253 希少な気象データ
現在僕は、魔領軍とクルセイダーズの交戦予定地域へ飛行船で移動中だ。
そんな中、エンプティモ周辺で待機していた偵察部隊から通信が入ってきた。
とうとう戦いが始まってしまった。
序盤戦は魔領軍が優勢のようだ。
しかしその状況は、後から覆されるだろう。
ジブルトは確実に罠を仕掛けているはずだ。
一刻も早く到着したい。
僕は外の景色を眺める。
遅くなった飛行船の航行速度に苛立ちが募る。
テイラン先輩が頑張って取り付けてくれた魔道具式エンジンだ。
感謝こそすれ、イライラするのはお門違いだと理性では分かっている。
けれど、どうしても自分の感情をコントロールしきれない。
オキスだった頃はもっと冷静だったはずだ。
ただの人間に戻ると、自分の感情のコントロールすら上手くいかないものなのか。
その不甲斐なさにますます苛立ちが増す。
「アグレト、気持ちは分かるが力を抜け。
勝負はこれからだ。」
飛行船に同乗しているジェイエルが、僕を見かねて言葉をかける。
「そうだよ。
まだ戦闘は始まったばかりだしさ。
間に合うよ、絶対!
もしアリスが危なくなっていたら、アタイが駆けつけて助けるから。」
エリッタが僕を励ましてくれた。
「・・・そうだね。
まだ間に合う。
今回は・・・全力を出す。
もう出し惜しみは無しだ。」
僕は偵察部隊に、現地の気象データ収集させた。
そして作戦を練る。
先行していた地上部隊が、交戦区域にかなり近づいた。
偵察部隊の情報を受け手、敵陣へ攻撃がとりやすい位置へと移動指示を出す。
「今回は化学兵器を使う。
攻撃目標地点と、それに伴って危険区域と注意区域を設定した。
情報共有を徹底させて欲しい。」
僕の指示にエリッタが息をのむ。
どのぐらい危険なものなのかは、動物に対する実験を見せている。
そこへ偵察部隊から新しい報告が入る。
クルセイダーズが大量のゴーレムを地中に忍ばせ、魔領軍を引き込んだところで奇襲したようだ。
それは魔領軍にとってかなりキツい。
レイネスの地上部隊の火力なら、ゴーレムを吹き飛ばす程度は造作も無い。
しかし魔法主体の魔領軍では、ゴーレムの相手はかなりきついだろう。
僕達はもうすぐ到着する。
それまでなんとか持ち堪えて欲しい。
到着目前、僕は双眼鏡を覗き込む。
そこには魔領軍の姿があった。
そしてクルセイダーズ達。
少し離れたところでは、レイネスの地上部隊がもうすぐ予定の配置に付くところだ。
そして交戦区域の中で一人の少女の姿を見つけた。
アリスだ。
間に合った、生きてる!
僕は胸が高鳴った。
今回は動悸では無い・・・よね?
いけると思った矢先、妙なものに気が付いた。
あれは雲・・・じゃない。
僕は・・・信じられないものを見た。
空の一部を埋めてしまう、おびただしい数の神鳥だった。
神鳥無双か。




