序幕
わたしは歩いていた。街灯すらない暗闇の道を、ただひたすら歩きつづけていた。
不思議なことに、自分がなぜ歩きつづけているのか、そしてどこに行こうとしているのか、よくわからない。
いったい自分はどこへ向かっているのだろうか?
自分自身にそう問いかけてみるも、答えは返ってこない。けれどたどり着かなければならない場所がある、と心の奥底で強く感じていた。そのためにわたしはこうして歩きつづけているのだろう。
だがしかし、いったいなんのために?
ふたたび自分自身に問いかけてみるも、やはり答えは返ってこない。理由や目的は思い出せなかった。
わからないことだらけのなか、ひとつだけわかっていることがある。それは動機だ。
わたしは心のよりどころを求めていた気がする。大切にしていた何かを失い、それを埋めるために、わたしはだれかを救おうとしている。その人を救うために、わたしはこうして歩きつづけている。
その人はいったいだれ?
……わからない。
思い出そうとするも、頭のなかに何も浮かんでこない。いや、浮かびはすれど、それは一瞬で消え去ってしまう。まるで駅のホームに立ち、そこを通過する列車の窓から中に乗っている乗客をのぞき込むかのようだ。
何度も何度も思い出そうとするも、記憶は一瞬で過ぎ去り、わたしが理解する前に消えてしまう。
どうしてこうなってしまったのだろうか?
それすらわからないまま、わたしは歩きつづけた。自分の置かれた状況も把握できずに進みつづける。
やがて行く先に家が見えてきた。月明かりに照らされたその姿を見るなり、わたしは既視感を覚えた。やがて家の前に来ると、それをまじまじと見つめる。レンガ造りの赤い家は二階建てで、傾斜した屋根からは出窓が突き出しており、庭には大きな木が生えている。
……どこかでこの家を目にしたことがある。それがいつだったかわからないが、見たことがあるのは確実だ。おそらく目的地はこの家にちがいない、とわたしは確信した。
安堵のため息をつくと、どっと疲労感が押し寄せてきた。するとわたしの意識はすぐに遠のき、そこから先は闇に包まれた。