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第三幕 第二場

 うんざりだった担任の先生の説教が終わり、ようやく解放されたわたしと母は家路についていた。


「ママ、先に言っておくけどわたしは悪くないからね」わたしは口を尖らせて言う。「悪いのはエイダとメイベルよ。そしてわたしの話をこれっぽっちも聞こうとしない先生のせいね。あの人は教育者に向いてないわ」


 母はくたびれた様子でため息をついた。「ほんとうはいったい何があったの?」


「ママはわたしの話をちゃんと聞いてくれる」


「もちろんよアリス。わたしの娘ですもの」母は疲れた笑みを浮かべる。「だから正直に話してくれる」


「うん、わかった」わたしはうなずいた。「ことの発端はクラスメイトのエイダとメイベルがウィジャボードで遊びだしたのが原因よ」


 母が首をかしげた。「ウィジャボード?」


「ママ、ウィジャボード知らないの?」


 母は首を横に振る。「知らないわ」


「ウィジャボードっていうのはね、開いたノートぐらいの大きさの板にゼロから九までの数字と、アルファベッド二十六文字、それにイエスとノーの文字が書かれた物のことなの。そのウィジャボードの上で、文字を指し示すプランシェットと呼ばれる物にお互いの指を添えて、死者と交信したりする儀式めいたことをやるのよ。エイダとメイベルはウィジャボードを使って遊びはじめたの」


「死者と交信?」


「そう。死者を呼び出して質問するの。するとプランシェットが勝手に動き出して答えてくれるってわけ」


 母は疑わしげな顔つきになる。「そんなことがほんとうにできるの?」


「できるわけないじゃない。あんなのインチキよ。エイダとメイベルは自分たちでプランシェットを動かしてみなをこわがらせて、おもしろがっていた。ほんとうに幽霊はいるんだ、お告げどおりしないと呪われるぞと脅して、自分たちの都合のいいようにみんなを服従させようとしていたのよ。それがだんだんエスカレートしてきて泣き出す子まで現れたわ。それでもあのふたりはウィジャボードをやめなかった」


「ひどいことをするわね」


「ママもそう思うでしょう。だからわたしあいつらの手を握って、それがインチキだと知った。だからみんなに嘘だと教えてあげたの。そしたらあいつら怒りだして、騒ぎになったわけ」


 話を終えると母は気難しそうな表情になっていた。どうして母がそんな顔をしているのかわからなかった。いつもなら人のためによくやったと、わたしをほめてくれてもいいはずなのに。わたしは母の真意が知りたくて、その手を伸ばした。


「だめよアリス」母はわたしの手を制した。「いつも言っているでしょう。無闇に人の心をのぞいてはいけないと」


「だったら教えてよ。ママがいま何を考えているのか。どうしてわたしをほめてくれないの。人の役に立つことをしたというのに」


「たしかにあなたは人の役に立とうとしたのかもしれない。でもそのために人の心をのぞき見ることは、ほめられたものではないわ」


「でもそうしないと、エイダとメイベルは悪さをつづけたわ」


「たしかにそうね」母は困ったように頭を掻いた。「だからこそ、あなたをほめていいのかどうか、それともしかるべきなのか、わたしにはわからないのよ」


 わたしに心が読める不思議な力があると知った母は、人のプライバシーを尊重しなさいと言いつけた。そして人の心を勝手にのぞきこむことは卑しいおこないであり、けっしてしてはならないとも言われた。だからこそ母は困っているのだ。言いつけを守らず人の心をのぞき込み、善行をおこなおうとするわたしに。


「ママ、わたしはやっぱりまちがっていたの?」


「……そうね」母は思案気な表情になる。「あなたのその不思議な力はわたしの理解を超えているわ。それにあなたはもう十五歳。分別のつかない子供でもないし、何がよいおこないなのか、悪いおこないなのか理解している」そこでことばを切るとほほ笑んだ。「アリス、あなたはもう子供じゃないんだから、これからはあなた自身でどうするべきか考えなさい。それが大人になるってことよ」


「わたしが決めるの?」


「ええ、そうよ。あなたの持って生まれたその不思議な力。わたしではなく、あなた自身でどうするべきか決めるのよ」


 そう言われわたしは不安になる。「ママではなく、わたし自身で考えて決めるの……。急にそんなこと言われても、わたしにできるかな」


「あなたらなできるわアリス」母はうなずいた。「なんせママとパパの子供なんだから。自分の良心に従って行動しなさい。それが大人というものよ。きっとあなたらなだいじょうぶ。自身を持ちなさい」


 わたしは自分の手のひらに視線を落とした。不安を紛らわすかのように、手のひらを何度か閉じたり開いたりを繰り返した。

「……うん、わかったママ。わたし自分で考えて決めてみる」


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