89 猶予がどのくらいか言うよ
僕はルディンから聞いた話を、ここにいるメンバーに伝えた。
ジキルとパメラは驚いた表情をしていたけれど、リールはポカンとしている。
恐らくよく分かっていないのだと思う。
リプリアは表情を変えず、黙って頷いた。
エリッタは暗い表情で、心なしかふらついているようだった。
メリクル神父が聞いていなくて良かった。
教会の信仰を揺るがすような内容なだけに、彼には話せない。
まだ試しの剣が片付いていない状況で、あまりにも重い情報だった。
そして僕はルディンに聞く。
ワイアデスが賢者の杖と賢者の石を作った理由と思われる話だ。
「ルディン、神の世界とこの世界が再び繋がるまでの猶予はどれぐらい?」
ルディンの驚いた感情が伝わってきた。
『オキス兄ちゃん・・・分かっていたんだね。
神の遺跡の封印はもうほとんど役に立っていないんだ。
古代遺跡の装置が計算した結果は三十年ほどだった。
このまま封印が維持された状態というのが前提だけど。』
「残り三十年か。
なるほど、だからワイアデスは・・・。
当然、師匠もそれを知っていて・・・。」
僕の三十年という言葉にみんなが凍り付く。
母もそれを知っていた可能性が高い。
だんだん話が繋がってきた。
そしてさらに僕はみんなに聞かれたくない話を、声を出さずにルディンに聞いた。
『魔王種の情報については何かあった?』
『神が実験する中で、強力な魔族を生み出すというのがあったよ。
その成果が魔王種なんだ。
魔力だけでは無く、特殊な異能力を持たせたかったらしい。
そして神は、魔王種を生み出すのに人間の魂一万を使用したという情報があったよ。』
僕は自分の動悸が激しくなるのを感じていた。
そしてさっき食べたものを戻しそうになる。
間違いない、僕が生まれる条件も同じだったんだ。
だから母は人間を大量に殺戮した。
「オキス、大丈夫?
顔が真っ青だよ。」
ジキルが心配して声をかけてくる。
「大丈夫だよ。」
僕はそう答えたけれど、あまり説得力の無いかもしれない。
『ルディン、もう一つ。
勇者についての情報は無かった?』
『あったよ。
神は魔族を人間に戻す研究もしていたんだ。
そして魔王種を人間に戻した結果、強力な魔法抵抗力を持つようになったんだ。
勇者はその子孫だよ。
試しの剣はその血統の中で、一定基準の能力を持つ者をに反応する、神の作った計測器なんだ。』
ほぼ間違いなく、僕の父親は勇者だ。
万に一つ、あの勇者が父親で無かったとしても、勇者の血統の人間が僕の父親だ。
ジキルもどこかで勇者の血統に連なっているんだろう。
そして魔王種の僕が瘴気無しでも普通に生きていける理由、それは魔族を人間に戻す実験の結果だ。
ここまでの情報で僕は確信した。
母のやろうとしていたこと、そして僕に何をさせようとしているのかも。
全ては母の計画通りだったんだ。
そして僕はその計画に乗るしか無い。
魔王アストレイアは死後も策謀無双だった。




