37 放火を裁くのは法か?
ジェイソン所長が死んだ。
重要参考人としてテイラン先輩が連れて行かれた。
僕が図書館から研究所に戻ったらそういうことになっていた。
意味が分からない。
研究所は機密データを扱う都合上町の警備兵ではなく、王宮がらみの査察官が動いているようだ。
僕も事情を聞かれたけれど、さっぱり分からないから答えようなど無い。
二人とも研究熱心で仲も良好だった。
まったく状況がつかめない。
査察官の人からは情報を得られなかったので、他の所員から経緯を聞いて回った。
話を総合してみる。
僕が図書館に抜け出している間に所長に来客があった。
王立大学の教授エムルライド氏だ。
僕は氏とは直接会ったことが無い。
所長と同じく氏は研究発表会に参加するので、その打ち合わせだったのだろうか。
それほど長くない時間話した後普通に帰り、その時所長は健在だったのが確認されている。
その後事件が起こる。
所長が魔銃によって腹部、おそらく内臓を貫通して失血死。
研究室の一部が延焼、放火の可能性が高いらしい。
そしてその場にいたのがテイラン先輩だ。
事件後、報を受けてやってきた査察官が尋問したのだけれど、先輩は黙秘を続けたらしい。
一番高い可能性は事故だ。
故意に所長を殺す理由が無い。
けれど先輩が黙秘する理由がさっぱり分からない。
それと研究室が延焼した理由も分からない。
魔銃から炎は出ないし、玉が当たって発火するような物も置いていないはずだ。
直接先輩から話が聞きたかったけれど、連れて行かれてしまったのでそれも叶わない。
研究所は検分が終わるまで閉鎖されることになった。
現場を見ることも出来なくなってしまった。
今日は宿舎に帰るしかないようだ。
僕が研究所から宿舎に帰ろうと歩き始めると、そこにはブラニカさんが立っていた。
顔面蒼白で今にも倒れそうな感じだった。
「ブラニカさん、大丈夫ですか?」
僕がブラニカさんに話しかけると、はっとした表情で僕を見た。
「テイランが連れて行かれて・・・。
彼は絶対に無実よ。
どうすれば・・どうすればいいの?」
ブラニカさんは研究所で注文を受けた帰りだったようだ。
テイラン先輩が査察官に連行される現場を見てしまったらしい。
彼女は自分の服をぎゅっと握って不安を押さえ込もうとしているようだった。
「落ち着いてください。
僕も先輩は無実だと思っています。
どんな事情があるのかはまだ分かりませんが、誤解は必ず解けるはずです。」
「そうね、そうよね。
私がしっかりしないと。
母の容態がちょっと悪くなっちゃってね、それと重なって駄目なところを見せちゃったわね。」
そう言ってブラニカさんは無理矢理笑顔を作った。
「あの、送っていきましょうか?」
「大丈夫よ。
オキスもこんな事があって大変でしょ。
今日は早く休んだ方が良いわ。」
そういうとふらついた足取りで帰って行った。
精神的にかなり疲弊しているのが感じ取れた。
僕が宿舎に帰るとステラさんに心配されてしまった。
相当酷い顔をしていたようだ。
自分では冷静なつもりでいたのだけれど、実際はそうで無かったらしい。
ブラニカさんにも逆に心配をかけたのかもしれない。
こんな時でもステラさんの作った食事はしみるほど美味しかった。
鬱展開無双は勘弁して欲しい。




