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実況 はじめてのVRMMO

作者: ドゥギー

 ネットの動画配信をはじめて3年になる。

 最初は視聴数は少なかったが、根気よく毎日配信していくうちに

 視聴者が増え、今では十分な収入を得られるレベルになった。


 ここ1年力を入れているのは、ゲームのプレイ実況。

 配信業界で最も人気のあるジャンルで、俺の動画の視聴数も

 ゲーム配信をはじめてから爆発的に伸びていった。


 ある日、大手ネットゲーム会社から新作ゲームの体験実況を

 依頼された。DVDが送られてくると思ったが、会社に直接

 来てもらいたいと頼まれた。外に出るのは多少面倒だったが、

 視聴数のさらなる増加という欲望から、俺はゲーム会社に向かう

 ことにした。


 ゲーム会社に着いた俺は、ある会議室に案内された。

 しばらくすると、キリッとしたスーツに来た男が会議室に入ってきた。


「本日は弊社にお越しいただきありがとうございます」

「どうも」


 俺は軽く頭を下げる。


「ところで、今日やる新作ゲームはどんなのですか?」

「本日プレーしていただくのはこれです」


 男がホワイトボードに何か書き始めた。数秒後、俺が目にしたのは、

『VRMMO』の文字。


「これって仮想現実の世界でプレイするってラノベで流行ってるヤツですよね。

 今回はVRMMOもののラノベのゲーム化ですか?」


 普通だ。わざわざ会社でやるモノじゃないな。

 俺は口を尖らせ、腕を組んだ。


「いやいや、違うんです」


 男が慌てて手を振る。


「我が社はとうとうVRMMOを本当に実現したのです!

 今回はあなたに我々が開発したVRMMOのテストプレイをしてもらいたいのです」

「え!」


 俺は開いた口がふさがらない。


「百聞は一見にしかず。まずは現物をご覧になってください」


 俺は男にある部屋に案内された。部屋には大きな箱があった。


「これがVRMMO用の装置です。近くでご覧ください」

「これ撮影していいですか?」

「どうぞ」


 俺はカメラを手に装置に近づいた。


「今日はなんとVRMMOを体験します。空想の産物がとうとう現実に。

 その完成度はいかがなモノなのでしょうか?

 こちらが仮想現実にアクセスするための装置です。

 うーん、高級マッサージチェアのようですね〜」


 俺は装置のあちらこちらを触る。外観部は金属だが、俺が入るであろう

 中央部はマッサージチェアのように滑らかで柔らかい。片方には蓋のような

 ものが付いている。


「その中央部に仰向けに寝ていただきます」


 男が声をかける。


「寝ていただいたあと、蓋を閉めて仮想現実にアクセスすることになります。

 安全のために、麻酔をかけますのでアクセス時に少し痛みますが、すぐに楽になりますよ」

「プレイ中の撮影はどうすればいいでしょうか?」

「弊社でプレイを録画します。

 後ほどDVDをお渡ししますので、心配ありません。

 それではどうぞ」


 男が腕を伸ばして俺を誘う。俺は仰向けで箱に入った。


「がんばってください」

「はい。ちなみにゲームのタイトルは?」

「『セイント コフィン オンライン』です」


 モーター音と共にフタが閉められていく。男の口角が上がっているように見えた。


 フタが完全に閉まると、漆黒の闇に包まれた。

 首筋に一瞬痛みを感じたが、あとは心地よい空気に包まれた。

 しばらくすると光が広がってきた。


 全面に光が広がったあと、目にしたのは石畳にレンガ造りの建物。

 RPGにありがちな中世ヨーロッパ風の風景だ。

 テレビの旅行番組で見られるような妙なリアルさを感じる。

 現実と錯覚してしまいそうだ。


「ようこそセイント コフィン オンラインへ」


 目の前にツインテールの少女が現れた。


「どうも」


 俺は頭をかこうと手を挙げた。


「なんじゃ、こりゃ?」


 俺の右腕が四角い……。右腕だけじゃない、手も足も胴体もみんな四角だ。

 まるでドット絵で適当に描かれたキャラのようだ。


「おいおい、なんで俺だけカッコ悪いのよ!」


 俺は四角い体で地団駄を踏んだ。


「一旦、ログアウトさせてくれ!少女、どうやってログアウトするんだ?」


 すると少女は首をかしげた。


「ログアウト?そんなのないよ」

「はい?」


 俺は一瞬固まった。


「止まっているヒマなんてないですよ。すぐにカニが来ますから」


 少女が指差した方向から巨大なカニが横走りに走ってきた。


「おいおいおい、どうやって倒すのよ?武器は?」

「そんなのありません。早く逃げてください」


 せわしく辺りを見渡す俺に対し、静かにたたずんでいる少女。

 カニが迫ってくる。


「うわー!」


 俺は行く先も分からないまま、逃げ始めた。



 現実世界では男が携帯電話で通話していた。


「生体サーバ、6D74番確保しました。今から搬送します」


 装置の前に老女が立っていた。老女は目にハンカチを当てている。


「本当にありがとうございます」


 老女は声を震わせていた。


「お母様、安心してください。お子様はやっと社会の役に立つのです」


 男は老女の肩に優しく手を当てた。


「あ、あの子、30過ぎても働かないでパソコンばかりいじって……。

 機嫌が悪くなると、癇癪起こして家中のものを壊して……。

 うっ、うっ……こんな生活、もう耐えられなくて……うー」

「お母様、辛かったでしょう。もうお子様に会えませんが、これが

 お互いにとってよいのです。お子様は生体サーバとして、我が国の

 発展に貢献することになるのですよ」

「はいぃぃ……。タカユキ、タカユキ……」


 母親のすすり泣きだけが部屋に響いた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 星新一さんテイストなオチで非常に面白かったです。 強いて難を述べるなら、序盤もうちょっと主人公にいい思いさせてあげれば、さらにオチの絶望感が強調されたかな? と、個人的には感じました。 …
2016/01/03 17:33 退会済み
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