79 死霊の資料が欲しい
村で手に入れたボロ剣のおかげで、僕の強さが飛躍的に向上した。
剣に炎を纏わせて力押しすると、中近距離戦でエリッタと五分に戦える。
リプリアでさえ正面からの打ち合いでは対処不能になるレベルだ。
ただしスピードで劣るのでリプリアが本気を出したら、打ち合う前に瞬殺される。
魔導力の能力がもっと向上すれば、いつかリプリアに追いつけるかもしれない。
僕達は徒歩でエンプティモの街を目指していた。
目前というところで異変に気がつく。
街の方から煙が上がっていた。
その煙は生活によって発生する一般的な煙では無い、真っ黒い煙だ。
そして近づくにつれてハッキリと聞こえてくる怒号と悲鳴、剣の打ち合う音。
何かが起こっている。
街へ急いだ。
東門から中へ入る。
一応兵士達が入り口周辺に配置されていたが、僕達は素通りだった。
それどころでは無いらしい。
街に入った瞬間から立ち上る瘴気。
完全におかしな状況になっている。
街の広場には民間人が避難してきている様子だった。
中には怪我人もいる。
親を探して泣いている子供、へたり込んでいる怪我人。
瘴気が漂ってきているため、一般人にはかなりキツい状況だろう。
僕はその中の一人に声をかける。
「いったい何があったんですか?」
疲れ果てた表情で男が答える。
「魔族が攻めてきたんだ。
骸骨やゾンビ共が東門から押し寄せてきて大変なことになってる。
俺は街の中央にいたんだが、黒い悪魔まで出てきやがった。
軍が戦っていたが、とても刃が立ちそうに無い相手だ。
ここまで逃げてこられたのが奇跡だ。」
死霊系の魔物は呪術を得意とする魔術師が瘴気を元に作り出す。
自然発生することもあるが、大量に押し寄せてくるような数なら意図的なものだろう。
魔族には呪術を得意とする種族がいる。
そして街に漂う瘴気。
通常、いきなり街を瘴気が覆うことなどあり得ない。
なにか仕掛けがあるのだろう。
男が話を続ける。
「君と同じぐらいの歳の子供が戦ってたんだ。
えらく強かったけど、さすがに今頃・・・。
自分が情けない。」
「子供というのは?」
「冒険者のようだった。
二人は君と同じぐらいの歳で、もう一人はそっちの娘と同じぐらいだ。」
男はエリッタの方を向く。
8歳前後が三人で、もう一人が15歳ぐらいか。
人のことは言えないけれど、無謀なパーティがいたものだ。
「だいぶヤバい状況だな。
でも加勢するつもりなんだろ?」
エリッタが言う。
「はい、危険ですがみんな力を貸してくれますか?」
ここに来て逃げるという選択肢は無い。
「是非もありません。
お供します。」
メリクル神父は同意した。
「ご指示に従います。」
僕達は戦闘準備を整え、街の中央へと進んだ。
男が目撃した黒い悪魔というのは、召喚された悪魔の可能性が高い。
人間の魂を引き替えに召喚する上位の魔物だ。
僕達でどこまで戦えるかは未知数だ。
僕は覚悟を決めて突入する。
しかし街の中央は、激しい戦いの跡が残っているだけだった。
いるのは怪我の治療を受けている兵士や冒険者だけで、敵はどこにもいない。
治療を受けて休んでいる冒険者に話を聞いた。
「ここに黒い悪魔が出たと聞いたんですが。」
「また、子供の冒険者か。
あの悪魔なら、子供の冒険者パーティーが倒していった。
お前、彼奴等の仲間なのか?
尋常じゃ無い強さだったぞ。」
既に悪魔は倒されていたらしい。
無双パーティーが先行して戦ってるみたいなんだけど、いったいどうなっているんだろう。
僕達は中央から西へと向かう。
そこは激しい戦場と化していた。
兵士達が中央への道を塞ぎ、骸骨やゾンビの侵入を防いでいた。
さらに冒険者達も加わり、激しい戦いとなっていた。
後方では教会の司祭達が負傷者の治療をしている。
戦場をざっと見渡したが、噂の子供パーティーは目に付かなかった。
僕達は加勢するため封鎖ルートを通してもらった。
子供の僕があっさり通されたのは、既に前例があるからなのだろう。
凄まじい数の骸骨やゾンビ。
僕達の戦いはこれから始まろうとしていた。
子供パーティー無双が始まっていたらしい。




