42 また誘拐って言うのかい
僕は許可を得て証拠品の再確認を行った。
思った通りの結果が出た。
さて、あとは師匠から話を聞くだけだ。
僕が師匠の元へ戻ると、既にお茶を用意がされていた。
恐ろしいほどに全てお見通しのようだ。
「ご苦労だったの。
それで何を聞きたい?」
何を質問するかも知っているんだろうな、この人は。
「この青いペンダントのことです。
ジェイソン所長にも渡していますよね?」
師匠は昔のことを懐かしむかのように答えた。
「ふむ、確かにジェイソンにも渡しておる。
あれからもう二十年以上も経つとは、時の流れは早いものよ。」
所長は独身だ。
つまり何らかの事情で別れることになったのだろう。
「続けて聞きますが、ジェイソン所長はその後、誰にペンダントを渡したんですか?
もちろん知っているんですよね。」
「ジェイソンには恋人がおってな。
エイニアという名じゃ。
彼女と結婚の約束をしたときに渡したと、ニヤついて報告しに来おった。
その先の顛末についても聞きたいのだろう?」
「はい、お願いします。」
当時助教授だったジェイソン所長は、彼女との結婚も間近、教授になるのも間違いないと順風満帆だった。
しかしエスファーン記念大学の教授選の当日に、エイニアさんが誘拐されてしまったのだ。
大学の規定で教授選当日は必ず大学にいないと、選考から外されてしまうと言うのがあるらしい。
そんなことは顧みず、ジェイソン所長は何の迷いも無く大学から抜け出し、彼女を捜し回った。
師匠は冒険者仲間だったエリザさんに協力を頼み、最終的に無事ジェイソン所長の彼女を救い出すことに成功した。
誘拐の実行犯はエリザさんによって全員捕縛された。
実行犯の取り調べが行われたが、誰かに依頼されたということしか掴めなかった。
当時の状況から、一番怪しいのは候補から外されてしまったジェイソン所長の代わりに教授になったエムルライド氏だ。
しかし何の証拠も出なかったため、物言いを付けることは出来なかった。
その後、彼女を自分のせいで危険な目に遭わせたと思った所長は彼女と別れた。
上京していた彼女は、自分の両親が住む田舎へ帰った。
「エイニアさんはその時、妊娠していませんでしたか?」
「ジェイソンからは何も聞いておらん。
当時は何も知らなかったのだろう。」
師匠は聞いていないとは言っているけれど、知らないとは言っていない。
当時の黒幕も現在の状況も、全て把握しているんじゃ無いだろうか。
その後、病を患った彼女は専門の医者にかかるため、娘と共に再び上京してきた。
「ちなみに師匠は彼女の子供が娘で、ブラニカという名前だというのもご存じですよね。」
「ほう、子供がブラニカというのはどうしてそう思った?」
「彼女は青いペンダントを身につけていました。
そしてジェイソン所長にだけ、余所余所しい態度をとっていました。」
僕は最初にブラニカさんに出会ったときの事を思い出す。
ジェイソンさんの名前を出したときの彼女の表情を。
「二年前にエイニアが上京して来た時、ジェイソンは彼女のことにすぐ気がついたようじゃ。
ジェイソンは不器用な奴での。
結局エイニアには会いに行っておらぬ。
気付かれぬように手を回してエイニアを治験扱いに偽装し、医療費の援助をしておった。
そして取引先に頼んで娘に仕事を斡旋したのじゃ。」
きっちり調べ上げているよ、この白髭の人。
「師匠、ありがとうございます。
必要なピースは揃いました。
準備が出来たら関係者を集めたいと思うのですが。」
「ヌシに任せた件じゃ。
好きにするが良かろう。」
白髭の老人はにこやかに答えた。
エリザさんの冒険者仲間という時点で、この人も色々なベクトルで化け物に違いない。
僕はこの事件の幕引きの準備に取りかかった。
なんでもお見通し無双の人がいた。




