51 魔導力でもまあどうですか?
相も変わらず、魔法と体術の修行に明け暮れる日々が続く。
そして僕は七歳になった。
僕の発明品に関して、師匠はジェイソン所長ほど興味を抱かなかった。
魔道具や魔法に対して圧倒的な知識を誇る師匠にとって、重要性が低いと判断されたようだ。
僕自身あまりおおっぴらにして、再び師匠に突っ込まれたくは無いので、研究は個人的にやっていこうと思う。
体術の訓練はエムストロム教官が教えてくれている。
年齢は66歳、以前は王国の将軍をしていた人物だ。
師匠はさすがに国政に関わる仕事をしているだけあって人脈もすごい。
ちなみにエムストロム教官の風格は、戦場に出れば未だに一騎当千で活躍しそうな感じだ。
巧妙に本性を隠している師匠とは違い、威圧感が体からあふれ出ている。
戦場で出会ったら、踵を返して逃げ出したいところだ。
そして訓練も厳しい。
まずは徹底的に筋トレや柔軟の基礎トレーニングと受け身を繰り返した。
受け身では、結構良い勢いで吹っ飛ばされる。
しかし僕は知っている。
口では厳しいことを言っているけれど、僕が体をすりむいたり打撲の後が出来ると、ちらちら心配そうに見ているのだ。
どうやら教官は僕と同じくらいの年齢の孫がいるらしい。
それでも訓練の内容で手を抜いたりはしないけれど。
教官に神の残滓の使い方を聞いてみた。
「あれは何年も修練を重ね、その先にたどり着いたときに初めて使えるようになるものだ。
一朝一夕に身につくものでは無い。」
というお言葉が返ってきた。
僕は転生前に古武術をかじっていたおかげで、メニューの消化が早いようだ。
予定のメニューをこなしたところで教官に神の残滓の基本を見せてもらった。
教官は生命力を体に強く注ぎ込んで、身体能力の強化を行った。
なるほど力の動きは分かった気がする。
試しにやってみた。
・・・僕の身体能力が上がった。
走る速度やジャンプ力が二割程度の上昇。
僕が喜んでいると、教官が渋い顔でこう言った。
「おい、それは神の残滓では無いぞ。」
え、違うの?
気のせいだったのか。
「神の残滓は生命力と精神力で行うものだ。
お前が使っているのは魔力だ。」
魔力だったらしい。
「魔力でも神の残滓と同じようなことが出来るんですか?」
「普通は出来ないぞ。
しかし、ごく希に強力な魔導を持っている者が扱えるという話しは聞いたことがある。
魔族であれば使ってくる奴は珍しくは無いのだがな。
だが、細かいことに関して私は専門外だ。
クルデウス卿に聞いてみるといい。
それとこれから私の訓練中にそれを使うのは禁止だ。」
禁止されてしまった。
そうか魔族だとこうなるのか。
ということは魔族は神の残滓は使えないのだろうか?
教官は態度には出していないが、僕のやったことに驚いているようだ。
最近感じ取れるようになってきたのだけれど、心の動きを捕らえるのは魔王種の特殊能力なのだろうか?
ちなみに師匠に今回の件を聞いてみたら、僕の能力は魔導力と言うらしい。
そして残念ながら師匠は魔導力を扱えない。
魔導力は体中に強力な魔導を張り巡らせている者だけが扱える希有の能力だ。
単純に魔法を使うのには全身に魔導は必要ない。
しかし使える人間を知っているので、いずれ紹介しようという話だった。
師匠は魔導力は扱えないが、神の残滓は使えるとのことだ。
さすがは元冒険者。
話は全く変わるのだけど最近、頭の中でかすかに何か声が聞こえる気がする。
どこかで聞いたことがある気がする声だ。
僕の魔法スキル向上と共に何かが近づいている。
今のところハッキリ分からないので、幻聴と言うことにしておこう。
魔導力で無双が出来るかもしれない。




