が見えないようにカーテンが敷かれた。これは両者ともに相手の姿を見て、先入観をもたれないようにするための配慮だと説明された。


 夜になりわたしは顔の見えない相手とカーテンを挟んでベッドに横たわった。そして被験者の手を握ると、研究員がその手を布で固定する。見知らぬ相手と手をつないだまま眠るのは少しばかり緊張したが、事前に飲んだ睡眠薬のおかげですぐに眠りにつくことができた。


 そして朝になり起床すると、すぐさま被験者のいない別室へと移動させられた。そして寝ぼけまなこのなか、見た夢について忘れる前に紙に書き記していく。その結果、わたしが見た夢と被験者が見た夢が見事一致した。


 同じ実験を受けていたロリーナも被験者と同じ夢を見ることに成功する。

 この実験結果に対してグレイは歓喜し、さらなる追加実験をつづけることを決めた。


 わたしたちは連日見知らぬ被験者とベッドをともにし、夢を共有しつづけた。なかには夢が不一致だったりする場合もあったが、被験者が緊張して寝付けない、または睡眠がとぎれとぎれだったことが原因だった。


 こうして被験者たちと実験をつづけた結果、わたしたちは高い確率で夢を共有することができた。

 わたしたちとはべつに非接触タイプの共感者による夢の共有実験もおこなわれていたらしいが、こちらの実験は失敗に終わったらしく、望ましい結果は出なかったようだ。


 このことにより共感者は人の心を読み取り、さらには接触タイプは夢を共有することができると証明された。


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