63 中世のような忠誠
僕は立っているのも限界だったので、手近な岩の上に腰を下ろす。
落石が心配だったけれど、どっちにしても身動きがとれない。
ローブの魔族ブリゲアンが僕にポーションらしきものを差し出す。
「こちらをお飲みください。
体力の回復薬でございます。」
紫色で怪しいことこの上ないが、僕はそれを受け取る。
もしブリゲアンが僕に何かしようと思えば、今の僕ではどうにもならない。
疑うだけ無駄だ。
僕はポーションを飲み干す。
すると痛みが少し引いてきた気がする。
「痛み止めと治癒の促進効果がございます。」
僕はポーションを飲み干す。
すると痛みが少し引いてきた気がする。
「あちらを片付けて参ります。
しばらくお待ちを。」
そう言うとブリゲアンは巨大クルタトルの方へ向かった。
しばらくすると何をしたのか分からないが、クルタトルの動きがぴたりと止まった。
その間に僕は治癒魔法をかける。
擦り傷や炎症が治癒されていく。
体の芯に鈍い痛みが残るが、そこまでは治療できない。
ブリゲアンは戻ってきた。
「私が治療して差し上げればよろしいのですが、治癒系の魔法は苦手としておりまして。
申し訳ございません。」
何度も頭を下げるブリゲアン。
すっかり口調も変わっている。
「あの洞窟ってあなたが造ったんですか?」
「はい、一年ほど前に。
岩を削り取るのが上手い魔物がおりまして。」
「そして巨大クルタトルを養殖していたんですね。」
「その通りでございます。
さすがは魔王のご子息、聡明でございますね。」
「元魔王でしょ。」
「いえ、私にとって魔王はアストレイア様ただお一人。
その誓いは未だ変わってはおりません。
もちろんあなた様が魔王になられるというのであれば、絶対の忠誠をお約束いたします。」
「根本的にあなたの目的は何なんですか?
母の命令で動いていたらしいけど。」
「はい、アストレイア様から承ったご命令は、神の遺跡の封印の解除でございます。」
「封印を解くと神がこの世界にやってくるというやつだよね。
何だって魔族がそんなことを。」
魔族が神を呼び寄せても、メリットがあるとは思えない。
自殺でもしたいのだろうか?
「理由までは伺っておりません。
弟君のグレバーン様は反対しておられました。
しかし命令は絶対、私はそれを守るだけでございます。」
「賢者の杖の件は?」
「あれも封印を解くためでございます。
封印を解くにはいくつか方法があり、賢者の杖はその方法の一つで使用するものにございます。」
「なるほど。
でも、封印を解く理由は分からないのか。
それで賢者の杖は今どこにあるの?」
「現在は帝国に。」
「ええ!なんでそんなところに。」
「封印を解く為、それが可能な人物の手に渡るように手配いたしました。」
「ちなみに僕の頼みで封印解除を保留にするっていうのは出来る?」
「もちろんでございます。
今後は・・・ええとお名前をそのままお呼びしても?」
「構わないよ。」
「では、今後オキス様のご指示に従います。」
「それと、ここにはどうやって来たの?」
「上からでございます。」
僕は上を見上げる。
30メートル級の絶壁がそこにはあった。
「風の魔法を使えば、登り降りにはそれほどの苦労はございません。
いつもは洞窟を通ってくるのですが、普段は聞こえない音がしたもので直接。」
「そうか。
じゃあいったんここから立ち去ってくれる?」
「村までお送りいたします。」
「いや、たぶん仲間が助けに来るから。
一緒にいるところを見られるとマズい。」
「そうでございますね。
では、名残惜しいところですが、お先に失礼いたします。
後ほどお会いしましょう。」
そう言うとブリゲアンは軽々としたステップで絶壁を登っていった。
少なくとも僕より遙かに魔法に長けている。
僕はジョーカーを引き当てたようだ。
ついに指示出し無双か。




