33 電球の研究
研究所通いの生活が一週間ほど過ぎた。
ジェイソン所長の研究はおおむね順調に進んでいる。
魔銃の開発だ。
転生前の知識を元に助言すると、その度にそんな発想があるのかといちいち驚かれた。
パーツを各部署が製造しつつ、試作モデルに向けて準備が進行している。
僕は僕でちょっとした研究を進めている。
まずは電池の製造だ。
ここは研究所だけあって、一通りの資材が調達できる。
プラチナなどは魔法世界でも科学同様に触媒の役割を果たすようだ。
金属と電解に使える水溶液も各種入手できるので、作るのは簡単だった。
そのうち燃料電池とかを作るのもいいかもしれない。
次は電球の製造だ。
フィラメントを作るための硫酸の生成や各種繊維が容易に入手できたので、炭素電球の開発もあっという間だ。
たいした苦労もなく科学の光が照らされた。
今度は竹炭を調達しておきたい。
先輩に見せると、こんな短時間でどういう疑似魔術回路を作ったのか聞かれた。
疑似魔術回路を作るには、かなりの時間と労力がかかるのだ。
僕はざっと電球と電池の原理を説明した。
先輩はさっぱり理解していないようだ。
所長はこれを見て、難しい顔になった。
いろいろマズイらしい。
たったこれだけの内容が、今までの常識を覆してしまうものなのだ。
研究は続けていいが、絶対に外部には漏らさないことを約束させられた。
研究所の所員であっても、所長と先輩以外の人間には秘密にするようにと。
さらに身辺には気をつけるようにと何度も念を押された。
「エリザ様はとんでもない子を私の元へ寄越したものだ。」
所長は、小声でぼそっと呟いた。
先輩の手が空いた時間に魔術回路の編み方のレクチャーを受けた。
僕は魔力量がそこそこあるので、実践的に練習をすることができる。
おかげで汎用命令による回路の組み方が少しずつ上達していく。
一般的な見習い魔法使いは練習を始めると、魔力量とコントロールの問題から、あっという間に魔力を使い果たしてしまう。
そうしたら早くて一日、場合によっては数日空けないと魔力が復活しない。
だからなかなか上達しないのだ。
レクチャーついでに、精神系の魔法について聞いてみた。
先輩はそういう魔法があるのは知っているが、使うことができる人には会ったことがないということだ。
「精神系の魔法は複雑すぎる。
魔力を炎に変化させたりするのとは全く次元が異なるんだ。
人間の心に直接影響を与えるためには、凄まじい量の魔術回路を編まなければならない。
いかに君が天才でも、さすがに無理な分野だよ。」
という話だった。
やっぱり使えないことにしておいた方が良さそうだ。
魔王種の得意な精神魔法、最初のうちは使い物にならないと思っていたけど、そうでないことが今は理解できる。
使いようによっては恐ろしい効果を生むのだ。
最近工作にハマり始めたので、次は通信機でも作ろうかと思う。
モールス信号を飛ばす程度なら、作るのは簡単だ。
そういえば魔法で通信って出来るのか聞いてないな。
科学無双が始まるといいな。




