58 ベアーだべあ
洞窟に入る前に一つやっておくことがある。
「洞窟に入る前に魔力感知をしてみます。
特に反応が無かったら別の場所を探しましょう。」
「へえ、そんなことも出来るんだ。
で、どうなの?」
エリッタが結論を聞いてくる。
「ちょっと待ってください。
集中しないといけないので。」
さすがにそんなにすぐには無理だ。
僕は洞窟の中に向けて魔力感知を発動させる。
修行でやっていたときと違いノイズが多い。
至る所で細かい魔力の反応がある。
その中で密度の大きい物を探す。
「ありました。
数は少なそうですが。
とりあえず行ってみましょう。」
僕達は洞窟の奥へ進んだ。
この洞窟はそれほど大きくは無い。
しばらく進んでいくと、感知に反応があった場所に達した。
その周囲を探してみると、ピー玉程度の大きさの魔晶石が3つ見つかった。
僕は魔晶石の魔力を測ってみる。
「高純度かどうか微妙なラインですね。」
残念ながらそれほど上質では無かった。
「だが、魔力感知のおかげで簡単に見つかったな。
この調子で次へいこう。」
「楽ちんだね。」
魔力感知が無いと、魔晶石を探す作業はなかなか大変なのだという。
師匠に感謝しておこう。
地図に書いてある次の洞窟を目指す途中に巨大な熊を見つけた。
大きさは3メートルほどある。
「あいつはグラベアだ。
熊が瘴気で巨大化した魔物だ。
出来ればやり過ごしたいところなんだが。」
僕達はいったん茂みに隠れる。
グラベアは僕達の気配を感じたのか、ひたすら臭いをかぎ回っている。
そして少しずつこちらに近づいてきている。
「これはやっちまった方が早いね。」
エリッタが鉄串を構える。
「ああ、やるか。
俺が出る、準備は良いか?」
エランは大剣に手をかけた。
「大丈夫です。」
僕が応じる。
「オッケー、いつでも良いよ。」
エリッタは横方向へ移動した。
エランが大剣を抜きグラベアの方へ進む。
僕は火炎球の魔術構成を編み始めた。
グラベアはエランに気がつき突進する。
エランは大剣で牽制しつつ、少し距離をとる。
突進に失敗したグラベアは立ち上がり腕を上げた。
エランに爪を振り下ろす・・・。
「グギィィ」
グラベアが痛みで叫び声を上げた。
爪を振り下ろしきる前にグラベアの肩に、エリッタの鉄串が突き刺さったのだ。
間を置かず次の瞬間、グラベアの足の付け根に大剣が振るわれた。
グラベアは体勢を崩した。
エランはそのまま後ろへ回り込み距離をとる。
僕は火炎球の魔法を放つ、そしてグラベアに吸い込まれるように接触した。
プシュッという若干情けない音がして、グラベアが炎に包まれる。
爆裂型では無いのでエフェクトがイマイチだ。
僕は次の魔術構成に入る。
グラベアは炎に包まれ、その場で暴れ出した。
後ろに回り込んでいたエランが背中に大剣を打ち込む。
グラベアの腹に大剣が生えた。
そこにエリッタの鉄串が打ち込まれていく。
エランがグラベアに足をかけ、大剣を思いっきり引き抜き距離をとる。
血を吹き出すグラベア。
それから少し時間をかけたが、僕が爆撃球を打ち込む。
爆撃球は火炎球より威力が高いのだけれど、そのぶん魔術回路を編むのに時間がかかる。
爆撃球はグラベアの頭に命中し、大きな爆発音が発生した。
頭の肉片が周囲に飛び散る。
ちょっとしたスプラッターだ。
グラベアは倒れた。
少しの間だけ痙攣を起こしていたが、今は完全に動かない。
「やったな。
オキス、初陣にしては見事なタイミングだった。」
エランがグラベアの状態を確認しつつ言う。
「けっこう緊張しましたよ。」
緊張のせいだろう、喉がからからになっている。
「アタイの出番がもう少しあるかと思ったのに、アッサリだったね。」
エリッタはいつも通りな感じで平然としていた。
そういう気質なのか、経験によるものなのか。
鉄串がなかなか抜けないのか、うんうんうなりながら回収していたけれど。
「グラベアがいるという話は村では言っていなかったな。
注意していくぞ。」
エランが注意を促す。
僕達は他の魔物がいないか警戒し、少し休憩を取ってから次の洞窟へ向かうことにした。
パーティー無双だった。




