260 やり過ぎた槍の人
「ジェイエル、あの人に見覚えは?」
僕は槍の人の事をジェイエルに聞いた。
「ある。
お前が世界を滅ぼすと予言したのはあの男だ。
アストレイアの城へ向かう秘密の道や、回復の泉を教えてもらったこともある。」
やっぱりジェイエルにも接触していたようだ。
「名前は覚えている?」
僕はさらにジェイエルに聞いた。
「いや。」
短くジェイエルが答える。
「ユニークスキル、認識阻害というところかな?
名前を記憶できないのは、その副作用というところか。」
僕は槍の人に向かっていった。
「まさか、今まで長いこと生きてきたが、気が付かれたのは初めてだ。」
感心したように槍の人が言う。
「なかなか、引っかき回してくれたよね。」
僕は言った。
「いやいや、俺は本当の事を伝えることしかしていない。
その結果、どう動くのかはそいつ次第だ。」
槍の人が平然と答える。
「僕の事を知っていて、冒険者に紛れたんだよね。
妙だったのはカイデウスさん達と話しても、何故かあなたの名前が絶対に出てこなかったことだ。
他にも色々なところで名前が出てこない人が、あちこちで話に出てきていたからね。」
「それだけで気が付いたと?
なかなか面白いな。」
「爺も当然この人のことは知っているんだよね。」
僕は爺に確認した。
「まさかこの場にいるとは思わなんだ。
もちろん知っていますとも。
古い世代の魔王種のお一人ですじゃ。
名前は・・・うーん。」
爺も認識阻害を受けているようだ。
「あなたの目的は?」
「俺は本当の事を教えて回っているだけさ。
その結果がどうなるのか、ただそれを見ているにすぎない。」
槍の人はニヤニヤした表情で言った。
「結果としてこの状況だけど?」
とうとう神の遺跡の封印は解かれてしまった。
これから神が押し寄せてくるだろう。
「俺が生まれた時は既に神がいなくなってたからな。
これから神様と対面するのも面白い。
それともお前さんが滅ぼすのかな?」
「もちろん戦いますよ。
その準備もしてあります。
レイネス近くの山でウランも見つかってますし。」
「ウラン?
この世界では使用履歴の無い、何の役にも立たない鉱石だな。
何に使うか知らないが楽しみだ。
是非近くで見せてもらいたいな。
それから俺のユニークスキルは認識阻害じゃ無い。
世界記憶の追従。
この世界の情報を引っ張り出す能力だ。
お前さんが言う認識阻害はそこから得た力の一つでしか無い。」
僕の能力に似た力。
そして全く別の力だ。
「俺の能力は異世界の力と相性が悪いらしい。
オキス・アグレトやアリス、ギスケに関わる情報が引っ張り出せないんだ。
だから近くで観察したりしてみたんだけどな。」
ふてぶてしく語る槍の人。
今は槍を持っていないので、正確には槍の人では無いんだけど。
「俺はこの世界では無敵だ。
相手にするだけ無駄だぞ?
お前は余計なことを考えずに神様と好きなだけ戦えばいい。
それにジブルトとの決着はどうするんだ、アグレト?」
たしかにこいつはどうにもならない。
悔しいが、今は関わっている場合では無い。
僕はジブルトの方を見る。
「先ほども言った通り、目的は果たしておりますですじゃ。
神とこの老いぼれの古き盟約は既に終わりですじゃ。
この後の神の所行を手助けすることは盟約には含まれておらぬのです。
あとは・・・レイネスの代表者であられるアグレト様のお好きなようにされれば良かろう。
実は先ほど老骨に鞭を打って働いてしまい、長年溜め込んでいた魔力もすっからかんの有様ですじゃ。」
大量のアークデーモン召喚はジブルトの仕業か。
「私もジブルトと同じく、お好きなように。
この方々に囲まれては転移する隙もありません。」
確かに、転移したところでアリスが時間を戻すだけだ。
セフリは転移に使っていたと思われる神の遺物を僕に差し出す。
さらに何やら記号を表示する装置も渡してきた。
「神の国から取り寄せた、神の遺跡の解除装置です。
今となってはもはや不要。」
僕はそれらを受け取った。
お取り寄せできるのか?
僕は二人の身柄を確保する。
槍の人は、いつの間にか認識できなくなっていた。
いいよ、ウランをどう使うか見たいんだよね。
いずれ見せてやる。
とにかく次の行動へ移ろう。
「残り一ヶ月。
神にアレが効くことはリーフが証明してくれた。
準備を進めよう、最後の戦いだ。」
こうして僕は、神を全てを滅ぼすまで続く戦いを始めることになった。
そしてこの世界は、異世界の人間という悪魔の力で滅ぶことになる。
無双故の滅亡が訪れる。




