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263 酒は避けよう

 男は剣を抜いた。

 僕の心臓めがけて素早く、そして正確な突きを繰り出す。

 貫かれる心臓、男は勝利を確信する・・・が、驚愕の表情に変わる。


 剣に手応えが無いからなのか、貫いたはずの僕の姿がかき消えたからなのか、恐らく両方だろう。

 すでに勝負はついている。

 さっき、精神魔法幻惑を男にかけていたからだ。

 僕はボロ剣を抜き、男の首筋に添える。


「施設ガイドを雇いたいと思っていたところなんだ。

 お願いできるよね。」


 僕の言葉に男が冷や汗を(したた)らせる。

 男は素早くステップを踏むと、間合いを取り、僕の首をめがけて剣を振る。

 正確で良い一撃だ。

 僕は左手の指で男の剣を摘まむと、右手の剣を男の目の前に突き立てる。


「っく。」


「さあ、案内を初めてくれないかな。」


「中に入ったら・・・タダで帰れるなんて思わないことだ。」


 そう言うと、男は建物に向かって歩く。

 僕は剣を鞘に収めた。

 男がチラッと僕の顔を見たが、再び戦う姿勢は見せなかった。

 力の差を十分理解したのだろう。

 理解できない力の差と言った方が正しいのかもしれない。

 昔の僕も、理解できない力の差に何度も苦しめられたから、気持ちはよく分かる。


 僕達は建物に入った。

 倉庫のような施設だった。

 箱や樽のようなものがたくさん置いてあるが、このフロアに人の気配は無い。

 しかしこの臭い・・・何か記憶にあるような。


 男は倉庫の奥へ進むと、物陰に隠れるように設置されていたレバーを引く。

 ゴゴゴという音とともに、床が動き出す。

 ある意味レトロな仕掛けだが、実はこの構造を作るのはかなり手間がかかる。

 いったい誰の趣味なんだろう?


 男はそのまま地下の方へ歩いて行く。

 地下は巨大な樽がいくつも設置されていた。

 そこに幾人もの人間がせっせと仕事をしている光景だった。


「サブさん、お疲れ様です。

 そちらの方はお客様ですか?」


 地下で働いているバンダナを巻いた少年が、男に声をかけた。

 どうやら先ほど戦ったこの男はサブというらしい。


「・・・悪魔払いだ。」


 サブが言った。


「え?」 

 

 バンダナの少年が凍り付く。

 同時に周囲がざわつく。


「マズいぞ。」


「サブさん、なんでやっちまわないんですか?」


「もうだめだぁ。」


 いろいろな声が聞こえる。

 気配を探る限り、サブより強そうな人間はこの中にはいないようだ。

 突然サブが土下座をする。


「どうか、見逃してください!」


 サブが床に額をこすりつけて言った。


「とりあえず調査してから考えるよ。」


 僕は中身を確認するため、樽に近づく。


「おほぉ、美味しい、ひっくぅ。」


 何故かジョッキのようなものを持ったアリスが、ふらふらしつつ何か飲んでいる。


「ちょ、何やってんの?」


「これ美味しいよ、ひっくぅ。」


 僕は急いで樽の中身を確認する。

 この臭い、やっぱり!

 日本酒、しかも桃のような香り、かなりの質の高さだ。


「まさか・・・これは。」


「すみません、悪魔の技術を使った酒です。

 すみません。」


 サブがひたすら謝る。


「タダでは帰らせません。

 こちらに持ち帰り用の樽を用意しますので、どうかご容赦ください。」


 なるほど、タダでは帰さないとはこのことか。

 ここは・・・化学兵器ではなく、密造酒の工場だった。

 しかも僕が異界の辞典から引っ張り出した醸造技術を使用している。


「ええっと、これは・・・どうしようかなぁ。

 ちょっとアリス、それ以上飲むな。

 悪魔払いとしてはスルー案件だけど、密造酒は違法だからここの領主には報告しないと。」


「そんなー。」


 サブが悲鳴を上げる。


 こうして今回の事件は幕を閉じる。

 ちなみにこの後、領主が工場を確認し密造酒を摘発。

 密造に荷担したメンバーは、通常であれば打ち首らしい。


 ところが酒の質が非常に良く、上手くすれば格好の資金源になるともくろんだ領主。

 監視下の元、酒の製造を続けることによって罪を減免するということになった。

 事実上、監禁された上に一生酒を造り続けることになるようだ。

 こうして裏酒場にしか流れていなかった日本酒が、この世界に流通することになる。


 最近はこんな無駄足ばかりなのだが、無駄で結構。

 平和で結構だ。


 それよりもあの事件の後、酔っ払ったアリスが一つの災害を引き起こすのだ。

 そちらの出来事の方がよっぽどマズかった。

 思い出したくも無い。

 本当に勘弁して欲しい。

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