38 気がついたら弟子でした
事件があってから一夜明けた。
研究所はまだ閉鎖中で先輩との面会もさせてもらえなかった。
やることが無くなってしまった僕は、図書館へ行く気も起こらず、天気も良いので公園を行くことにした。
さすがに歴史ある王国の首都だけあって、とても良く整備されている。
シンプルながらもよく見ると意匠を凝らした噴水、植えてある草花も目を楽しませてくれる。
僕がこの街に来てからは、研究所、宿舎、図書館、飲食店をぐるぐる回っていた気がする。
飲食店は美味しいところを、先輩の案内で一緒に回ったりしていたのだ。
そんな生活はやることが多く、そして楽しくて。
まさかこんな形で終わりを告げるとは思わなかった。
僕はベンチに腰掛けると空を見上げた。
太陽がまぶしかったので目をつぶった。
「君、ここに座っても良いかね。」
声がしたので目を開けると、杖をついた優しそうな老人が立っていた。
「どうぞ。」
僕がそう答えると、老人がゆっくり座った。
白い髭を蓄えたサンタクロースのような老人だ。
「君は年はいくつかね。」
「六歳になります。」
「ほう、学校はどうした?」
「僕は学校へは通っていません。
田舎から出てきて、伝手でジェイソン魔術研究所でお手伝いをさせてもらっています。」
「そうか、大変だのう。
学校へ通いたいとは思わないのかね。」
「そういうのも良いかもしれませんが、研究所の仕事の方が楽しいと思います。
だから今のままで満足ですよ。
今のままで・・・。」
僕は昨日の事件の事を思い出した。
そう、昨日までは満足だったのだ。
「私も少々立場のある人間でな。
研究所の方で不幸があったのは知っておる。
大変だったの。」
「気持ちの整理をつけたくてここに来ました。
未だに信じられない気持ちでいっぱいです。」
「整理はつきそうかの?」
「残念ながら。
事件の真相が分かるまでは無理だと思います。」
老人は心配している表情をしつつ、優しそうな目で僕を見た。
そしてあることに気がつく。
青いペンダントだ。
この街での流行なのだろうか?
僕がペンダントを見つめていると、それに気がついた老人が言った。
「これは同じものを弟子達に授けておってな。
幸運を招く石だから、いずれ大切な人が出来たらその人に渡しなさいといっておる。」
そしてその青い石のペンダントを僕に差し出し言った。
「私の元へ来い、オキス。
そして共に今回の事件の真相を明らかにするのじゃ。
ヌシのことはジェイソンから聞いておる。」
そして老人は白い髭を撫でながら言った。
「言い忘れておったな。
私の名はクルデウス、この国の宮廷魔術師をしておるものじゃ。」
僕は手を伸ばすと、青いペンダントを受け取った。
真実の断片を掴むために。
迷探偵無双が始まってしまうのか。




