53 ばっと抜刀する
シスターがハルデオン神父に装飾も何も無いシンプルな直剣を渡す。
そしてそれを僕に差し出す。
剣は鞘に収められている。
「どうか、その剣を抜いてみてください。」
僕は剣を受け取った。
「あの、これを抜いたらどうなるんですか?」
そう質問してみたのだけれど、
「まずは抜けるかどうかです。」
という答えが返ってきた。
仕方が無いので鞘と柄に手をかける。
そして引く。
鈍い光を放つ刀身が姿を見せる。
あっさり鞘から抜けた。
「抜けましたが、この後はどうすれば?」
天に翳すと光り出したりするんだろうか?
「実はその剣は模造品でございます。」
神父がそう言った。
え、模造品ってドッキリだったの?
この世界の教会って遊園地のアトラクションみたいなことをするんだろうか。
「本物はオブリエン帝国のエリッセン大聖堂に納められております。
オキス様には大聖堂へ赴かれますようお願い申し上げます。」
神父の態度が仰々しくなった。
「でもこれは本物では無いんですよね。
いったい何の意味があったんですか?」
さっぱり意味が分からないので、聞いてみるしか無い。
「模造品であるが故に確実とは言えませんが、勇者を選別する効果はございます。
本物を世界中に配ることは出来ませんので、近い効果を発揮する聖別を置いているのです。
そして今までこのカンド聖堂において、模造品とはいえその剣を抜くことが出来た者はございません。
このようになったからには、大聖堂の剣を抜いていただかなければなりません。」
どんどん話が進んで行ってしまう。
「いきなりそんなことを言われても。
師匠とも相談しないと。」
このままだと帝国の大聖堂に連れ出されかねない。
とにかく神父には落ち着いてもらいたい。
「師匠とはどなたでございましょう。」
「クルデウス卿です。」
「なんと。」
神父は驚きの声を上げた。
試しの剣の模造品を抜いたときより驚いてないか?
「分かりました。
グレッセン大司教を経由してクルデウス卿に相談させていただきます。
そのような手筈でよろしいでしょうか?」
「はい、それでお願いします。」
話はまとまったので、これ以上引っ張られないように撤退しようと踵を返した。
「すげぇ、試しの剣を抜いちまったのかよ。」
声の方を見ると、赤みがかった髪をした少女が立っていた。
年は15歳前後だろうか。
見るからに冒険者という風貌をしている。
僕と目が合うと話しかけてきた。
「アタイはエリッタ。
見ての通り冒険者さ。
柄にも無く祈ってみようと聖堂に立ち寄ったら、勇者誕生の瞬間に立ち会えるなんてね。」
だいぶ興奮しているようだ。
「僕はオキスと言います。
ええとエリッタさん、まだ僕が勇者と決まったわけではありませんよ。」
「何言ってるんだ。
アタイも昔無理を言って試しの剣に挑んだけど、渾身の力でびくともしなかったんだから。
アンタは絶対勇者だよ。
それとさん付けはいらない、エリッタでいいよ。」
羨望の眼差しで僕を見ている。
ふとエリッタをみて思ったんだけど、初対面では無い気がする。
「どこかで会ったことがありましたか?」
僕がそう聞くとエリッタは答えた。
「街で擦れ違ったことぐらいはあるんじゃないか?
これも縁だ、何かあったら協力するから遠慮はするなよ。
じゃあアタイは野暮用があるから、またな。」
そういうと去って行った。
祈りに来たんじゃ無かったのだろうか?
とにかく僕は師匠の元へ報告に向かうことにした。
そして後になって僕も祈り忘れたことに気がついた。
仮勇者無双なのか?




