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紫陽花(アジサイ)

作者: 閻魔天(ヤマ)

 五月のある日の放課後。私は直ぐに学校を出た。

 私は花が好きだ。いや花に限らず自然に触れるのは嫌いじゃない。自然には人のすさんだ心を癒す力がある。自然の偉大さとは凄いものだ。旧約聖書の詩篇で自然に対する感謝と畏敬の念を詩ったダビデの気持ちがわかるというものだ。

 そんなことを考えながら私は公園に咲く奇麗な紫陽花を眺めていた。

 天気は雨。それも少し強めのやつが私のさしている傘に強く打ち付けられる。そんななかでも紫陽花は雨にもまけずに咲き誇っている。紫陽花アジサイにはやはり雨が似合う。雨は嫌いじゃない。特に梅雨の雨は紫陽花の花と雨のコラボレーションが大変よく似合う。

「アジサイ好きなの?」

 ふいに声がした。視線をそちらに向けると水色の髪を真っ直ぐ背中に垂らした緑色の瞳の少女が立っていた。

「君は? それに傘ささないと風邪ひくよ」

「わたしが見えるの?」

「は?」

「わたし紫陽花の精霊だから普通の人間には見えないはずなんだけど……」

 ああそいうことか。この少女は人間ではないのだ。

「私霊感が凄く強くて普通の人間と変わらないレベルではっきり見えるから」

「そうなんだ。わたし今まで花を見に来る人に今みたいにダメもとで声掛けてきたんだけど皆気づいてくれなくて。そうか嬉しいな久し振りに人間のお友達が出来たよ!」

 本当に嬉しそうだ。

「それはどうも。私は庭見葉奈子にわみはなこっていうの、よろしく」

「わたしは紫、よろしくね」

 嬉々として紫が言った。その笑顔は梅雨だというのにまるで向日葵ひまわりように明るかった。


日曜、天気は曇り。わたしは公園で紫と一緒にベンチに座っていた。

「ねえ、人間って普段何して過ごしてるの?」

 唐突に紫が聞いてきた。

「何って……まあ、ゲームしたり本読んだりかな」

「へえ、そう言えば学校っていうのに人間は行くんでしょ。楽しいの?」

「つまんないわよ、あんなところ」

「えっ、はなちゃんみたいに制服? ていうの、着てる人たちは皆楽しそうだよ」

「あんなの友達ごっこよ」

「わたしとは?」

「へ?」

「わたしとも友達ごっこ?」

「えっ、ち、違うんじゃないかしら」

 昔、中学時代は友達はいればいるほどいいと思っていた。だから誰とも話した。でも友達は多ければ多いほどいいなんてことなかった。いろんな人と話したけど心から楽しいと思うことはなかった。

「私は紫といるのは楽しい、だから友達なんじゃないかしら」

「よかった」

 紫が嬉々として言った。

 私は紫とこうして話してるうちに彼女に次第に好感を持つようになっていた。

 食べ歩きやゲーセンなども一緒にやった。そのたびに彼女はあの紫陽花らしからぬ向日葵のような笑みを浮かべた。

 

 散華


 翌日の放課後、私はいつものように公園へ向かった。

 紫陽花の花が次第に枯れ始めていた。

「ねえ。はなちゃん、大事な話があるの」

「何? 改まって」

「わたしは花が枯れると消えちゃうの」

「えっ」

 一瞬彼女が何を言ってるのかわからなかった。次第にその意味を頭が理解し始める。でも精神が追い付かない。

「だからそろそろお別れなんだよ」

「な、何を言って」

「ごめんね。はなちゃんといる時間楽しかった」

「―」

「さようなら、また会おうね」

 その言葉を残して彼女は姿を消した。

 翌日、公園へ足をむけるが紫陽花はすべて枯れ紫の姿もそこにはなかった。悲しかった。もっと話していたかった。

 天気は快晴。でも私の心は梅雨のごとく雨が降っていた。

 ほんとに梅雨であれば彼女に会えるのに。でももう梅雨は明け紫陽花も全て枯れ散っていた。


 再生


 翌年の五月。公園に再び紫陽花が綺麗に花を咲かせていた。天気は雨。やはり紫陽花の花が一番綺麗なのは雨が降ってるときだ。こんなこと去年も考えてた気がする。

 そのまま家に帰ろうとして紫陽花を背にした時だった。

「!?」

 紫がいた。

「久しぶり」

 傘もささずにそこでたたずむ彼女の姿を見た時私は凄く嬉しかった。

「おかえり」

 私は嬉しさのあまり涙をながしていた。


 丁度梅雨の季節です。咲いてる紫陽花が綺麗なので書きました。自然ってすごいと思います。

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